第21話 占いなんて信じない



「家、すぐ近くだけど歩ける?」

「…歩けます」

「ごめんな、少し我慢して掴まっててね」

「ありがとうございます」



ハンカチのおかげか、なんとか歩けそうな彼女の身体を支えながらゆっくりと家までの道を再び歩いて行った。


漫画なんかだったらここでおんぶしたりお姫様抱っこなんかしたりするんだろうな、なんて思ってはみるが、こんな街中でそこまでできる勇気は俺にはなかった。


しっかりと彼女の腰に手を回して支えていれば、ふわり、と香る甘い匂い。


これは妖精特有の何かなのか。

食生活的にそうなのかはわからないが、全身に感じるような香水の甘ったるさとは全く違う、心地よく鼻に入ってくる、甘くてなんだか思わず舐めてしまいたくなるような匂いがする。


そんな匂いのせいなのか、美少女と密着しているからなのか、その密着した柔らかい肌触りのせいなのか、


きっとまあ全てのせいではあるのだが。


やはり男とはこんなもんで、変態的なそんな自分の感情に苦笑いしながらも、下心が溢れ出たドキドキと高鳴るその感情を不謹慎にも抑えることはできそうになかった。



–––––––––



それから数分間、なんだか勝手に気まずくなり一言も話さないまま家へ着いた。


ドアの前を一応確認してはみるが、相変わらず「穴」はなかった。



「ないな」

「…そうですね」



部屋に入りリビングに着くと、とりあえず彼女をソファーへ座らせる。


確かにどこかにあったはず。

記憶を探って棚の引き出しを全部開けてみれば、絆創膏と消毒液がそこにはあった。

それで手際良く手当をしてやれば、申し訳なさそうに眉を下げたレイナと目が合う。



「今日は色々とありがとうございました。最後に迷惑かけてしまい申し訳ありません」



迷惑をかけたのはこっちなのでは、と思うくらい彼女は何も悪くないのだが。

なんだかその言葉には、色んな意味も込められているような気もして、素直にそのまま受け取っておいた。


そんなわけで、浮き足だっていた休日デートは、なんとも言えない雰囲気で終わることになった。



「そんな顔しないで。綺麗な顔が台無しだから」

「ふふっ、またそういうこと言う」

「かっこよかった?」

「まあまあです」



眉を下げながら笑うレイナに、俺もつられて笑ってみせた。


そのまま彼女の頭をゆっくりと撫でると、サラサラと金色が綺麗に揺れる。



「一緒に帰る方法、考えよう」

「…ありがとうございます」



今日も消えたままのその「穴」は、また再び現れることはあるのだろうか。


なぜ、消えてしまったのか。


そもそも「穴」とは、何なのだろう。



まだまだ謎に包まれたこの状況を、理解はできないが、受け入れてみることにしよう。


俺は面倒ごとは嫌いだ。


だけど、彼女の悲しい表現はもっと嫌いだと、そう思ってしまうのだから仕方ない。

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