第19話 占いなんて信じない



振り向けばそこにはいつも会社で顔を合わすそいつ、


佐々木隆之介ささきりゅうのすけ、もといドラゴンがいた。



「え、ちょ、やっぱお前彼女できてたのかよ!」



そしてなんてタイミングが悪いのだろうか。

しっかりと握られた俺たちの手を見て、交互に俺とレイナの顔を確認する。


予想通りそんなことを言うと、今度はレイナをまじまじと見つめ始めるので「はあ」と深いため息を吐いた。



「だる」

「親友に向かってだるいってなんだ!」

「とりあえず早く帰りなよ」

「ふざけんな!早く紹介しろ!」



そんな俺たちの突然始まった会話に彼女は一瞬身を引いて繋がれていた手を離そうとしたのだが、それは俺がぎゅっと力をいれたことにより叶わなかった。


いや、このタイミングで離したらなんかダサいし気に食わない。

そして手を離したところでこの面倒な状況が変わらないことを俺は知っているのだ。


俺の謎のプライドやらドラゴンの厄災に巻き込まれたレイナには申し訳ないが、ここは付き合ってもらうことにしよう。


そんな俺の行動にレイナは何かを察したのか、手の力を抜いてこちらを気まずそうに見るだけだった。



「あー最悪」

「俺はお前に嘘つかれて最悪だよ!」

「いいだろ別に。デート中だから邪魔すんなよ」

「つーかめっちゃ可愛いんだけど!どこで知り合ったんだよ!」

「とりあえずそのテンションどうにかしてくんない?」



空気を読めない、という言葉はこいつのためにある言葉なんじゃないか。

そう思うくらい今の興奮したドラゴンはかなりうざい。


これを大学時代の友人たちの間では「ドラゴンの厄災」とよんでいるほどだ。



(つーか、星座占いなんてやっぱ当たってねえじゃねえか)



そんなことを思いながら呆れた目線を向けているのだが、相変わらずドラゴンは俺たちなんてお構いなしでレイナを凝視しながら騒いでいる。


「モデルやってんの?」「名前は?」「年齢は?」「憲司なんかのどこがいいの?」などなどなど。


ドラゴンの厄災は止まらない。


ちらり、と彼女を見てみればとりあえず笑顔を貼り付けてはいるが、完全に困り果てている様子。


そりゃそうだ。これはどうにか逃げ出さないと状況もよくわかっていないレイナがあまりにも可哀想だ。



「名前はレイナ。23歳。モデルじゃありません」

「へえ、こんな美人ならすぐにモデルになれるけどな」

「あと俺の全てが大好きです。以上」

「…憲司、お前のそういうところ好きだよ」

「うん、どうも」



とりあえず質問に全部答えてやれば、ドン引き顔でそう言ったドラゴン。

適当に言ったそんな俺の言葉に隣のレイナも顔を引きつらせていたが、今はそんなことはどうでもいい。



「はい、これでもういいだろ。彼女人見知りなんだよ」

「そ、そうだな。ごめんね?レイナちゃん」



強制的に話を終わらせれば、ドラゴンもレイナが困っているのにやっと気づいたのか冷静になってそう言った。

眉毛を下げて申し訳なさそうに言うそいつにレイナも悪気はないことが伝わったのだろう。

「いえ、大丈夫です」と小さな声で言葉を返してお辞儀をした。


そして「じゃあな」とそそくさとその場を離れようとすれば、後ろから聞こえてきた馬鹿でかい声に俺は頭が痛くなるのだった。



「会社で詳しく聞くからなー!!」



ああ、まじで会社行きたくねえ。

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