第9話 驚愕の大事件の連続発生

 しかし、日本中を揺るがす驚愕の事件が、またも勃発したのだ。


 まさか、そんな事が?この日本で、再び起きるとは?


 私も、明菜ちゃんも、マンションのテレビの朝のニュースで見て、ベッドから、飛び起きた程だ。


 果たして、その驚愕の事件とは、では一体、どのような事件だったのか?


 だが、この事件の勃発により、一挙に、「万能荘連続不同意性交殺人事件」と「大学生グループ人肉鍋殺人事件」は、急転直下、捜査方法が大幅に変わって来たのである。


 事件の概要とは、「人杭村」の直ぐ隣にあるN市に所属する「険道町(けんどうまち)」の一住民が、ほぼ、腐りかけて顔の識別もできない大学生の二人の生首を、透明なポリ袋に入れて、地元の駐在に、フラリと現れたと言うのである。


 しかも、言っている事はほとんど意味不明な事が多いらしく、当該県警では、「心神喪失」又は「心神耗弱」と鑑みて、敢えて、テレビニュースでは、名前も住所も不詳のままだ。

 ただ、概ね、年齢は60歳前だけだと、報道されただけだ。


 また、本人が持参していた10数年以上も更新されていない自動車の免許証から、住所が特定され、県警が本人の自宅を捜査したところ、大きな農業用作業所からは、血痕のついた電動ノコギリや、腐乱した死体の一部(多分、内臓部分であろう)を入れた透明なポリ袋、大きなイモを煮る大鍋も見つかった。


 更に、調査をして行くと、この男は、あの『人喰村伝説考』を書いた故:林先生と同じ精神科病院、つまり青空精神科病院に入院していた事が分かったのだ。

 ようやく、今年の4月に退院したところだったと言う。

 県警の調査により、正式な病名は、ボーダー型統合失調症。

 更に、二人とも、かっては、閉鎖病棟ではなく、開放病棟で、複数の患者のいる同一の部屋で過ごしていた事も判明したのだ。


 至急、日本の有名な法医学者(精神神経医)に、精神鑑定の依頼がなされた程だ。


 ただ、ここからは、当該県警の見立てなのだが、この時の入院時に、この男は、故:林先生から、徹底的に、「人杭村」での「人喰い村伝説」を吹き込まれていたのに、まず、間違いが無いだろうとの推論である。


 また、ほとんど支離滅裂な会話ながらも、それでも、若干の意味を感じ取る事は、出来たのである。


「高校の先生 …… 人喰い村 …… ワシのお爺ちゃんが喰われた …… 復讐 …… 大鍋 …… ニンニク …… 赤味噌」との数数の言葉が確認できたのである。


 ここで、県警では、この男を、「大学生グループ人肉鍋殺人事件」の真犯人として緊急逮捕。


 しかしながら、刑法上の刑事責任能力の問題もあり、直ぐに、精神鑑定に付された事は、言わずもがなでもある。


 また、「万能荘連続不同意性交殺人事件」についても、その男に色色と質問してみたが、


「ワ、ワシは、チン○○が、起たないのや……」とも、ボソッと言っていたと言う。  このチン○○とは、北陸地方では、男性器の事をさす。


 事実、今年の4月まで入院していた、青空精神科病院の青空医師も、メジャートランキライザー(強力精神安定剤)やSSIR(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)等の副作用で、勃起能力は、現在では、ほぼ見られないと証明していた。


 県警でも、この話を裏付けを取るために、丁度、うまい具合に没収していた多数の裏DVDがあったので、液晶テレビで、この卑猥な動画を連続して見せ付けてみたものの、この男の、アレは、ピクリともしなかったのである。


 起たない男なら、「万能荘連続不同意性交殺人事件」は起こす事は、不可能である。

 これにより、この男が、「万能荘連続不同意性交殺人事件」事件の真犯人で無い事は、完全に証明されたのだ。


 ただし、この男の自首により、「大学生グループ人肉鍋殺人事件」の事件の解明は、急激に進んで行ったのだ。


「ウーン、急激に事件が解明されて行くように思えるのだが、肝心の「万能荘連続不同意性交殺人事件」は、未だ、何処にも手がかりも何も無いのだよなあ……」と、私が言うと、明菜ちゃんは、不思議な事を予言した。


「ねえ、純一さん、果たして、この一連の怪奇事件は、では、これで終了したと思う?」


「と言うと……?」


「更に、もう一つのトンデモ無い大事件が、勃発するかもよ」


「それは、一体、何なんだ?」


「無論、ハッキリ分からないわ。それは、何故なら、これは私だけの直感だからね」


「オイオイ、明菜ちゃん、そう言う、物騒な事を言うなよなあ。

 慶早大学一の頭脳を持つ、明菜ちゃんがそんな事を言うと、ホントに、何かが起きそうにも、思われるからなあ……」


 ここで、明菜ちゃんは、この前のペン型の録画・録音器をUSBで、パソコンに繋いで、佐藤萌の父親の表情の変化を、ジッと見ていた。


 この様子を伺う限り、今度の大事件は、佐藤萌の父親が、いよいよ何らかの事件に関係して来るのだろうか?


 しかし、この私の頭脳では、明菜ちゃんの考えている事は、中々、理解できないままだったのだ。


 さて、この多分、江戸時代初期以来からであったろう、「人喰村関連事件」は、更なる暴走をした大事件を、引き起こしたのだった。


 これは、あまりに酷い事件故、その詳しい記述は、少々、割愛させてもらう事にもなるのだが、要は、東京での幼女誘拐事件の勃発であったのだ。


 しかし、この大都会の東京での幼女誘拐は、防犯カメラの急激な普及により、実は、ある意味、非常に実行が困難だったのである。


 しかしながら、この犯人は想像するに異常な程の知能犯でもあり、中々、証拠となる防犯カメラの画像が見つから無かったのだ。


 結局、3日間経っても、この幼女誘拐犯は、見つからない。


 しかし、誠に、意外な所から、緊急の連絡が警視庁の110番に、入ったのである。


 連絡場所は、何と、JR新橋駅近くのマンションからだ。


 そう、佐藤萌の父親の佐藤彰の住んでいるマンションから、だったのだ。


 で、緊急連絡者は、何と、佐藤彰の妻の、佐藤美波(みなみ)本人からであった。


 しかも、その連絡自体が、正に狂気に満ちた内容であったのである。緊急で受け付けた警視庁の受付員も、

「えっ、もう一度、再度、詳しく言って下さい。お願い致します」と、訪ね返す程の内容だったと言う。


 驚愕の絶叫の元、佐藤萌の実の母親でもある佐藤美波は、もはや、自分自身も半分以上、狂ったかのような、絞りだすような声で、次のように言ったのだ。


「く、く、狂ってます。夫が、夫が、幼児、幼児を煮て、今、食べています……ああ!

 こ、こんな事が、現実に起きるとは……」


 最初、この一報を受けた警視庁の緊急電話受付担当員は、狂人を真似た、只のイタズラ電話かと思ったと言う。

 しかし、余りに、切羽詰まった絶叫声に、大至急、警視庁の捜査一課に繋いだのだ。


「そんな、馬鹿な?」と、最初、聞いたこの話を聞いた刑事もそう思ったらしいが、夫の名前が、佐藤彰だと聞いて、ピンと来るものを感じたのに違いが無い。

 何とあの、「万能荘連続不同意性交殺人事件」の被害者の一人の、佐藤萌の父親の名前が出て来たからだったからなのだ。


「万能荘連続不同意性交殺人事件」には、当時、警視庁からは、最も頭の切れる金田小五郎刑事も、当該北陸の某県に派遣されていた時もあり、この事件に早くから関与していたのだ。

 この金田刑事から、大体の概要は、逐次、警視庁に送られて来ていたのだ。

 何しろ、この事件の関係者には、東京に住所のある慶早大学の学生達も、相当数、絡んでいたから、尚更だったのだ。


 大至急、上司の刑事が、部下二名を連れて、当該マンションに着いたのだが……。


 だが、そこで見た光景は、三人の刑事生活上、一生涯忘れる事は無いであろう。

 かの可視光線が、三人各々の瞳孔を通過し、網膜の奥に、鮮烈かつ残虐に焼き付けられた、カニバリズムの現光景。

 正に異常で驚愕の場面が、三人の刑事の眼前に繰り広げられていたのだ。


 何と、佐藤彰が、ほぼ焦点の合わない目で涎を垂らしながら、大きなステンレス鍋で、幼女を煮込んで、大きな名箸で、ムシャムシャとさも上手そうに食べていたのだ。


 見るからに可愛いかったであろう幼女の首は、キチンと切断され、鍋の上からチョコンと顔を出していたのである。だが、瞳はカッと般若のように見開いたままだ。

 で、その鍋からは、もうもうと湯気が上がっている。

 明らかに、数時間は、煮込んでいたようだ。

 ニンニクと味噌と人肉の匂いが、マンションのこの部屋中に、充満していた。

 

 これを見て、この部屋のマンションの玄関近くには、多分、今帰宅したばかりであろう、妻の佐藤彰の妻の佐藤美波(みなみ)が、全身に小刻みな痙攣を引っ切り無しに起こしながらも、手にはスマホをしっかり握りしめていた。

 彼女は、このような狂気の夫の姿は、今まで全く見た事が無かったからだ。


 何しろ、最初のあの行為の時も、もの凄く優しく紳士的であったのに、この異常で狂気の状況は、一体何なのだ!


 いや、だがしかし、彼女が、結婚する時に、実の両親が大反対したのを、フト、思い出していたのかも知れない。


 既に、彼女の両親は、「人杭村」→「人喰村」を、連想していたのかもしれなかったのだろうか?……今は、全てが、頭の中でボンヤリと回想しかでき無い。


 だが、誰が何と言おうと、幼女を、ステンレス製か何かのの大きな鍋で、IHで加熱して、煮込んで喰っている事だけは、どうあがいても間違いが無い事実なのだ。


 刑事三人が、即、佐藤彰を現行犯で緊急逮捕するも、周囲を見ると、大きなハローキティの着ぐるみが、見つかった。


 背中には、大きなチャックが付いている。

 多分、これを開けて、この中に幼女を入れて、誘拐して来たのは間違いが無い。

 この一見可愛い、ぬいぐるみの中に入れて、このマンションに連れ込めば、誰にも気付かれ無い筈だ。


 仮に、防犯カメラに映っていたとしても、単なる、子供へのプレゼントを持っている、極、優しい父親か祖父にしか、見えなかったであろうし……。

 何しろ、マンションの守衛さんすら、見抜けなかった筈なのだ。

 だから、懸命な調査にも関わらず、何処からも、有力な情報が上がって来なかったのだろう。


 一つだけ言える事は、やはり、この斉藤萌の父親も、多分であるが、異常タンパク質のプリオン等か、多年に渡る人肉食が原因での何らかの精神的異常(脳内遺伝子の突然変異等)さを、引きずっていたのだろうと言う仮説だったのだ。


 これだけは、誰も、医学的にも反対は出来ない筈だ。


 これは、あの慶早大学医学部3年生在学中の大外修一のXへの投稿でも、既に、極早い時期から、指摘されて来ていた事でもあったのである。


 如何に、数百年前の過去からのこの「人肉食の影響」が、今の、現在の連続殺人事件に連動しているのか、この事件を見ても、即、理解ができる事であろう……。


 さて、この佐藤彰の、「幼女人肉食事件」が、ニュースで報道されると、再び、SNSやネットの世界では、ありとあらゆる偽情報や、迷(?)推理が、日本中の仮装空間上を駆け巡ったのである。


「狂気の「幼女人肉食事件」の勃発」


「容疑者は、「万能荘連続不同意性交殺人事件」の被害者の実の父親」


「容疑者は、例の「人杭村」の出身者」


「果たして人肉食は、上手かったのか?」


「ニンニク、赤味噌、幼女の味は如何に?」


「謎が謎を呼ぶ連続人肉食事件の数々」


 この状態を、前もって予言していた、私の恋人の明菜ちゃんは、

「遂に、来るべき物が、来たわねえ……」と、溜息混じりに言った程だ。


 だが、明菜ちゃんが、以前から、予言していたとは言え、問題は、例の「万能荘連続不同意性交殺人事件」で、被害者でもある佐藤萌の関与の再浮上が確定した事のみは、間違いが無いのだ。


 だが、ここでの最大の謎は、やはり未だ、解明されていないのだ。


 それは、佐藤萌が、もしかしたらこの事件に大きく関与し、『万能荘』での被害者の1号室に泊まっていた2年生で文学部ロシア文学科在中の杉村綾子、2号室に泊まっていた新入生で政経学部経済学科在中の小森有希の殺害のホントの犯人であったとしてもだ、一体、何故、自分までも同様の被害状態を装って、その自分まで、縊死しねければならなかったと言う、疑問である。


 慶早大学ミステリー研究会の、『万能荘』の1号室に宿泊していた杉村綾子と、2号室に宿泊していた小森有希の、不同意性交殺人に似せた殺害だけでも、十分に、自分の、発作的な欲望を満たせられたのでは無いのか?


 しかし、何故、自分まで、一緒に、縊死して死ぬ必要があったのか?


 この点を、この私が、明菜ちゃんに問い詰めてみたものの、

「そう、正にそれが、この事件の最大の問題なのよね」と、明菜ちゃんも頷いてくれたのである。だが、明菜ちゃんと言えど、これの、回答は出来なかったのだ。


 この問題が、解けきれれば、全てのパズルのパーツが揃うのだが……。



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