第20話 占いなんて信じない
「…あー、俺最低だわ」
そんな状況から早く抜け出したくて彼女の手をしっかりと握ったまま人通りを早歩きで抜けて行けば、途端に繋がっていた手が離れていった。
驚いて振り向けば、そこには苦しそうな表情のレイナがいて。
はあはあ、と息を切らして肩で呼吸をしていた。
「ごめん、大丈夫?」
「…すみません」
「いや、急いだ俺が悪いから。ちょっと休憩しようか」
とりあえず駅前のベンチにレイナを座らせると、近くのコンビニで飲み物を二つ買ってきた。
牛乳と、缶コーヒー。
「飲める?」と聞けばこくりと頷いたので安心してパックにストローを刺して彼女に渡した。
「大丈夫?」
「はい、もう少しこのままでもいいですか?」
彼女の様子を見れば、苦しそうな表情はどうやら足からきているらしい。
まさか、と思いサンダルを脱がせてみれば白く綺麗なかかとが赤黒く染まっていた。
ああ、俺ってやつはなんていうか。
これじゃあドラゴンのことをどうこう言える立場じゃないな、なんて思いながら自分の不甲斐なさに呆れていった。
「靴擦れだね」
「汚しちゃってごめんなさい」
「いいよ、捨てれなかっただけの物だし」
目の前にある痛々しいその傷は、俺がつけたものだと思えば心が痛んだ。
大事なものでもしかしたら取りに来るかもしれない、と、捨てられなかった元カノの靴はもう返せる状態ではなくなっている。
別に、元カノに対して未練があるとかそんなんじゃない。
ただ、わざわざ別れた後にこちらから連絡をして取りに来てもらうのも面倒になっただけ。
もしかしたら大事なものかもしれないと、向こうから連絡がきたら一応返せるようにしまっておいただけの物。
「捨てていいよ」と言われたすぐに捨てられたような物で。
俺の性格上、ただ、面倒ごとになりたくなくてそんなやり取りさえも避けてきた結果なのである。
そんな元カノの物を履かせて、靴擦れをさせたことに、なんだか無性に申し訳ない気持ちになった。
真っ白な綺麗な足に流れた赤は、はっきりとそこに主張していて、何に対しての罪悪感かわからなくなるほど全てに謝りたくなるのだった。
「水で冷やしたいけど、歩けないしな」
「そうですね」
「あ、ちょっと待って」
そういえば、と思い出したように俺はポケットの中に手を入れた。
「はい、これ」
そうだ、俺は持ってきていたのだ。
「今日のラッキーアイテム」を。
急いでそれを取り出して傷口に当てれば、サンダルの間に詰めていく。
そんな応急処置をすればレイナもだいぶ良くなったような表情をした。
「痛い?とりあえずこれで当たるところがマシになればいいけど」
「ありがとうございます。ふふっ、ハンカチちゃんと持ってきたんですね」
「あれ、テレビ見てた?」
「憲司さん牡牛座だったんですね」
「はずっ」
どうやら彼女も占いをちゃんと見ていたらしい。
単純な俺の行動を知られたのに少し恥ずかしくなり、顔が赤くなりそうなのを慌てて下を向いて隠してみるが多分遅かったのだろう。
くすくすと笑う彼女の声が聞こえれば、自分のダサさに笑えてくるのだった。
「やっぱり、ラッキーアイテムでしたね」
そう言った彼女はいつもどおり綺麗に笑っていて。
俺は「ラッキー」とは呼べないそんな物を見ながら思うのだった。
やっぱり占いなんて信じない、と。
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