鍵のかかった猫
藤井由加
第1話
飼い主が飼い猫に家の鍵を挿してみると、猫は閉まった。
「なおん?」
喉の締まったような声をだしているような気がしなくもないようなあるような気がする。
「開けゴマ!」
飼い主が飼い猫に向かってそういうと、猫は開いたように飼い主には思われた。
「なおん?」
しかし尚も猫は相変わらず喉が締まったような声を出す気がしないでもないようなあるような。
「あれ?猫ちゃん、鍵がかかったままになってる?」
そう言って飼い主は、別の鍵を取りに行った。自転車の鍵、車の鍵、家裏の物置の鍵、金庫の鍵、猫吸いの嗅ぎ、カップ酒の赤城山、真剣での鹿斬り、お隣の高木、だめだ見限り。飼い主は力の限り猫の鍵穴に挿し込んで回してみようとしなくもなかったが、結局はバカだし無理だし無駄だった。
「どうしたら鍵を開けてくれるの?」
飼い主は猫に聞いた。
「なおん?」
猫は飼い主が鍵を開けようとすればするほどに締まりの強い声になっていっているような気がして、飼い主は悲しくなった自分を慰めるために猫吸いをし続けた。
猫は嫌がってますます心を閉じていったが、特に抵抗するでもなく、飼い主に嗅ぎ回され続けていた。
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