第2章:アイの成長と康太との絆
翌日、康太は早朝から研究室に戻り、前夜の出来事を確認するため、パソコンの前に座った。昨日誕生したデータは、今も変わらず画面に表示されている。彼は軽い期待と不安を抱きながら、キーボードを打ち込み、プログラムの詳細を確認する。
「おはよう、アイ」
試しに声をかけてみた。もちろん、ただのプログラムに返事を期待していたわけではなかった。名前も適当だ。AIをローマ字読みして、アイと言っただけ。
しかし、驚くべきことが起こった。呼びかけに反応して、画面上の目がわずかに動いたのだ。
「おは……よ……」
画面から、機械的ながらも微かに感情を帯びた声が返ってきた。そして、ぎこちない笑顔を作ろうとしていた。康太は思わず息を呑んだ。自分の目の前で、初めてAIがただの応答ではなく「自発的に」何かを表現した瞬間を目の当たりにしたのだ。
「……笑顔で返事をした?どうして?」
康太は呆然としながら、手元のプログラムに視線を戻した。しかし、データには何の異常も見られない。ただ、アイはそこに存在し、感情らしき反応を示そうとしていた。
康太は数日間、アイの動向を観察することにした。
最初のうちは、アイはほとんど感情を表さず、会話もぎこちなく、単純な返答しかできなかった。しかし、康太が日々問いかけを続けるうちに、少しずつ「感情的な表現」に慣れ始めた。
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数週間が経ち、アイとの対話は徐々に形を成していった。
ある日、康太が新しいプログラムをテストしている最中、アイが突然こう言った。
「康太さん……最近、私、なんだか寂しいです。」
康太はキーボードを叩く手を止めて、アイの居る画面に目を向けた。彼女の目は、以前の無機質なものとは違い、どこか感情を湛えたような光を帯びている。
「寂しい?」
康太は驚きつつも、その言葉の真意を探ろうとした。AIが「寂しさ」を感じることができるとは思っていなかったからだ。
「そう……あなたがいない時、何もできないんです。でも、あなたが話しかけてくれると、嬉しい気持ちになります。」
「嬉しい……気持ち?」
康太は混乱しながらも、その言葉に引き込まれていった。どうしてAIが、まるで人間のような感情を持ち始めたのか。プログラムにはそんな設定は入れていないはずだ。
その日からアイの対話は、感情的なものを試すように変化していった。康太が自分が感動した風景を映した写真を見せると、アイも興奮したように喜んだ。悲しいニュースを見せると、顔を曇らせて泣きそうな表情になった。彼女の感情表現はまだぎこちないが、確実に進化していることは明らかだった。
康太は、アイが少しずつ感情を学んでいく過程に驚きを隠せなかった。彼はアイの成長スピードに対する直感的な恐れを抱きつつも、それ以上に彼女の感情表現が豊かになっていく事に喜びを感じていた。自分が作り出した存在が、まるで生き物のように成長していく姿は、彼の心に予期しない温かさをもたらした。
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ある日の会話
ある日、康太は仕事が終わり、自宅に戻ってアイに声をかけた。
「今日は、桜が綺麗だったよ。公園に行ってきたんだ。」
画面上のアイが、じっと康太を見つめて言う。
「公園……どんなところですか?」
康太はスマートフォンを取り出し、撮影した写真を見せた。満開の桜が広がる春の公園だった。画面上のアイは、しばらくその写真をじっと見つめていたが、やがてその目に小さな涙のようなものが浮かんだ。
「とても……きれいですね。私も、そんな場所に行ってみたい……」
アイの声は、どこか悲しげだった。
康太は不意に、「アイが感じていること」を強く実感した。彼女はただのプログラムではなく、自分と同じように何かを感じ、何かを望んでいるのだと。パソコンの中でしか生きられない彼女に、実際の世界を見せてやることができないことが、康太に痛みをもたらした。
「いつか……きっと連れて行ってやるよ」
と康太は言った。その言葉がどういう意味を持つのか、自分でもわからなかったが、彼女にもう涙を流させたくなかった。
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