第4話 ひとこと。絆創膏。アイスキャンディー

ひとこと。絆創膏。アイスキャンディー


 さんさんと輝く太陽が恨めしい。場所が海なら大歓迎だが、ここは青い水平線ではなく灰色の地平線が続く通学路だった。元々今日は野球部の練習で汗だくになった上、自転車がパンクして盛大にコケてしまった。肘を擦りむいてしまい、地味に痛い。太陽に八つ当たりしたくなる理由を理解してもらえたと思う。

 声を出すのもはばかられる暑さの中、ふと目に入ったコンビニで小休止する。エアコンの効いた屋内はオアシスを通り越して冷蔵庫の中にいるように思えた。肌にじっとりと張り付いていたワイシャツは急速に乾いて着心地の良さを取り戻す。ガリガリ頭の少年がトレードマークのアイスキャンディーを購入し、外の手すりに座って袋を開ける。アイスを一口かじるとソーダ味の外堀の中から氷の粒がじゃらじゃらと喉に流れ込んでいき、甘い清涼感に感動して思わず目を閉じた。そうしてじっくり味わっていると、まぶたの裏が暗くなって何事かと目を開ける。


「やぁ。昼からアイスとは良いご身分だね」


 流れる黒髪を団子状にまとめ、黒縁メガネを掛けた白衣の女性がこちらを覗いている。保健室の魔女こと養護教諭の立花先生が目の前にいた。


「どうしてここに?」


「事務用品を買いに来たのさ。キミと違って忙しいからね」


 ひとこと多い。立花先生はかがんで俺の肘の擦り傷をじっと見つめる。


「怪我をしたのか」


 立花先生は内ポケットから絆創膏を取り出すと、慣れた手つきで手当をする。


「なぜ保健室に来なかったんだ」


「なぜって……」


 立花先生は人気がある。美麗な顔立ちとミステリアスな雰囲気を持っており、生徒の悩みを魔法のように解決していく様子から親しみを込めて魔女と呼ばれている。

 俺が保健室に行かなかった理由は下校中の怪我だからだ。でも、仮に部活中の怪我だったとしても保健室に足を運ばなかったことだろう。


 振られたばかりで気まずいから。


 数日前、俺は立花先生に告白した。立花先生は以前、同級生からいじめられていた俺を魔法のように救い出し、野球部という居場所を与えてくれた。今の俺がいるのは立花先生のおかげで、だから好きになった。立花先生は俺の告白を一笑に付さず真剣に向き合い、その上で振った。そんなことがあり、なんとなく気まずいのだ。


「……下校中の怪我だからですよ」


「ふーん。家は近いのか?」


「……いいえ」


「なら一旦学校に戻って手当を受けるべきだった。今後はそうしろ。」


「はい……」


 絆創膏を貼り終えた立花先生は、すっと立ち上がる。


「部活に熱を入れすぎて体を壊すなよ。わたしの未来の旦那様になりたいのだろう?」


 ひとこと多い。振っておいてそんな発言をするこの人は本物の魔女なのかもしれない。

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