第13話 彼女はできる女子でした



「明日休みだから買い物いこうか」

「え?」

「服とか色々。生活に必要なもの買わなきゃ」

「いや、そんな大丈夫ですよ」



食べ終わったお皿を片付けようとした彼女の手を止めてそう言えば、ぴくり、と掴まれたことに驚いたような表情をした彼女。

そして、その後続けた言葉を聞いて更に驚いた表情をする。



「ここでの生活、長くなるかもしれないでしょ?」



しかし、それはこの俺の言葉で悲しそうな複雑な表情へ変わっていく。


言った後、なんだか申し訳なくなって「ごめん」と一言謝ったが、そんな俺に彼女は小さく首を振った。



「今日、確認したんですけど、やっぱり妖精界に帰る穴はなかったです」



そう言って彼女は悲しそうに笑った。

その表情に思わず、ぎゅっと胸が締め付けられる。



「まあ、明日になったらあるかもしれないし」

「そうですね」

「だからそんな顔すんなって。思い出に人間界楽しんでいけよ。観光だと思って」



しんみりムードになってしまったので、とりあえず俺は笑ってみせた。

何笑ってんだよ、能天気なこといってんじゃねーよ、と思うかもしれないが俺には気の利いた言葉が他に思い浮かばなかったのだからしょうがない。


そんな俺の言葉に彼女も笑ってみせた。

無理をしているのはわかるけれど、先程までの悲しい表情ではなくなったので一先ず安心した。


ただでさえ白く儚げなレイナの悲しそうな表情は、なんだか心臓に悪いのだ。


本当に消えてしまいそうなくらい、悲しそうで、儚くて、とても見ていられないから。



–––––––––



それから、風呂が沸いたので入ると浴室もピカピカになっていた。

ぬめりなんてひとつもなくてまるでまるで入居したてのようだった。



「お先に。お風呂どうぞ」



そういえば、寝床もどうにかしてあげないといけない。

昨日はソファで寝るからベッド使っていいよ、と言った俺に最後まで反対して結局レイナがソファで寝たのだった。

今日はどうしたもんかな。どうせベッド使っていいよ、と言ってもあの性格じゃ断るに決まっている。


それなら一緒にベッドで寝るか、なんて、思ってはみるが。…いやいや、いくら82歳のババアとは言え見た目があんなんじゃ俺が困る。


別に性欲が溜まってるわけじゃないが、男女がそれもあんな美少女と寝たら気持ちとは別に身体が勝手に反応してしまうだろう。


だったら今日もレイナはソファになるのか?

いや、あんな硬いソファで二日連続はどうなんだ。


やっぱりここは煩悩を掻き消して精神統一をして一緒に寝よう。

俺だってもういい大人だ。中学生じゃないんだから。



「お風呂ありがとうございます」

「…やっぱ無理だ」



そんなことをぐるぐると考えていれば、いつの間にか風呂上がりのレイナがリビングへ戻ってきていて。


え、もうそんな時間経ったっけ、と相変わらずの女子とは思えない風呂の早さに驚きながら彼女を見れば、その艶っぽい姿に俺の煩悩はすぐに出動するのだった。


レイナ、ごめん。


そう心の中で呟いて、明日は必ず布団を買おう、と俺は一人決意した。

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