第13話 彼女はできる女子でした



「明日休みだから買い物いこうか」

「え?」

「服とか色々。生活に必要なもの買わなきゃ」


 ご飯を食べ終えた後。食器を片付けようと動き出した彼女の手を取りそう言えば、ぴくり、と肩を上げて驚いた顔でこちらを向いた。

 そして申し訳なさそうに「そんな、大丈夫ですよ」と、言う。


「ここでの生活、長くなるかもしれないでしょ?」


 しかし俺がそんな言葉を続ければ、一瞬彼女の身体は固まって眉を下げてぎこちなく笑うのだった。

 その表情に、今度は俺の方が申し訳なくなってきて「ごめん」と謝ることになる。


「今日、確認したんですけど、やっぱり妖精界に帰る穴はなかったです」


 そして、そう言って彼女は視線を玄関へと向けた。

 じっと一点を見つめるその瞳には少し影がかかって見えて、思わず握ったままの手にぎゅっと力を込めてしまう。


「まぁ、明日になったらあるかもしれないし」

「そうですね」

「だからそんな顔すんなって。思い出に人間界楽しんでいけよ。観光だと思って」


 なんだかしんみりとした雰囲気になってしまったので、そう言って俺は笑ってみせた。

 そんな楽観的な言葉に拍子抜けしたのか、彼女はいつの間にかクスクスとおかしそうに笑っていて。そして「ありがとうございます」と、そう言っていつものように綺麗に笑うのだった。


 レイナの悲しそうな表情はなんだか心臓に悪いのだ。


 いつも通りの様子になったレイナを見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。


 ◇


 しばらくゆっくりした後、風呂に入れば浴室までピカピカになっていて、まるで入居したてのようだった。


「お先に。お風呂どうぞ」


 そういえば、寝床もどうにかしてあげないといけない。

 昨日は「ソファーで寝るからベッド使っていいよ」と言った俺に最後まで反対して結局レイナがソファーで寝たのだった。


 今日はどうしたものか。どうせまた、あの性格じゃ断るに決まっている。


 それなら一緒にベッドで寝るか、なんて考えてもみるが、いくら82歳のババアとは言え見た目があんなんじゃ俺が困ることになる。


 性欲がそこまで溜まっているわけではないが、あんな美少女と寝たら気持ちとは別に身体が勝手に反応してしまうだろう。


 だったら今日もレイナはソファーになるのか?

 …いや、あんな硬いソファーで二日連続はどうなんだ。

 やっぱりここは彼女の為にも煩悩を掻き消して一緒に寝よう。俺だってもういい大人なんだ。中学生じゃないんだから。


「お風呂ありがとうございます」


 そんなことをぐるぐると考えていれば、いつの間にか風呂上がりのレイナが目の前にはいて、


 「……やっぱ無理だな」


 相変わらず女子とは思えない風呂の早さに驚きながら彼女を見れば、その艶っぽい姿に俺の煩悩はすぐに出動するのだった。


 レイナ、ごめん。


 そう心の中で呟いて、明日は必ず布団を買おう、と俺は一人決意した。

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