第2話 密室連続不同意性交殺人事件
するとある部員が、
「それじゃ、「人杭村」とは所謂(いわゆる)、「人柱の村」と言う意味で、「人を喰らう村」、今ほどの『人喰村伝説考』とは、大きく話が違うのじゃないのかい?」と、誰かが、大変に嫌みな質問をしてきたのだ。
正にその通りで、人柱を立てた村と、人を喰らう村では、「ミステリー探検ツアー」の値が大きく異なってくるからだ……。
「おっしゃる通り。しかし、その本の著者で、あの交通事故死された故:林先生は、「人杭村」の中に、大字(おおあざ)人杭(ひとくい)小字(こあざ)原綿(はらわた)と言う地名がある事に目を付けられたのです。
この小字の原綿(はらわた)とは、かってこの「人杭村」で、多くの綿花を作っていた原っぱがあったからだと言うのだけれど、しかし、この小字の地名は、いくら何でも気にかかるじゃありませんか?
これを大字(おおあざ)人喰(ひとくい)小字(こあざ)腑(はらわた)と、当て字をして読み直すと、正に人肉喰いの村と言う感じがしませんか?」
「確かになあ……」副会長の高木副会長も、素直に同意してくれた。
「で、故:林先生は、村全体をくまなく探してみたところ、遂に、人肉食時代の痕跡のありかを発見したと、私らの前で自慢げに語っていました。
で、近々、続けて出版予定の『人喰村伝説考Ⅱ』で、その証拠写真を添えて発表したいと意気込んでいました。
しかし、故:林先生は、この私らに語ってからわずか1週間後、この本の出版から2週間後、謎の交通事故死を遂げて、亡くなってしまったのです」
「だろ、だろ、だろ!今の三井君の説明で十分に理解できる通りだが、今年の「ミステリー探検ツアー」は、「人の杭の村」、いや「人を喰らう村」へ行って、その、かっての痕跡を探す事が最終目的なんだよ」
この副会長の発言に、部員の反応は、大きく半分に分かれたのだ。
行きたい者十二名、行かない者十三名。過半数には達し無かったものの、ただ、今日の会議で、今年の「ミステリー探検ツアー」の行き先、目的、参加者が正式に決まった事だけは事実だった。
私の恋人でもある白石明菜ちゃんも参加すると言う。
何で、そんな不気味で気持ち悪い所へ参加する気になったのか聞いてみたら、この私が参加するからだってさ。
嬉しい事を言ってくれるじゃないか……。
彼女は、多分、慶早大学の全学生の中でも、トップクラスの頭脳を有しているのは間違いがない。彼女のマンションに遊びに行って色んな話をしても、全て私のほうが負けるのだ。
彼女と深い間になったのは、昨年の秋頃だったが、彼女は娼婦のように私を誘惑し、うまくアレをやらせてもらった。何とあっちの方面まで私より知識はあったのだ。
ただし、全てが終わった後、ハアハア息をしながらも、彼女曰く、
「誤解しないでよね。貴方が初めての男性であり最後の男性よ。
だから、貴方も浮気厳禁なのよ。浮気したら、下半身をちょん切って殺すかもよ……」と、ここでも釘をさされていたのだ。
私は、だから彼女には全く頭が上がらない。
ただ、先程の会議の後の、彼女の次の一言が気になったのだ。
「でも、何かが起きそうな気がするけどなあ……」
「どうして?」と、私が聞き直すと、
「だって、あの本を書いたその林先生だっけ、出版後、直ぐに不審な交通事故死にあってるじゃん。
これが何故か気にかかるの。私は、貴方のボディガード役でついていくのよ」
「そんな、明菜ちゃんが、私のボディガード役って無理だよ」
「あの、私、現役の極真空手二段なんだけど言ってなかったけ?」
「えっ、あのフル・コンタクトの極真空手の二段だって!
まあ、よく、去年の初Hの時、蹴り殺されなかったものだなあ……」と、この時、私は、彼女、白石明菜の能力の奥深さを改めて感じたのだ。
この会話を基に、私と明菜ちゃんは、「人喰村」(「人杭村」)について調べてみる事となった。
泊まる所は、硫黄泉かつラジウム泉で、主に湯治客には有名な秘湯の温泉旅館『万能荘』が「人杭村」にある事が分かった。この温泉自体は、遙か昔の室町時代後期には、既に発見されていたらしいのだが。
ところで、なかなか、2階のラウンジに降りて来ない三人の女子学生の部屋。それは、『万能荘』の3階の左側から順に、1号室から3号室までであった。
研究会の残りの全員が呼んでも、全く、ドアが開きそうにもないので、守衛さんに頼んで、マスターキーで開けて貰う事になったのである。
「ウワー、一体、何なんだ!これは!」
最初のドアを開けた瞬間、中をのぞいた高木副会長が、ヘタヘタと廊下に座りこんだ。
おお!見るにおぞましい光景が、そこにあった。
1号室に寝ていた筈の、2年生の同期の女子学生が、下着を剥ぎとられ下半身をむき出しにしてベッドに横たわっていた。全くピクリとも動かない。言葉に窮する程、グチャグチャに目茶苦茶に、犯されているのが一目瞭然だったのだ。しかも、下半身の局部から少量の血液が流れていた。
血は既に固まり凝固しはじめていたが……。
明らかに不同意性交殺人だ!
次の部屋の2号室も開けてみると、新入生の女子学生が、同じようにグチャグチャに目茶苦茶に犯された形で死んでいた。これも、目も当てられない程だ。
次に、最後の部屋である3号室を開けてみると、今度は、部屋の梁に首をかけて死んでいる女子学生、新入生の姿があった。やはり、下着は剥ぎ取られ血が滴り落ちていた。
「連続不同意性交殺人事件よ、それも密室でのね!」
明菜ちゃんが、そう叫んで、周囲の誰かに、即、警察に連絡するように言った。
誰かが、せわしく、スマホを取り出して、警察に連絡している。
「みんな、少し下がって。警察が到着するまで、何処にも触ったら駄目よ」と、明菜ちゃんが、命令口調で言う。慶早大学ミステリー研究会員の全員、明菜ちゃんが現役で東大医学部にトップ合格した事は、噂話で知っているので、誰も文句は言わないし、言えもしないのだ。
「ど、ど、ど、どうしよう……」と、この「人杭村」探検ツアーを企画し、話を進めてきていた、高木副会長がブルブル震えている。
「まずは、警察が到着するまで待ちましょう」と、明菜ちゃんが高木副会長を宥(なだ)めている。私は、私なりにこの状況を打開しようと色々考えてはみたものの、全く、何の考えも思い浮かば無かった。
一体、これは、どういう事なのか?何故に、こんな悲惨な事件を引き起こす必要があったのか?
そしてこれが最も重要な事なのだが、これが本当に連続不同意性交殺人事件であるならば、一体、犯人は誰なのか?
しかし、猛勉強の結果、やっとの事で慶早大学文学部心理学科に合格した私には、全くと言って良い程の理解不能の事ばかりなのだ!
そうこうしている内に、まず10分後、隣の町の駐在さんが駆けつけてくれた。
しかし、現場の様子を見るなり、自分の手に負えない事件である事を、即、認識。
県警本部からの応援を要請した。県警本部からは、既に殺人事件担当の、捜査一課長、係長、鑑識の計七名が、高速道路(北陸自動車道)を使って、「人杭村」に急行していると返事があった。
事件発見後、約50分後に、県警の一団が到着した。
当該県警の捜査一課長でもある、長島警部は、まず一番先に、鑑識に現場の様子を探らすと共に、まず、今回のツアーを企画立案した高木副会長を任意聴取した。
一体、何の目的で、そして何人の人間が、この温泉旅館『万能荘』に来たかをである。
しかし、高木副会長は、もう全身がブルブル震えているのみならず、もう夏の終わりだと言うのに顔面蒼白の痛々しい状況で、こちらが見ていても、悲壮感が漂って見えた。
とても満足に答えられそうにも無い状態だ。
また、捜査一課係長以下、先程到着した巡査も含めて、昨晩の宿泊客のアリバイを一人一人づつ、聞いて言った。
既に、鑑識の方からは、司法解剖の結果を聞かなければ正確な事は言えないとしつつも、死後硬直の状況等から判断して、今回の事件は、1号室の被害者から3号室の被害者の順にかけて犯行が行われた模様で、殺害推定時刻は、午前1時から午前2時までの1時間とされた。
何故なら、深部体温は、死後1時間毎に、0.8度づつ下がって行く。これから逆算すると、死亡推定時刻が分かるらしいのだ。これは、医学的エビデンスでもあるのだ。反論は、ほぼ難しい。
急遽、温泉旅館『万能荘』のラウンジ兼食堂は臨時の取調室となった。アリバイ捜査が終わるまで、最低限、宿泊客及び旅館の関係者全員、この『万能荘』から出る事はできないのだ。
ここで、温泉旅館『万能荘』に昨日の晩から泊まっていた人の全員の情報は次の通り。
3階には、丁度、建物の真ん中を左端から右端まで廊下があり、左上から1~3号室、途中、エレベータを真ん中に、更に4号室~6号室まであり、この部屋には、慶早大学のミス研の女子会員が六名が泊まっていた。
廊下を挟んで向かいの左側から7号室~12号室まであり、この6室全員がミス研の男子会員である。ただし、こちらの側には、エレベータの代わりに階段が同じように6室の真ん中を遮っている。
次に、4階の24号室から26号室までは、それぞれ、80代~60代までの中高年の夫婦が三組計六人泊まっており、残り9部屋は空き部屋であった。
ここで4階の部屋に、2○号と付くのは、『万能荘』の1階は、厨房、倉庫、機械室、従業員宿舎が主に占めており、2階は受付、男風呂、女風呂、ラウンジ兼食堂、守衛室で占めていて、この宿に来たお客さんの側から見れば、3階の客室を、1階と考え直してみれば、4階の客室は2階に相当する事から、分かり安いように2○号と付けたものと推定される。
しかし、このアリバイ聴取で、実は、とんでもない事が分かったのだ。
高木副会長他の三名は、3階の10号室で麻雀を朝方の4時ぐらいまでしていたというのだ。この四人はそろって、自分達は、この部屋から一歩も出てないと言う。
次に、その隣の11号室に泊まっていた新入生の男子学生は、酒に弱かったため酔いを冷ますために、夜中の1時から1時半ぐらいまで男風呂に入っていたと主張したのだが、その事実を4階に泊まっていた70歳の夫婦の夫の一人が、私もその時間帯に一緒に、彼と、男風呂にいたと証言したのだ。
しかし、この私は、元来、酒に弱いほうだったし、昨日の夜の11時には、もう寝ていたのだ。しかし、それを証明してくれる人物は誰もいないのだ。
今回の事件を連続不同意性交殺人と考えるなら、犯人はもの凄い性欲の有り余った若い男性だろうと、相場が決まっている。
4階の三組の夫婦は、三組とも高齢者であり、それぞれの夫が脳梗塞・脳卒中・腰椎ヘルニヤになって、リハビリの為にこの『万能荘』に湯治に来ているのである。 この三組とも高齢者夫婦で、その夫らでは、連続不同意性交など絶対にできないであろうと言うのが警察の見立てである。
また、連続不同意性交殺人とするならば、女性陣には、それほど厳しいアリバイの調査は行われなかった。
なお、2階の守衛室で夜の部の守衛をしていた60歳過ぎ程の守衛さんにも、アリバイを聴取したものの、丁度、その時間帯はテレビを見ていたと言い、そのテレビ番組は朝までの政治討論番組の生中継番組であって、守衛さんはその中身を大体覚えており、即、テレビを流している番組に問い合わせたところ、正にその番組を見たものしか答えられない内容であったらしい。
つまり、このテレビ番組のおかげで、守衛さんのアリバイは完全に証明されたのである。
守衛さんは、番組中、一番議論の白熱した時間帯の内容を覚えており、またその頃が、実に犯行推定時刻だったのだ。なお、このテレビは液晶テレビとは言え、VHSやDVDのような、録画機器は、全く接続されていなかったのだ。
つまり、犯行後、コッソリとそのテレビ場面を見直す事は、絶対に、不可能だったのである。
本来はこの守衛さんのみが、マスターキーを所持しているので一番怪しまれるのだが、だが、こうまでハッキリしたアリバイでは、疑う事はできないでは無いか……。
また、60歳の料理長と、50歳半ばの一人の調理人、並びに、63歳になるこの温泉旅館『万能荘』の女将らが泊まっていたが、彼らの部屋は1階にあり、お互いに少しでも部屋を抜け出したしたりしたら、物音で分かるらしい。
しかし、昨日の晩から今朝の朝にかけてそのような不審な物音は、この三人共誰も聞いていないと言う。
……と言う事は、守衛さんや料理長や女将さんのらのアリバイは完全に証明され、男性陣の中で、唯一、アリバイを証明できなかったのは、12号室に泊まっていたこの私だけになってしまうのだ。
しかも、高木副会長は、自分から提案した「人杭村」への「ミステリー探検ツアー」を企画立案する基になった、『人喰村伝説考』を最初に会員達に提示したのは、この私だと言い切ったのである。つまり、何と、この私に責任転嫁をしようとしてきたのだ。
只でさえ、この私のみ、アリバイがハッキリしないのに、更に、私の立場が悪くなった。
「三井君と言ったっけ、少し、地元の署のほうに来てもらおうか、勿論、任意だがね」と、ドスの効いた声で県警一の切れ者と言われる(後で知ったのだが)長島警部が言った。
「えっ、こ、この私が容疑者扱いされている!」
だが、その時、思わぬ助け船が現れた。
それは、私の恋人の白石明菜ちゃんで、
「刑事さん、三井さんは犯人では絶対ありませんよ!」
「何だ、君は、急に何を言い出すんだ」
「私は、白石明菜と言い、慶早大学理学部2年生で、父親はIT企業のXXX株式会社の社長なのです」
「XXX株式会社なんて聞いた事もないが?」と長島警部は言うと、
「10年程前から急に有名になってきたIT会社で、確か、上場企業だった筈です」と中村係長が口添えした。
「いやに詳しいな」と、長島警部。
「少し、ほんの少し株取引をやってますんで……」と、中村係長が軽く返す。
「父親が、IT企業の社長だろうと何であろうと、そんなものは一切関係無い。
この中でアリバイの最もハッキリしないのは、この学生だけだ。だから任意調査をするんだ。貴方は何の根拠をもって、この学生が犯人で無いと言い切れるのだ」と、長島警部。
「それは、極、簡単な理由からです。私と彼、三井さんは恋愛関係にあり男女の仲にまで発展してますが、彼、三井さんは、いわゆる草食系男子の典型例みたいな男性で、わずか1時間足らずの短時間で、三人もの女性を不同意性交できるほどの強力な性力はありません。
現に、私とHしても、一晩2回が限度ですから……」
そう、彼女が言った時、長島警部は、プッと吹き出して、
「随分と、生々しい話だが、そういうのは有力な証言や証拠には全くならないんだ。
まして恋人同士の話なら「いやがうえに」も、証拠としての価値が無くなるもんなんだよ」
「それは、よくよく分かってますよ。
しかし、先程の副会長を含めた四人の会員が麻雀をしていた話も、では、四人が口裏を合わせていたとしたらと考えるとどうですか?例えば、麻雀をしながら一人づつ不同意性交をしに行く。ただ、三人目でそれが何らかの理由でストップした。
もしかしたら、四人目の犠牲者はこの私だったかもしれないでしょう。
大体、刑事さん達は内部犯行説を考えてますが、外部からの、例えば、この不気味な「人杭村」の若者らが、非常階段等を使って、内部に侵入していたらと考えると、どうですか、全然話が違ってくるでしょう?」
「それは、貴方に指摘される前にも、当然、こちらも考えていた事だ。
しかし、この『万能荘』の客室には全くベランダが無い上、貴方の泊まっていた1号室~6号室の直ぐ裏側は、現在は、巾約1.5メートル(注:中世の大地震前は幅は3メートル弱だった)の中野川が流れている。
特に2日前に降ったゲリラ豪雨の関係で、いつもなら水深20センチ程の中野川の流れは、今現在も水深約50センチメートル弱近くもあり激流のままだ。つまり『万能荘』の裏側から侵入しようとする事はほぼ不可能だ。
更に、今も言ったように、各客室にはベランダも無い。つまり、縄梯子等を架ける事もできないんだよ。
非常階段も鑑識に調べてもらったが、この非常階段に、仮にうまく昇って来たとしたとしても、中から、内鍵を開けてもらわないと、『万能荘』にはとても侵入できないのだよ」
「じゃ、刑事さん、これはミステリー小説に良く出てくる完全密室殺人事件そのものじゃないですか?
例えアリバイがまだハッキリしないとは言え、一体、では、三井さんはどうやって、各部屋の鍵を開けたのです?」と、明菜ちゃんは理路整然と反論していく。
「うーん」、一番の関心事を付かれて、長島警部は返答に困ったのだった。
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