第5話 土砂降りの雨の理由
俺は幽霊とかUFOとか、そういったものは信じていない。
生まれてこのかた見たこともないし感じたこともないからだ。
怪談話は好きだ。単純に話が面白かったりして、夏の風物詩として趣を感じるし何より盛り上がるからだ。
それもまぁ、ただ好きというだけで信じたことは一度もない。
だからこの目の前の女が口にした「妖精」という存在も、勿論俺は信じていない。
「えっと、そういうお店で働いてるの?」
突然すぎる妖精発言に笑いそうになる口元をなんとか押さえて、とりあえずそんな返事をしてみた。
なんだろう、もしかして「フェアリーガール」とかそういった名前の店で働いてたりするのかな。
それでお客さんの部屋番号間違えて迷子になった、とか?スマホも置いてきちゃって困ってるとか?それならめちゃくちゃ間抜けだろ。
そんなことを考えてみれば、やはり押し上がる感情を我慢することはできなくて、口元を一応隠してはみるが多分堪えられずに笑ってしまっていることだろう。
「あの、信じてないみたいですけど私本当に妖精です」
「あーはいはい。名前はレイナね?あとお店の名前は?調べて連絡してあげるよ」
我慢することも諦めた半笑いであろう俺を見て、眉間に少しシワを寄せながらムッとした表情を向ける彼女。名前は「レイナ」と言うらしい。
「なにそれ、可愛い」なんて俺が思っているとはつゆ知らず、バカにされて怒っているのだろうか、こちらに近付くと真剣な表情でじっと見つめてくるのだった。
「自分のお店は持ってません」
「ふーん、とりあえずレイナちゃんで調べてみるか」
「この部屋の前に昨日まであった妖精界と人間界を繋ぐ穴がなくなってしまいました」
「あ、だから迷子なんだ」
これは、そういうお店の設定で挨拶するときの決まり文句なのだろうか。
それとも俺がおもしろがっているのを見て、逆にそれにノッてくれているとか?
というか自分のお店は持ってないって、やっぱりお店では働いてるってことだよな?
設定がややこしくてよくわからないが、それにしても真剣な表情すぎてなんか怖い。
…やはり彼女はもしかして、不思議系のやばい子だったりするのかもしれない。
そんな会話をしていれば、面白いのと面倒なのが半々になってきたわけで。
とりあえず適当な返事をして会話を終わらせようと思う。
今日はもう寝てしまおう、と色々とやりたかったことを断念して俺はソファーから立ち上がるのだった。
「もういいよ。どうする?寝る?」
「やっぱり、この姿だと信じてもらえないですよね」
「え、なに?裸になって妖精です、とか言うのやめてよ?…いや、悪くはないな」
「牛乳ってありますか?」
「…急に話変わるね。あるけど」
喉が渇いたのだろうか。彼女は急にそんなことを言う。
風呂上がりになにも出さなかった俺も悪かったな、なんて思い冷蔵庫を開けて牛乳をグラスに注ぐと「どーぞ」と彼女に差し出した。
それを受け取れば、怒っているだろうにしっかりと「ありがとうございます」と律儀に礼を言い、素早くごくごくと飲み干していく。
そして白かったグラスが半透明に変わった時、俺は衝撃的な光景を目の当たりにするのだった。
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