第10話 彼女はできる女子でした
そんな会話をしていれば「そう言えば」と言って何かを思い出したような表情をするレイナ。
何だろう、と思い言葉を待てば「あ、紙とペン貸してください」と彼女は言った。
そしてそれらを出して持っていけば「質問していいですか?」と言う。
そんな状況に何が始まるのかと思えば、
「お名前聞いてもよろしいでしょうか」
と、面接のような堅苦しい雰囲気でそんな質問が始まるのだった。
「あ、自己紹介してなかったっけ」
「はい。これから生活していく上で家に置いてもらってる身の私は粗相のないようにしなければいけませんから。貴方の情報を把握しておきたいのです」
「いや、そんな堅苦しくしなくてもいいから」
さすが王室のメイドと言うべきなのか。
これはしっかりとしているというかプロだからなのか、ただただお堅い性格だからなのか。…いや、82歳のババアだからか。
なんだか引いてしまうくらいの彼女のその行動に俺は「はあ」と大きく溜め息を吐いた。
「あのさ、適当でいいから。仕事じゃないんだし友達感覚でいいよ」
「…え?よろしいんですか?」
「うん。敬語もいらないし。つーかレイナの方が年上だし」
「これは口癖なので」
「…あっそ」
呆れたような表情で言えば、レイナはどこか嬉しそうに笑った。
そして再び自己紹介を促してきたので自分のことを彼女に伝えることにする。
「
で、俺が仕事でいない間なんかあったらこの番号に連絡して。…って、スマホないのか。
あーまあ、とりあえずここに俺はいるので」
そう言って俺は鞄から名刺を取り出して会社の住所を指差した。
「あ、タブレットあるからそれで連絡できるわ」
「タブレット?」
「タブレットはわかんないの?」
「20年前にありましたか?」
「あーうん、なるほど」
そうか、レイナはどうやら20年前の知識がほとんどらしい。
とりあえずタブレットを渡して操作をゆっくり教えてみれば、すぐに覚えてくれたので安心した。
ついでに何年か前に付き合っていた彼女のために作った合鍵と現金を渡したら、「これで夕飯とか材料買って。あと必要なものあったら」と言葉を続ける。
その後は好きな食べ物や嫌いな食べ物、アレルギーなどを詳しく聞かれた。
掃除の仕方とか、触ってほしくない場所はあるか、等々、その答えを全てメモしていくと「ありがとうございます。了解しました」と言って彼女は再び笑顔になる。
「やべ、時間だから行くね」
そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎていて、直ぐにスーツに着替え準備を済ませると俺は玄関へ向かっていく。
そして出て行く直前、言われた一言になんだか変にむず痒くなるのだった。
「いってらっしゃい、憲司さん」
あー、なんか、なんだろうこれ。
久しぶりの人と食べる朝食。
朝からみる綺麗な笑顔。
送り出されるそんな言葉。
「…いや、はずっ」
なんか、うん、なんかこれはなあ。
そんな言葉しか俺の口からは出てこなかったが、扉を開けば空は快晴で、とりあえず気持ちの良い朝だった。
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