第22話 バイトはじめます



「おはようございます」

「おはよう。…あった?穴」

「…いいえ」



レイナとデートをしたあの日から数日が経ち、毎日確認してみるが一向に「穴」は現れなかった。


一応、周辺を探してみたりもしたのだがそれらしきものは見当たらず、それからも俺が仕事に行っている間にレイナは一人で探しているようだった。


そういえば、レイナの靴擦れはすっかりと綺麗になっていた。

痕が残るのを心配していたが、そこには以前と同じ綺麗な真っ白な肌があるだけ。


後から聞けば、妖精とは元々身体の回復力が凄いらしい。

けれどそれは自然界から生命エネルギーを得て出来ることであって、このコンクリートまみれの街ではそれが難しいのだとか。


本当はこんな傷なら一瞬で治せるのほどのようだ。



「前に人間界に住んでたって言ったけど、そこは森とかあるところだったの?」



そんなことを思い出して、朝食の準備をするレイナに聞いてみた。



「いえ、前もそんなに今と変わらないですよ。ただ、庭に木々があったので今よりはマシでした」



レイナは20年前、人間界に薬学の研究で訪れていた。

人間界にしかない薬草が妖精界では貴重な薬になるそうで、その採取した薬草での研究をしていたのだと。


けれど、そこで疑問が生じる。


自然界からの生命エネルギーで傷が治せるのに薬学なんて必要なのか、と。

その話を聞く限り、妖精は不死身の身体なんだと思っていた。

しかしそれは軽い傷や体力回復程度のものらしく、治せないものはちゃんと治療が必要らしい。


だから妖精は寿命が長いとはいえ誰しも必ず「死」が訪れるそうだ。


それでも100年、200年、は当たり前で、だからレイナは82歳だがまだまだ妖精界ではひよっこなのだとか。


だからまあ、俺が以前ドラゴンに言った「23歳」という年齢も、人間界でいえばあながち間違いではなかったようだ。



「私の生まれて間もない頃は、まだ日本も緑が豊かで妖精が住めるような場所がたくさんありました」

「うん、82年前だからな」



染み染みと、昔の思い出を懐かしむように彼女はそう言った。

その表情はとても綺麗なのだが、やはり言っている内容がそんな年寄りくさいものなのでなんだか複雑な気持ちになる。


まあ、仕方ないことではある。

改めて思うが、レイナは俺の三倍以上生きているのだから。

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