第5話 ナス。幽霊。自由研究
ナス。幽霊。自由研究
マコトは夏休みの宿題をサボタージュした結果、自由研究の幽霊に取り憑かれた。
きっかけはこうだ。友達との対戦ゲームだったり、家族との海水浴だったり、親戚との夏祭りだったり、夏休みを満喫することばかり考えていたマコトは、すっかり宿題のことを忘れて小三の二学期を迎える。登校し、宿題提出の時間になり、マコトが何も手をつけてこなかったことを知った担任の中山先生は悪鬼羅刹のような形相で呪文を唱えた。
「ソーカソーカ! キミハソーカ! ソーカキミハ! ソンナヤツダッタンダーナー!」
中山先生の指先からビビビと光線がほとばしる。それはマコトの持っていた白紙のノートにぶち当たると、ノートの表紙に「自由研究」という焦げ跡を付けた。
ノートはマコトの手の中でカタカタとひとりでに震え始める。マコトがノートに視線を移すと、ノートは勝手にばんっとページを開いてマコトに中身を見せつけた。
「はじめまして誠くん! われはイダイなる科学のゴーストであるマヤカーナである! 誠くんが自由研究を終わらせるそのときまで取りつかせてもらうよ!」
開いたページには焦げ跡でそう書かれていた。
この日から、マコトとマヤカーナの共同研究が始まった。たまたま家の冷蔵庫の中にナスがあったことから、ナスを使った実験を行うことになった。
「誠くんはナスの汁をラーメンのメンに掛けると何色になると思うかい?」
これが実験の主題だ。マヤカーナの指示に従い、マコトはナスの皮を茹でてナスの茹で汁を作り、それをほぐした麺に掛ける。すると麺は少しずつ緑色に変化した。
「これはナスに含まれるアントシアニンという色素の効果だ! アントシアニンは混ぜるものによって色を変える。例えば酸性だと赤、アルカリ性だと青、といった具合に! 麺にはかんすいというものが含まれていて、かんすいはアルカリ性である。よってかんすいはアントシアニンによって青色に変化する。それが麺の黄色と混ざって緑色になるのだ!」
こうしてマコトはマヤカーナのおかげで無事に自由研究を終わらせることができた。
次の日、マコトは実験の内容をまとめたノートを中山先生に提出する。
「やればできるじゃないか。さぁ、他の夏休みの宿題も見せてもらおうか」
ニコリと笑う中山先生に対し、マコトは首を振る。
「やってない」
マコトの言葉を受け、悪鬼羅刹のようになった先生はノートに指先を向ける。
ビビビ!
長いようで長くない少し長い短編 黒水 @kuromizu9632
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