第10話 大難問

 さて、日本中で話題沸騰中の、この、狂気の事件を、時系列に並べてみると、


①「万能荘連続不同意性交殺人事件」が、まず、最初に、勃発。


②「大学生グループ人肉鍋殺人事件」が、続いて勃発。


③「幼女人肉食事件」の勃発である。


 この内、刑事責任能力は、問えるかはどうかは、一旦、棚に挙げておいても、②と③は、実行犯は、既に逮捕されているのだ。


 無論、刑法や刑事訴訟法上の複雑な手続き上の問題は残るにしても、実行犯、つまり真犯人は既に、逮捕されていたのである。


 唯一、ハッキリしないのは、「万能荘連続不同意性交殺人事件」だけで、未だ、内部犯行説と、外部犯行説の議論が、警察内部でも争っていたのである。


 さて、「幼女人肉食事件」事件の後、約10日後、私と明菜ちゃんが同棲しているマンションに、あの北陸の現地でもお世話になった、警視庁捜査一課でも最高の頭脳を持つと言われる金田小五郎刑事が、訪ねて来てくれたのだ。


 私が、インターホン越しに、応対に出てみると、知った顔の金田刑事の顔があった。


 要件を聞くと、金田小五郎刑事は、明菜ちゃんに用事があると言う。


 目付きもそれ程、怖そうでも無かったので、早速、リビングに入って貰った。


 無論、彼が、やって来たのは、未だハッキリしない「万能荘連続不同意殺人事件」についての、最近の明菜ちゃんの意見を聞きに来た事は、間違いが無さそうだ。

 しかし、私も、当事者の一人として、この話には、顔を突っ込まない訳にはいかないのである。


 今日の明菜ちゃんは、今から出かけるところだったので、もの凄く綺麗に化粧をしていたし、今この瞬間に、仮にミス慶早大学コンテストが開催されれば、即、優勝するぐらいの美しさだったのである。


 金田刑事も男性だから、『万能荘』での彼女の印象とは、また、遙かに違って見えたらしく、金田刑事のほうが、彼女の美しさに気後れしているみたいに思えた。


 まあ、私にしてみれば、それぐらいのほうが、丁度、良かったのだろうが……。


「ところで、今日、私が訪ねて来たのは、現在でもどうしてもハッキリしない「万能荘連続不同意性交殺人事件」の事について、超秀才の明菜さんに、お知恵を借りにきたのです。


 まず、この事件の最初から、明菜さんは、佐藤萌が、この「万能荘連続不同意性交殺人事件」の影の真犯人だと、堂々と名言しておられましたね。


 勿論、外部侵入の様子がハッキリしないのは、当時からでしたが、貴方は、何故、このような、強姦殺人、今の法律で言う不同意性交殺人の犯人を、男性でも無い、本物の女性でもある佐藤萌だと思われたのですか?


 これは、一見、刑法学的には、実現不可能な「不能犯」該当事案なんですよ?」


 この質問について、明菜ちゃんは、ある意外な人間の名を挙げて、次のように、説明したのである。


「警視庁捜査一課の刑事さんは、大変にお忙しいでしょうから、多分ご存じ無いと思いますが、パソコンやスマホから読める、小説の投稿サイトに『カクヨム』と言う超有名なサイトがあります。

 運営は、あのKADOKAWAです。

 で、その中の、一投稿小説作家に、「立花 優(ゆう)」と言う、自称、推理作家がいます。


 この作家は、『アンチ・セーラームーン事件』とか『聖母マリア殺人事件』と言う推理小説を書いていて、『カクヨム』にも、投稿しています。

 勿論、『カクヨム』上では、全く、一般読者にはホトンド認められていませんが……。


 実は、私の親友から、随分、変な小説家がいるよって教えて貰って、この私も読んでいたのですよ。

 そしてその両方の小説共、強姦罪、いわゆる不同意性交罪を描いているのですが、【真犯人は共に女性だった】と言う、奇想天外な結末で終わっているのですよ。


 では、どうやって、女性が女性を、強姦殺人、いわゆる不同意性交殺人を行えたのか?


 それは、レズ用の男性型のアレを用いるとか、丸い木の棒の先にコンドームを被せて、女性のアソコに突っ込んで、この事件を引き起こすと言う、極簡単なトリックだったのです」


「明菜さんは、では、その「立花 優」と言う作家を、どのように見たり、感じたりしてましたか?」


「無論、只の、どうしようも無い三流作家だと思っています。作家としても、人間としても、クズやカスの部類に入る人間なんですよ。きっと……。

 もっと言うなら、完全なる変態作家なのです。


 何故なら、既に、一度は投稿後、あまりに変態的過ぎてその作品はもう削除はされていますが、彼の作品中で最も過激だった『ライ麦畑のプレデター(捕食者)』と言う作品があったのですが……。


 この私も、削除直前に、一度だけ読んだ事があります。


 いやはや、もの凄く変態的だった小説です。


 その小説の要約をすれば、かって大学の教授だったT博士が大学を辞職。

 その後、広大な米の耕作放棄地を借り切ってライ麦を5ヘクタール以上、この日本の北陸地方で栽培育成するのです。……つまり、ライ麦畑を作るのです。

 その中を、敢えて、自分の高校へ通う為、自転車通学する女子高生を拉致誘拐して、大型の医療用のベッドに両手両足を括り付けて、女子高生の後ろから無理矢理突っ込む、と言うもう超過激なエロ話小説なのです。


「お・ま・え・に、 う・し・ろ・か・ら、 入・れ・て・や・ろ・う・か!!!」って、文章は、今でも強烈で、忘れる事ができません。


 まるで、デーモン小暮閣下の、あの名曲の『蝋人形の館』の最初の台詞にようで、一気に、読み切りましたが……。


 しかも、この『ライ麦畑のプレデター(捕食者)』の、主人公のT博士は、女子高生を拉致誘拐直後に、即、あのED治療薬のバイアグラを一錠服用しており、あの行為に及ぶのですよ。

 ですので、いくら50歳過ぎの中年のオジサンでも、これだけの準備をしておけば、十分に、あの行為を行えます。


「おお、おお、おお。さすがに、ED治療薬のバイアグラは凄く良く効くのう……。まるで、10代の頃の、堅さと、長さが復活したわい。思った以上の効果じゃ。


 それじゃ、そろそろ、時間が来たようじゃのう……」


 そして、その後、拉致誘拐された女子高生の強烈な絶叫が、ライ麦畑中に響くのですが、何分、あまりに広すぎて、誰の耳にも届きませんよね……。


 このような小説内容ですので、正に、変態作家以外の何者でもあり得ません。


 しかしながら、彼の、今言った方法(トリック)を使えば、女性でも、不同意性交の状態は惹起できます。


 私は、語彙力の全く無い、そして表現力も筆力も何処にも無い、この変態作家「立花 優(ゆう)」には、いかなる興味も持っていません。


 が、この前の「万能荘連続不同意殺人事件」が起きた時に、以前から何処か奇妙に感じていた佐藤萌が、この変態作家「立花 優」の唱えたアイデアと言うかトリックを、もし上手く利用すれば、もしかしたら、可能なのだろうでは無いかとも思い、この疑問を、私なりに考えそのように解いていったのです」


「それは、どう言う時に思い付き、また、どうしてなのですか?」


「話は、今年の4月中旬まで遡りますが、慶早大学でのミステリー研究会の一室で、今年の行き先が、あの「人杭村」に決定した時に、他の誰もが多分ホトンド気が付かなかったでしょうけれど、それが決まった瞬間の、佐藤萌の一種、狂気に満ちた表情を、私は非常に奇妙に感じたのです。


 無論、その時は、まさか佐藤萌の父親が、マサカあの「人杭村」の出身だとは、知っていませんでしたが、でもあの狂気に満ちた目付きを見て、この私はゾッとしました。


 そこで、必ず、『万能荘』で、きっと何かが起きるだろうと言う確信を持ちました。


 それ故、私の恋人の三井純一さんが、「人杭村」に行くと言った時に、この私も一緒に着いて言ったのです」


「なるほど、明菜さんの言われる事は、大変に良く分かりました。


 実は、最近、佐藤萌の父親の佐藤彰が、「幼女人肉食事件」を引き起こして以来、我が警視庁でも、明菜さんの言う佐藤萌の自作自演説が急激に主流になって来ています。

 ただ、最後の謎としては、何故、佐藤萌は、自らの自殺を選んだのでしょうか?

 この点を、どのように思われていますか?」と、金田刑事が質問をしてくる。


「ウーン、それが、この事件での最大の大難問でしょうね……。


 何か、彼女の書いた遺書のような物が見つかれば良いのですが。

 彼女の住んでいたマンションの部屋から、メモでも日記でも遺書でも見つかれば良いのですがねえ……。

 逆に聞いて失礼かも知れませんが、何か、見つから無かったのでしょうか?」


「残念ながら、そう言う物は、今のところ、一切、見つかっていないそうです」


「そうですか?


 これだと、正に「死人に口無し」状態ですよね。


 後は、これまでのように、又、いつもの迷(?)推理の組み立てしか、答えは出せないでしょうねえ。


 けれど、中学生時代や、高校生時代の、彼女の書いた卒業文章は、残っていないのでしょうか?

 普通、こう言う卒業文集には、これからの自分の進む道とか夢が、書かれていますよね。


 私の、直感ですが、この卒業文集等に彼女自身の言葉が書かれているとすれば、何か、「万能荘連続不同意殺人事件」を想記させるような言葉が書かれていたかも知れませんよ。


 金田刑事さん、ここは多分、キット無駄足だとは思いますが、彼女の、中学校や高校の文集や、作文等を探ってみられたらどうでしょうか?


 後、「幼女人肉食事件」を惹起させた佐藤萌の父親の佐藤彰のマンションにも、父親の隠された心の思いを綴ったメモや文章が残っているかも知れません。これも、御足労ですが、捜査をお願い致します」


「分かりました。佐藤彰のマンションからは、膨大な量の証拠品を押収しています。

 その中には、多分、彼の娘の萌の書いたであろう文集も、あるいは父親の佐藤彰の文章もキット全て押収している筈です。

 何かの、手がかりが見つかれば、即、御連絡致します。

 では、今日は、これにて失礼します」と、丁寧に挨拶して、金田刑事は、私らのマンションを出て行ったのだ。


「うーん、明菜ちゃんは、いつも、もの凄いアイデアを持っているよなあ……デモ、そんなに都合良く、メモや色々な文章が見つかるのだろうかなあ……」


「多分、相当に、難しいでしょうねえ?」


「と、すれば、明菜ちゃんは、これから、どうなって行くと思うの?」


 ここで、明菜ちゃんは、じっと上を向いて、何かを考えているみたいなのだ。


 このような様子の時の明菜ちゃんの頭脳には、私らのような凡人の何らかのアイデアを遙かに超える、天から降って来ているのかも知れないような何かを得ている事を、この私は、いつもいつも、感じていたのである。


 果たして、この、私の考えは、これからの大展開を予言していたのだが……。


 さて、金田刑事が、訪ねて来てから、これも、更に一週間後、再び、金田刑事からの連絡がEメールで、明菜ちゃん当てに来たのである。


「時間が無いので、緊急で、失礼致します。

 実は、佐藤萌の高校時代の卒業文集の写しが手に入ったので、メールに全文添付して、送付致します。

 大方は、将来の夢について語っていますが、最後の一文に、とても気になる文章があります。

 先ずは、読んでみて下さい。

 御感想を待っております」


 と言う、極、簡単なメールである。


 で、二人で、佐藤萌の書いたであろう卒業文集を読んでみたものの、至って真面(まとも)な内容であって、別に変わった事は、書いてないように思えたのである。


 将来は、臨床心理士か公認心理士の資格を取って、スクール・カウンセラーになり、多くの子供らの悩みの相談に乗りたいと言う、極、真面目な内容であって、取り立てて、可笑しな面は見当たらない。


 しかし、最後の最後の文章に、


「デモ、たまにフト、思うのだけど、この夢は果たして実現するのかなあ。

 何故って、この私には、何故か分から無いけど、何処かの誰かに操られているような気がするのだけどなあ……ちょっとばかりだけど、心配だなあ?」と言う、摩訶不思議な文章で終わっていたからである。


 まるで、自分の人生は、誰かに支配され、心理的誘導を受けているような内容では無いのか?


 もっと言うならば、これだと、佐藤萌自体が、何か被害者のように聞こえるではないのか?


 では、一体、佐藤萌に、何があると言うのだろか?


 これは、医学的に考えても、例えば、佐藤萌の父親の佐藤彰の「幼女人肉食事件」を起こした事件においても、実は、全く同じ事が言えるのだ。


 仮に、佐藤萌の父親の佐藤彰が、急に発狂して幼女を煮て食べたとしても、これが医学的に言う統合失調症等の症状の暴走のせいだとは、そう簡単には言い切れないのである。

 何故なら、例えば、統合失調症は、戦前は、早発性痴呆症と呼ばれ、発病時期は、概ね10代の中頃から20代にかけて発病する事がほとんどあり、既に、40歳代後半にもなっている、佐藤彰が、急に統合失調症を発症したとは、どうしても考え難いのである。


 敢えて言うなら、突発的なヒステリー状態であろうか?


 それとも、かっての人肉食時代の名残の異常タンパク質(プリオン)等や、大脳内の遺伝子の突然変異等の影響により、あのような、狂気の事件を引き起こしたのであろうか?


 しかし、逮捕後の、佐藤彰の、大脳内のCTやMRIや脳波計の画像や数値を見ても、人間版の狂牛病と言われるような、「クロイツフェルト・ヤコブ病」等の症状は、全く、見られ無かったのである。

 また、かねてから噂されていた、異常タンパク質(プリオン)等の発見も、全く無かったのだ。


 では、佐藤彰は、何故に「幼女人肉食事件」と言う狂気の大事件を引き起こしたのか?

 これは、この佐藤萌が一枚噛んでいると思われる「万能荘連続不同意殺人事件」にも、全く、同様の事が言えたのである。


 何かがあるのでは?


 だが、その何かが、今は、全く見えないのだ。


 で、実は、ここまでがこの「人杭村」=「人喰村」の事件の前半の話だとして、この後、全てのオセロの駒が、これから、全てがヒックリ変える事になるとは、この時点で、この私には、まだまだ完全に理解が出来ていなかったのである。



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