第9話 彼女はできる女子でした
食べ終わった食器を片付けて手際よく洗い物を始める彼女を見ていれば、俺はふと思ったことを聞いてみた。
「レイナっていくつなの?」
「え?」
「肌の感じからしてまだ若そうだけど。なんかしっかりしてるから何歳なのかなぁって」
「あぁ、これは職業柄です」
キッチンで洗い物をする彼女に問いかければそんな言葉が返ってきた。
へぇ、妖精にも職業とかあるんだ。聞けば聞くほど面白い世界だな、なんて思いながらテレビをつければ今日の星座占いが始まったところだった。
さほど興味がないそんな映像を眺めながら再び彼女に言葉を投げかける。
「職業って俺みたいなサラリーマンとかいるの?」
「サラリーマンとは呼ばれていませんが、そういったお給料制で働いていますよ」
「レイナは何してるの?」
「王室でメイドとして働いています」
「あー、なるほどね。めちゃくちゃ納得」
王室メイドだったとは。だからこんなにもお世話し慣れてる感じなのか。
言われてみたら確かに品が良くてしっかりしていて堅苦しい口調なんかも王室感が漂っている。
「ていうか王国?あるんだ」
「あと薬剤師も兼任してます」
「え、どういうこと?なんかすごくね?」
いつのまにか年齢の話から外れているが、これはこれで気になる話になってきた。
話を聞いてみれば、なんでも妖精界には王国が三国ありレイナはその中でもとても平和な国で暮らしているようだった。
そして王室メイドとして働く前は薬剤師として働いていたらしく、人間界にはその薬の研究、人間界でしか取れない植物で作る薬の研究をする為に約20年前に一時期暮らしていたこともあるらしい。
けれど、ひょんなことから王女様に気に入られてしまいメイドに転職させられたとか。
しかし彼女の薬剤師の腕は王宮でも評判がよく王宮薬剤師としても研究は続けて欲しいと国から言われた為、今でもメイドと兼任して続けているようだった。
そんな話をへぇ、すごいな、なんてぼうっと聞いていたのだが。
……もしかして、もしかしなくてもレイナはかなりすごい人なのでは?と、思うのだった。
しかしまぁ、なるほどな。なんとなく辻褄が合ってきた。
わりと人間界のことに詳しいのはこっちに住んでたからなのか。昨日言っていた「自分のお店は持ってません」は、きっと店で薬を売っていたからなのだろう。
「なんかお前も大変だな」
「まぁ、今の仕事も楽しいので」
「ていうか20年前って、まじでレイナいくつなんだよ」
話を聞いていれば色々と気にはなることが多いのだが、そんなことよりも結局はレイナの歳の件が一番重要なのである。
「 82歳です 」
そして、返ってきたその言葉に俺は絶句するのだった。
「えっと、ジョーク?」
「いいえ」
「レイナはおばあちゃんなの?」
「まぁ、人間の年齢で考えれば」
「…まじか、ショックだわ」
そんな言葉に驚いて後ろを振り向き彼女を見れば、洗い物が終わったのかこちらへ戻ってくるレイナがいた。
その表情はいたって真面目でこれがジョークではないことがわかる。
そしてすとん、と再び俺の横に座った彼女。
改めて近くでまじまじと見てみるが、82歳には到底見えない。
「そんな哀れんだ目でみないで下さい」
「こんな可愛くて綺麗なのに」
「それはどうも」
じっと見つめながらそう言うと、彼女は何ひとつ照れる素振りを見せずに言葉を返すのだった。
うわ、こいつやっぱモテてきてやがる。82歳のババアのくせに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます