第11話 振り出しへ戻るのか?
ところで、ここに来て、何故、全てのオセロの駒が、今までと違い、全てが、白から黒へ、黒から白へと、ヒックリ変える事になるのであろうか?
その意味とは、ここから、急激に、話が急展開して行くからに外ならないからだ。
ここに、この話全体の、最大の謎が隠されているのかも知れないのだ。
徐々に、この謎は、これから開示されていくのであるのだが、正に、この「人杭村」=「人喰村」事件の、真実でもあるのだろうが……。
今までの話を、実は、この物語りの単なる序章とするならば、ここからが、いよいよ、ホントの本番の話なのである。
しかしながら、既に、今までの前半部分で、ホトンドの事実は開示されているのである。もうこれ以上の隠し事は、実は、もう一切無いに等しいのだ。
さて、では、これからの後半部分で、この狂気の一連の事件の謎は、イヨイヨ解明されていく事になるのであろうか?
まず、最初に、この一連の狂気の事件に、何処かが可笑しいと疑問を持ったのは、私の恋人である明菜ちゃん、本人であった。
彼女は言う。
「ねえ、純一さん。これまでの一連の事件を振り返ってみて、何か、特に、疑問に思う事は無いの?」
「いやあ、取り立てて、そうは思わないけどなあ。
今までの話を、極簡単に言い直せば、冬場に大雪で閉ざされた「人杭村」の住民が、吹雪の時に、紛れ込んで来た旅人を叩き殺して、「人肉鍋」にして食べるだけの事。
いわゆる「人杭村」=「人喰村」に関連する、その後の事件の、数数の連続じゃ無いの?
その実例として、
①「万能荘連続不同意性交殺人事件」。
②「大学生グループ人肉鍋殺人事件」。
③「幼女人肉食事件」。
と、次々と連続して起きたのでは無いのかい?
つまり、この、一連の事件にその全てが要約されているのでは無いの?
でも、明菜ちゃんは、一体、何故、そう言う事を、急に、言い出したのかい?」
「でも、とても気になる事がどうしてもあるのよ?」
「それは、一体、何なのです?」
「だって、純一さん。
この話は、全てが『人喰村伝説考』の話から、スタートしていた訳でしょう。
でも、この前の、「人杭村」の村長さんの意見を聞いても、決して、そのような事実、いわゆる「人肉食」の時代は無かったと断言していたわよね。
また、周辺の村で、あの魚釣りをしていた例の古老の話によっても、所詮、自分の亡き父親から聞いた話では、実は単なる「噂話」だと聞いていたとよ、とも言っていた筈だよね。
それで、よくよく考えてみたのだけども、もし、私らの慶早大学のミステリー研究会が、あの「人杭村」の『万能荘』に、その探検旅行に行っていなかったとしたら、果たして、学校のスクール・カウンセラーになりたい等と、殊勝な事を言っていた、佐藤萌は、あんな大事件を起こしていたと思う?
それに、あの日本海総合大学の学生二人にしても、結局は、故:林先生の遺作の『人喰村伝説考』に騙されて、「人杭村」に探検にやって来て、あんな無惨な事件に巻き込まれてしまったのよ。
でも、これって、最初の事件の原点でもあるのは、皆が、『人喰村伝説考』に、盲目的に踊らされていたからじゃ無いの?」
「確かになあ。私らが、あの「人杭村」に出かけていなけば、あの、少なくとも「万能荘連続不同意性交殺人事件」だけは、起きていなかったかもなあ……」
「そ、そ、そこなのよ。
純一さんは、生物の授業中に、生前の故:林先生から、自信満々で「人杭村」=「人喰村」の話を聞いているわよね。
でもね、ここが、最も重要な点だけど、②の「大学生グループ人肉鍋殺人事件」が起きた時に、県警は、「人杭村」の全村中内を、実に、くまなく捜査していた筈だよね。
でも、純一さんが、先生から聞いたと言う、中世の江戸時代頃初頭には既に勃発していたとされる「人肉食」を連想させる如何なる場所も、証拠も、発見出来なかったのよ。
虐殺された、日本海総合大学の学生二人も、同じように「人肉食」時代の痕跡を調査に来ていた筈なのよねえ……。
でも、何も探せないままに、あの、「人肉鍋」事件に巻き込まれてしまった。
つまり、ここまでは、一天の曇りも無い事実だよね……」
「そ、そ、そりゃ、明菜ちゃんの言う通りだよね。今、ここまでは、反論できる、あらゆる事実は存在しないのは、否定出来ないよなあ……」
「でしょ。でしょ。
だったら、ここからが、驚愕の反論にもなるのだけど、あの『人喰村伝説考』は、ホントに、真実を語っていたのか、それとも、青空精神科病院から、退院して間も無い自宅療養中の、故:林先生の、完全なる妄想や幻覚やせん妄の話だったとしたとしたら、この一連の事件は、果たして起きていたのかしら?どう思う?」
「な、な、な、何を、急に言い出すんだい。故:林先生に、仮に入院歴があったとしても、それに仮に1年間に及ぶ休職期間があったにしても、あの真面目な、故:林先生に限って、嘘八百を並べた著作を、ワザワザ高いお金をかけて、自費出版するとは、とても思えないのだが……」
「そう、もの凄く、真面目な先生だったとは、私も認めるわよ。
でも、当該著作の執筆期間は、何と青空精神科病院退院後の自宅療養中の期間なのよ。
万一、万一よ。
完全に症状が改善していなくて、自分の単なる妄想や幻覚やせん妄を、真実だと思い込んで、執筆していたとしたら、どうなのでしょうねえ?
今までの一連の話は、全部が最初から振り出しに戻るとは思わない?」
「そ、そりゃ、あの『人喰村伝説考』が、明菜ちゃんの言うように、完全な、妄想や幻覚やせん妄で書いたとすれば、如何に理路整然と書いてあっても、話は、根本的に違って来る事になってしまうけどさあ。
ただ、先生の教え子の一人でもあるこの私としては、急には、とても受け入れられない話だなあ……。
その根拠に、故:林先生は、既に、亡くなる30年以上も前から、この「人喰村」とも言われる「人杭村」に足を運んで、地道に研究してきたとも、この私自身が直接、生前の先生の口から聞いているしなあ……。
確かに、執筆期間中そのものは、青空精神科病院の退院直後だったかもしれないが、激務の職員生活の中で、逆に言えば、その休職中の間しか、その本をキッチリと執筆する期間が無かったのだと、別に、決して先生を擁護するのでは無いが、そう言う考え方には、無らないのかい?」
「そう言う優しい心で、恩師を擁護する、純一さんは、私は、大好きよ。
でも、でもですよ。
その、『人喰村伝説考』が、全くの、妄想や幻覚やせん妄の時に書かれたとすれば、今までの事件全てが、元の振り出しに戻るとは、思わない?」
「だからさあ、結局、いつまでも、堂々巡りになってしまうけど、この私には、あの『人喰村伝説考』が、単なる狂人の妄想や幻覚やせん妄の書物だとは、どうしても思えないのだよ。
明菜ちゃんがそこまで言うのには、何らかの根拠がある筈だよね。
一体、何故に、今までの一連の現実に起きた事件をも無視して、全てが、まるで、オセロの駒が、一瞬で、ヒックリ変えるような事を言い始めたのだと言うのかい。
では、今年の5月の連休(ゴールデンウィーク)に、二人して下見に行った、「人杭村」の『万能荘』への秘密旅行ですら、全てが、無駄だったと言う事には、なるので無いのかい?
この私には、それだけ、急に話を、ヒックリ返す根拠が見つからないのだが……」
「それはねえ、金田刑事が、この私宛に送って来た、Eメールに添付された、あの佐藤萌の卒業文集の最後の一行にあると思うのよ。
いい?
佐藤萌は、あの高校の卒業文集で、
「デモ、たまにフト、思うのだけど、この夢は果たして実現するのかなあ。
何故って、この私には、何故か分から無いけど、何処かの誰かに操られているような気がするのだけどなあ……ちょっとばかりだけど、心配だなあ?」って、書いてじゃない。
金田刑事のメールでは、この命令を下して佐藤萌を操っていたのは、元々「人杭村」出身の父親の影響が、最も大きいのだと、現在の警視庁では考えているみたいだったわね。
そりゃ、佐藤萌の父親の、佐藤彰は、この世にもおぞましい「幼女人肉食事件」を起こした張本人だから、異常な父親の教育の元で育った、佐藤萌があのような狂気の事件を引き越したとは、一概に否定はできないよね。
でもね。
根本的に、この私ら皆が、多分真実だと思い込んでいる、あの『人喰村伝説考』が、完全に、妄想や幻覚やせん妄に襲われて書かれていたとしたら、父親の佐藤彰の「幼女人肉食事件」も、やはり、誰かの、何かの、影響を受けていたとは、考えられない?
純一さんは、この大難問をどう思うの?」
「わ、わ、私は、故:林先生の言葉を信じるから、そうそう、そのような急激な考えには、急に加担できないけどなあ……。悪いけどもねえ。
明菜ちゃんは、では、誰が裏で糸を操っていたと思っているんだい?
私は、それを聞かないと、この急な仮説の変更には、賛同しかねるねえ……」
すると、明菜ちゃんは、意味ありげに、こう言い放ったのだ。
「それが、ある一点のみ、あるのよね。
勿論、これからの調査も、十分に、必要だけどもね」
と、今までの話の根底を、根本から、ヒックリ返す根拠を、どうも、明菜ちゃんは思い付いていたようなのだ。
だが、これ程の、大捜査や、私ら二人の懸命の調査によっても、びくともしなかった扉が、そう、簡単に開くものであるのだろうか?
そう、簡単に、問屋が卸してくれるのだろうか?
はてさて、この物語りは、ここ当たりから、急激に、変化していったのは、間違いの無い事でもあったのだが……。
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