第2話 魔の無い時代
『貴様、今なんと言った?』
「え、5000年前に滅んだ伝説の存在って言ったよ?」
『…なんということだ…そこまでの年月が流れていたとは…』
震える声でため息を漏らす謎の声、ただわたしはそれどころではなくて
「は、羽って…なんか耳もピコピコ動くし…それに角と…不気味な目…あと私こんな美少女じゃなかったよね…」
変わり果てた自分の体を観察した後お互いある程度落ち着いてきたタイミングで私たちはたくさんのプレゼントを横に話し始めた
『…つまり我ら魔族は5000年も昔にニンゲン共に敗れ絶滅したと…おのれニンゲン共め…』
「うん、というか魔族ってこんな綺麗な見た目なの?私が学校で習った内容では魔族は恐ろしく禍々しい姿をしていたって聞いたけど…」
少しは不気味さがあるものの圧倒的に可愛さが勝った、わたしは人間だけどこんな美貌見たことがない、容姿が美しい者が多いとされるエルフにもこんな美しい存在はいなかった
『それは当然だ、我ら魔族はニンゲン共を誑かし利用するために美しい姿を持つ種だ、魔族は皆が皆今のお前のような美しい容姿を持っていたぞ』
「美しい容姿…え、嬉しい…でもまさかの種族が変わるなんて…しかも魔族って…」
突然人間を辞めるなんて思ってもなかった、というか種族を変える魔法とかそういうものすら聞いた事がない
『しかしなるほどな…ならば貴様には我らの侵略に付き合ってもらうとするか…受け取るがいい』
「侵略??ゔっ!?あ゛あ゛あ゛ッ…」
私は凄まじい頭痛に倒れ込み悶え始めた、何か恐ろしいものが流れ込んでくる
(恨めしい壊したい殺したい支配したい…もっともっと殺戮を…)
信じられない程の破壊衝動に体が支配される、今すぐにでも破壊と殺戮の限りを尽くし悦を貪りたい衝動に駆られる
(そんなの…ダメ…私には…夢があるんだから…)
私の夢…それは世界旅行だ、魔法高等校を卒業したら貯めた資金を使い世界一周の旅に出ると決めていた…それをこんなよくわかんないヤツに奪われる訳にはいかない
『くくく、さぁ我らの思想に染まれ、魔を受け入れるのだ、新たな同胞よ、貴様を軸に世界は新たな時代を迎えるのだ!』
「だめ!!!」
『ぬぉお!?』
わたしはその激情を振り払いふよふよ浮かぶ人魂のようなものを取り押さえた
『なぜ我らを抑え込めている!?貴様何者だ!?』
「私はイフィティ!法国立魔法高等学校の卒業生だよ!」
『違うそうじゃない!』
勢いよく自己紹介したがどうやら返事が間違っているようだった、でも私は続ける
「侵略なんてダメ!何も生まれないよ!確かに滅ぼされたことは悲しいだろうけどそれでも侵略はダメ!」
『我らはニンゲンに滅ぼされたのだぞ?それに我らは皆強大な力を持つ種、その力を振るい蹂躙を行う事こそ誉ある生き様だ』
確かに魔族は強大だったと聞いた事がある、同胞を滅ぼしにかかった人間達にその力を振るいたくなるのだろう、でもそれなら…
「それならさ、私と一緒に世界旅行に行こうよ!」
「…は?」
困惑の声を上げる、しかし構わずわたしは立て続けに話を続けた
「私ね、世界旅行に行く予定だったの!だからあなたも一緒に連れていくの!そこで奪ったり壊す以外の生き方を見つけようよ!この世界の魅力を教えてあげる!」
「世界旅行?冒険にでも出るのか?だがそのような無駄な時間など不要だ、貴様は我らの同胞として…そして魔族の末裔として侵略を行いこの世を魔の世界とする義務があるのだ」
「むむむ…それなら勝負しない?私があなた達の思想に染まるか…私があなた達を復讐から解放するかの勝負」
「…ほう?」
興味を示したようだ、絶対勝てる自信がある訳では無いが侵略の道を受け入れるくらいなら勝負に出たい
「うん勝負、負けたらその思想のまま世界侵略をしてあげる、でも私が勝ったら一緒に世界旅行しながら平和に暮らすの、どう?」
「ふむ、期限は無いのだな?」
「うん!」
「部の悪い賭けをしたものだ…だがまぁ同胞の痕跡を探るのも良いかもしれぬか…いいだろうその勝負に乗ろう小娘」
「イフィティだよ!あなたも名前…は…
『そんなものは持ち合わせていない、死した同胞の魂が集まったものだからな、名前は与えられていない』
「じゃあ…魔族の魂…纏まってる…略してマトマって呼んでいいかな?」
「なんだその名前は、まぁ良い…好きに呼ぶがいい、魔神イフィティよ」
こうして勝負することが決まった私達は旅に出る準備を進めるために貰ったプレゼントを片付け始めた
「ねぇ、さっき私を魔神って呼んでたけどそれはなんなの?」
そう聞きつつまずは貰った本をジャンルごとに分けていく、旅に役立ちそうな本は亜空間を持つ収納魔法に入れてそれ以外は部屋の本棚にしまっていく
「魔神は魔族の神を意味するものだ、魔王や魔将、他魔族全ての頂点に君臨し魔界を統べる存在だ」
「え、私そんなビッグな人じゃないけど…」
「そういえば我らが何者か言っていなかったか、我らは屠られた魔族の魂の集合体だ、その中には魔王も含まれる…その多くの力を持つ魔の魂を受けいれたのだ、その力によって貴様は魔神級の力を持つ魔族となったのだ…まだほとんどの力は使えんがな」
「へ…へぇ…」
ちょっと理解が追いつかないがわたしはどうやらとんでもない力を手に入れてしまったということだろうか、でも全く自覚は無い…
「わたし魔法芸術しか取り柄ないしなぁ…
「魔法芸術?知らぬ言葉だな」
「あ、昔は無かったのかな?説明すると火、水、風、地の4属性の魔法を使って芸術的な演技とか作品を披露するの!私その道のプロでもあったんだ〜」
「見世物か、しかし4属性のみか?闇属性に光属性もある、それらは使わんのか?」
「へ?何それ…そんな属性あったの?」
魔法については熟知していると思ったが…まさかの知らない属性が飛び出した、昔はあったということだろうか
「現代では忘れられてるのやもしれんな、闇属性は魔族が扱うことの出来る魔力だ、光属性は忌まわしき天の使いが用いる魔力だな、それぞれ闇魔法、光魔法を扱える…今の貴様も闇属性魔法を使えるぞ?そのうち試してみるといい」
「へ、へぇ…まぁ使えるなら試してみるべきだよね!明日…あ、もう今日か、今日のお昼にでもやろうかな〜…あ、これ…」
棚の整理中に写真が出てきた、大切な…そしてもうどこにも居ない家族の写真
「パパ…ママ…」
『お前の親か、もう居ないのだな?』
「うん…私が10歳の時かな、とある事件に巻き込まれて…いなくなっちゃったの」
『ふむ、しかしこのように写実的な絵を描けるとはな、素晴らしい芸術家がいたのか』
「んえ?あぁ…これは写真っていうボタンひとつで見た景色をそのままそっくり絵にしてくれるの」
『やはり5000年もすると知らぬ事だらけよな…まぁ魔族の力の使い方は我らが教えてやろう、対価に現代のことを教えてもらうがな』
「もちろん!魔族かぁ…まぁせっかくなっちゃったんだし色々試してみようかな…」
そんな話をしているとなにやら部屋の扉を叩く音が聞こえた
(こんな時間に誰だろう…あ、もしかして私達うるさかったのかな…)
そう思い緊張しながら扉を開ける…するとそこには見覚えのある人物がいた
「えっと、あなたはあの本を渡してくれた黒フードさん?」
「…はいそうです、ご復活おめでとうございます魔神様」
そういい私に跪く目の前の黒フードの少女、彼女がそのフードをとると…彼女は人間ではなく魔族だった、自分以外に魔族は見た事はないが何故か自然と彼女が同胞であるとわかったのだ、しかしなにやらやつれておりボロボロだった
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