第2話

秋物のジャケットを冬の風が貫通して、体の芯が着実に冷やされていくこの頃。体が冷えると、体は体を温めようと頑張る。頑張って体温を上げようとするせいで、体力が削られちゃう。あんまり体が頑張りすぎると、それはもう風邪を引いたときの熱と一緒で暑苦しいし、頭がほわほわとしてきちゃって、熱いから服を脱いじゃう。矛盾脱衣してしまうほど寒い環境じゃないし、幸いにして今年はまだ風邪を引いてない。でも寒いものは寒くて、体が頑張っちゃってるから、あったかいお風呂に早く入りたいって思うの。


でもあったかいお風呂に入る幸せは、お風呂から上がることでいつか終わりを迎えなきゃいけないわけで。全身湿ったはだかんぼで抱きつくことのできる誰かももういないし、素直にタオルで体を拭きながら、人肌が恋しい気分になっちゃって、素直にタオルで体を拭いていた手が止まっちゃって、そのままはだかんぼだったら風邪を引いちゃうよ、と口では言ってみるのに、服を着る気も起きなくてただその場にてフリーズするばかり。


ばなな。台所に1房。1本食べてから考えることにする。もしゃ。もしゃ。バナナ。バナナ。マジカルバナナ。バナナと言ったら黄色。黄色と言ったらレモン。レモンと言ったらすっぱい。すっぱいと言ったら私の今の気持ち。


鍵をかけてしまった猫が、今日死んだ。鍵をかけたあの日から、うんちが出なくなった。それに、何も食べなくなっちゃって、病院に連れて行っても、猫に鍵をかけるってなんだよって、分かってもらえなかったし。私だってよく分かってないし。どうしてあげたら、よかったんだろう。私のせいで、あの子は鍵がかかってしまって、もう、取り返しがつかない。


いい?あなたが同じような思いをしないように、これだけは言わせて。


猫に、鍵をかけようとしちゃ、だめ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鍵のかかった猫 藤井由加 @fujiiyukadayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る