第3話 初めての魔族友達

「えっ…あなたは魔族?生き残りがいたの!?」


「はい魔神様、貴方様にふさわしい肉体を見つけたのでその肉体の元に貴方様を送り届けたのです」


(私がふさわしい肉体???いやそれよりも)


「とりあえず入って!ボロボロじゃない、ケガ見せて?」


「は…い」


フラフラと私に倒れ込んできた、既に限界だったのか彼女はそのまま気絶してしまった


「ねぇマタマ、この子大丈夫かな…とりあえず回復魔法使うけど」


『…分からん、だがこの傷は勇者の力を感じるな、おそらく我らにふさわしい肉体が現れた時に起動する蘇生魔法を組み込まれた、魔族最後の切り札と言ったところだろう』


「そ、そうなんだ…とにかく無事でいてっ!」


目の前で同じ魔族に死なれるとか夢見が悪い、そう思いすぐさま回復魔法をかける


「……あれ、私は…」


「良かった目が覚めた!おはよう魔族さん、大丈夫?」


「…はい、体の方は大丈夫です、あっ…も、もしかして魔神様ですか!?」


「あはは…うん、魔神…だね」


「回復までして頂けるとは…本当にありがとうございます」


そういい私の腕に頭を預ける少女はどこか落ち着いた表情をしていた、やはり彼女も素晴らしい美貌である


「ねぇ魔族ちゃん、名前を教えて貰えないかな私はイフィティっていうの」


「私ですか?わたしはアイネといいます…それにしてもイフィティ様ですか…ふふっ」


「あ、もしかしてだけどイの多さに笑ってる?」


「ふふふふ…は、はい、なんだか不思議な名前だなって思いまして…ご、ごめんなさい…ふふ…」


彼女の顔に笑顔が戻ったようだった、よく大事なことなので3回言いましたみたいな名前と言われる私の名前、彼女が笑顔になったのならそれでいいのだろう


「もう!あまり人の名前で笑っちゃダメだよ!でもまぁ…元気になってよかった」


「は、はい…ごめんなさい、でも嬉しくて…魔神様にこんなに良くして頂けるなんて…きっとわたしは魔族1の幸せ者です」


「もう…さ、それじゃあ家に帰って…あそっか…この子は…」


『そうだな…こいつには帰る家等無いぞ』


「……ごめん」


言いかけて中断する、そう、魔族はもう滅んでいるのだ、彼女は私を魔神にする為に蘇生したに過ぎない、きっともう家族もいないのだろう


「どうされました?魔神様」


(あれ?マトマの声聞こえてない?)


『我らは今お前の魔族化を維持する事に全ての力を使っているからな、お前と我らの間でのみしか会話はできん』


(そうなんだ…念話みたいなものかな)


「うんん、何でももないの、それはそうとあなた、せっかく魔神なわたしはこうして復活した!それなら友達にならない?」


「えぇ!?魔神様と…と、友達ですか!?いくらなんでも畏れおおいですよ!」


この子にとってわたしは希望のような存在なのだろう…そう思いわたしは魔神として接する事にした、そして友達になりたい


「そんなことないよ、私がいいって言ってるんだよ?それなら遠慮なんてしなくていいの」


「そ、そうですね…じゃあイフィティ様…いや、イフィティ?」


「えへへ、そうだよ!イフィティだよ〜でも長いしイフィでいいよ!」


「嬉しい…イフィと友達…」


「これからよろしくねアイネちゃん!」


そうしてわたしは新しくできた友達とプレゼントの整理を済ませた


「…ふぅ、これで全部かな!ありがとう2人とも!」


『ふん、この程度造作もない』


「やった…イフィに褒められたっ、あ、うん!どういたしまして!」


これで準備は完了だ、部屋はすっかり入居したばかりの様相となり少し寂しい気分がわいた


「さてまずは旅の目的地を決めないとだよね〜、よいしょっと」


床に世界地図を開いて初の旅先を決めることにする


『どこへ行くつもりだ?転移魔法は一度行った所にしか行けぬから気をつけろよ』


「そうだねぇ…実はわたしお金を貯めるためにこの国から出たことがないんだ、だから手探り冒険になると思う」


「イフィは強いからどこにでも行けちゃうよ!」


「ふふーん!まぁ私ったらすごい子だもんね!」


そんな緩やかな会話をしつつ旅先を決める、とりあえずは1番近くにある街、シグルラ街へ向かう事にした


「ここはどんな街なんですか?」


「ん〜…聞いた話だとモンスター素材の加工を中心産業に栄えた街みたいだよ?すごい品質がいいとか!行ってみたいねー!」


『モンスター?なんだそれは』


「モンスター?初めて聞きました…もしかして魔獣の事かな」


「え?5000年前はモンスターいなかったの!?」


驚きの言葉が2人の口から飛び出した、モンスターは様々な動物の姿をした凶悪な存在で多くの人の命を奪ってきた存在だ、私はてっきり5000年前から存在しているとばかり思っていたが…


『なるほど、確かにその可能性があるな、イフィティよそのモンスターとやらは獣の姿をした存在か?』


「うん、獣の姿で人間には使えない不思議な魔法を使って攻撃してくるこわぁーい存在だね…昔からたくさんの人が犠牲になってる」


「それならやっぱり魔獣だね…呼び方が変わっただけみたい」


「なるほど…昔はモンスター=魔獣なんだ…ふむむ…」


なるほどと相槌を打つ、特に存在に変化があった訳では無いようだ


「さ、それじゃあそろそろ明け方だし出発しよっか!」


『そうするとしよう、行くぞ』


そうして私達は部屋を後にしようとする…しかし


「…あれ、アイネちゃんどうしたの?」


何故か動こうとしないアイネ、その顔はなんだか悲しみを孕んでいるように見えた


「その…ごめんなさいイフィ、私はどうやらここまでみたいです」


「…へ?」


唐突にそう言われる私、どういうことなのだろう


『…残念だがその体はもう限界なのだよ』


「え、え、どういうこと!?限界って…さっき回復してあげたじゃん!」


雰囲気から察するに彼女が死ぬという事だろうか…あまりにも唐突なできごとにわたしは困惑する、


「この体は魔神様復活のために一時的に蘇ったに過ぎないんです…蘇生魔法をかけた後魔王様を討った勇者によって私も致命傷を負って…魔族復興のための最後の手段…それが私なんです、使命を果たしたら消える運命なんです」


「…な、ならもう一度回復をっ」


『回復はもう無意味だぞ、何せ勇者の一撃だからな、魔族であれば魂ごとダメージが入る、肉体を回復したところでなんの意味もない』


「………」


何も言えなかった、せっかく友達になれたと思ったのにもうお別れだなんて


「イフィティ様、泣かないでください…わたしは使命を果たしたんです、貴方のために働けて…何より友達になれて嬉しかったんです…あまりにも短かったですけど…私にとって宝物のような時間でした」


「さようなら…」


「ま、待って!」


私が何とか彼女を引き止めようとする、しかし無意味に終わってしまった、私が彼女に抱きついた直後笑顔を残してアイネは紫の光になって消えた


「…そんな……」


『安心しろイフィティ、彼女はまだ助かる可能性はある』


「…へ?」


失意に打ちのめされ膝から崩れ落ちていた私だがマトマが声をかけてきた


『我らがどんな存在か言っただろう?我らは魔族の魂の集合体、今倒れたアイネの魂も無事確保している』


「!?ほ、本当に!?」


「ああ、だがさっきも言ったが勇者の攻撃をうけ魂にダメージが入っているからな、復活させるには多くの時間がかかる、それでも確実に蘇らせられるのは事実だ」


「そっか…それなら必ず復活させてあげないとね!」


光明が見えてきた、わたしは初めての魔族友達を失ってなんてなかった、まだすぐそばにいるのだ…今はまだ無理だろうけど旅を続けていればきっと蘇生させる機会を得られるはずだ


「そうと決まれば出発しよっか!必ず復活させてあげるからね…アイネちゃん」

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憑依少女の魔族解放譚 甘星 @35hoshi

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