第6話 土砂降りの雨の理由



突然、もやもやとしたピンク色の煙がレイナちゃんの身体の周りを包み込みポンッと何かが弾けるような音がした。


するといつの間にかそこにはいたはずのレイナちゃんが消えていて、


代わりに現れたのは小さな小さな女の子。



「ごっっほごほっ!!…え、えっ、ちょ、何、これ」



その小さな女の子の背中にはあろうことか羽根が生えていて、それをパタパタと動かしながら宙に浮かんでいるではないか。


その姿は、まるで誰もがイメージする「妖精」そのものだ。



「これで信じてもらえますか?」



そんな光景に唖然としていれば、にこりと彼女は微笑んで小さな口を動かしてそう言った。


これはどういうことなのだろうか。

酔っ払って変な夢でも見ているのだろうか。

けれど持っていたビールを確認したが半分もまだ減っていないし、先ほど吹き出した分と今吹き出した分を考えたら三口くらいしか飲んでない。


二度目のビールを吹き出した俺は、目を見開いて確認するがやはりそこには確かに小さな羽根の生えた女の子が宙に浮いているのが見える。


先程までいたレイナちゃんそっくりの女の子が。


いや、というか、手のひらサイズに小さくなったレイナちゃんが、そこにはいる。


全身に鳥肌がたつのを感じながら俺は恐る恐る彼女に近づいた。

大掛かりな手品か何かなのかと念入りに彼女の周りを探ってみたが種も仕掛けも見つからない。



「本当に昨日までは貴方の部屋の前に妖精界と人間界を繋ぐ穴があったんです。

私はそこから一昨日人間界に来ました。

でも帰ろうとしたら何故か穴がなくなっていて。


だから、迷子なんです」



なんかもう、これは笑うしかないのではないか。


俺の目の前には妖精がいて、そもそも俺の部屋の前には妖精界と人間界を繋ぐ穴があって、それで妖精を俺は部屋にあげて、風呂を貸して、迷子になったと聞かされて。


なんだこの面白すぎるファンタジーエピソードは。



「…あははっ、あーやばい」

「な、なんで笑うんですか!笑うところじゃないですよ!」

「だって面白いから」

「こっちは真剣なのに!」

「おもしれー妖精が怒ってる」

「何この人!変」

「妖精に変って言われたんだけど。ははっ、やべー意味わかんねー」



こうなったらもう笑いは止まらなかった。

今、この急激な非現実的ファンタジー展開に頭はついてくるわけもないし目の前の「妖精」である彼女が何をしても面白いのだ。


そもそも理解不能なこの状況で真剣に話を聞くなんて無理な話なのである。


そんな、あまりにも笑う俺を見て顔を少し赤らめたレイナちゃんに一応「ごめんごめん」と謝ってみれば不貞腐れたような顔をした。



(あ、また可愛い顔してる。でも妖精、ぶふっ)



妖精になった彼女も相変わらず美少女で、相変わらずムスッとする表情は可愛くて。


とりあえず「妖精」というものはまだいまいち信じていないが、この状況は有りとしよう。


そんなことを思考停止した頭で思うのだった。

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