第4話 土砂降りの雨の理由



急いでシャワーを浴びてこれば、リビングには先程と同じ場所に突っ立ったまま、静かに窓の外を眺めている女がいた。


一応「お風呂先にどうぞ」とレディーファーストを試みたが案の定遠慮されたので、俺は湯船に浸かるのを断念していつもより早くシャワーを済ませたのだった。



「お風呂どうぞ?お湯もはっといたから。浸かったほうがいいよ。女の子だし」



そんな彼女に話しかければすぐにこちらを向いて「ありがとうございます」と言う。

脱衣所に案内をしてタオルと適当な部屋着を渡せば小さく頭を下げられた。


一応、礼儀はちゃんとしているらしい。

いや、玄関先でしゃがみこんでいる時点で礼儀はなっていないのだが。

それでも「ありがとう」や「すみません」という当たり前のことが言える、ということは人並みの礼儀はあるわけで。

素性がわからない分それがわかっただけでもなんだか少し安心した。


よし、後で脱いだ服は洗って乾燥機にかけておいてやろう。部屋着のまま帰って後日返しに来られても面倒だしな、なんて考えながらパタン、と扉を閉めればすぐにシャワーの音が聞こえてきた。



「あー、まじで疲れた」



女子のお風呂は長い。

これは、一人っ子の俺が同棲を経験して知ったひとつである。


というわけで先にビール飲んでNetflixを観ることにしよう。

やっとひと段落着いて身体の力がふっと抜けていくのを感じながら、冷蔵庫から冷えた缶を取り出して俺はソファにダイブした。

テレビをつけてスタンバイオーケー。よし、やっとゆっくりできる。

とりあえず今は彼女のことは深く考えないことにしよう、と現実逃避を決め込んで準備をしながらダラダラとスマホをいじっていれば、ガチャンとドアが開く音がした。


すると、15分もたっていないだろうに彼女が脱衣所から出てくるのだった。



「お風呂、ありがとうございます」

「…ああ、うん、早かったね」



はい、現実逃避、終了。


数分間の現実逃避が終了して、再び向き合うことになったこの現実。

そして「女子のお風呂が長い」は個人差があるということを俺は今日知った。



「うわ、やっぱぶかぶかだったね」



彼女を見てみれば渡した俺の部屋着を着ていて、間違いなくこれは「ザ男心をくすぐる格好」であった。

そしてやはり美少女の爆発力は凄まじく、血色の悪かった真っ白の肌はほんのり桜色に染まっていて艶やかで、格好も相まって勝手に鼓動は速くなる。


そんな彼女の姿をまじまじと見て「彼シャツ」ならぬ「彼部屋着」も、着る人により個人差があることを俺は今日知るのだった。



「で、君の名前は?なんであそこにいたの?」



そんな考えを誤魔化すように再び話しかければ、くりっと大きな瞳と視線がぶつかる。

日本人では珍しい綺麗な蜂蜜色の瞳。


カラコンでもしているのだろうか。それとも外国人?けれど普通に日本語を話しているところを見るにハーフなのだろうか。


しかし、その言葉にはすぐに返答がなく、なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして「まあ、答えたくなかったらいいけど」と言葉を付け足してみると、



「はじめまして、妖精のレイナです」



返ってきたのはそんな言葉で、俺は思わずビールを吐き出したのだった。

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