第12話 彼女はできる女子でした



レイナは想像以上に出来る女子だった。

流石王室メイドと言うべきか、本当、世間の女子に見せてやりたい。

まあそんなことを言えば「お前何様だよ」なんて全女子から批判がくるのはわかりきっているのだが。


昔、半同棲していた彼女は一生懸命料理を覚えようと頑張ってはいたけれど、それはもう自分のことでいっぱいいっぱいで俺に気を使えるほどではなかったわけで。


というかまあ、あれは多分、料理をしている自分に酔っているだけなんだと思う。

掃除や片付けなんかもそうだった。


一生懸命彼氏の為に頑張ってる自分、えらい、可愛い、みたいな。

ただただ頑張ったアピールをしたいのだ。


そういえば、そんな話を飲んだ時にポロッと言えば同僚に「クソ男」とすばらしい称号をいただいたな、と思い出す。


まあ、そんな「クソ男」からすれば自分の為に頑張ってくれる彼女はありがたいし嬉しいのだが、頑張ったアピールの見返りが恐ろしく負担になるわけで。


「私はこんなにあなたのために頑張ったのよ。貴方も私の為に何かするよね?何してくれるの?頑張りなさいよ」みたいな。


直接的にそう言われなくても、なんだか色んな言動でそう感じ取ってしまって苦痛なのだ。


好きでやってるわけじゃないんだったら出前でよくない?別にそこまで頑張ってほしいとは言ってなくない?と、心の中で思ってしまう俺はやはり「クソ男」なのだろう。


けれど、俺だってこんな考えではあるが別に亭主関白ではないし、別に彼女に何かしてほしいと思っているわけではない。


やりたくないなら無理してやらなくていいのにな、と単純に思うだけであって。

誰かが自分の為に一生懸命やってくれたことに対して「ありがとう」と、なにかこっちもしてあげたくなる気持ちだって勿論ある。


ただ、なんでだろうか。彼女、となるといつもこうで。

なんかお互い気持ちが噛み合わなくて上手くいかないのだった。



「レイナ食べないの?」

「私はこれ」

「あー、そっか」



出されたカレーを「いただきます」と言って食べ始めれば、彼女の分がないことに気がつく。

ちらり、とキッチンにいるレイナを見てそう言えば笑顔で紙袋からドーナツを取り出していた。


あ、そっか、忘れてた。こいつは甘いものを食べるのか。



「そういえば」



そんな彼女の姿を見れば朝見た時の俺の貸した部屋着姿ではなくなっていて、出会った時に着ていた真っ白なワンピースを着ていることに気がついた。



「外出たの?迷わなかった?」

「はい、大丈夫でした。いただいたお金で夕飯の材料と、あとトイレットペーパーきれてたので買いました。これ、お釣りです」

「まじか。助かるー」



そう言って手渡されたのはお釣りとレシート。ちゃんとレシートを持ってくるところがなんというかちゃんとしてるな、なんていちいちそんなことに感動していれば、今度は部屋の異変に気づくのだった。



「掃除もしてくれたんだ。さすがメイド様」

「はい。洗濯物はクローゼットにしまっておきました。勝手に開けちゃってすみません」

「いや全然大丈夫」



ピカピカになった床を見てみれば、掃除機だけではなく水拭きまでしているのがわかる。


ホコリひとつない部屋なんていつぶりだろうか。大掃除でもそこまで自分でやったことなんてないのだ。

そのおかげかいつもよりなんだか空気が綺麗になっている気もして、すーっと深く息を吸って吐けば、至れり尽くせりなこの状況にお腹も胸もいっぱいになった。



「レイナはすごいな。ありがとう」



素直にそんな言葉を伝えれば、レイナはいつものように綺麗に笑った。

そして「美味しかった。ごちそうさま」と言葉を続ければ俺は再びビールを口にした。


これは、幸せだな。


久しぶりの感覚が身体に巡り、ビールがいつもより数倍美味く感じるのだった。

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