第31話 ポッピン教の壊滅

 となりの豚トロが去っていった洞窟内にて、阿修羅マナは仮面をつけ直し、まずポッピン教四天王を蘇生させる。

 彼らは目を覚ますなり、大急ぎで阿修羅マナの前へと跪いていった。


「……はぁ」


 わざとらしくため息をつくことで、イラついている態度を露わにする。

 それだけで四天王――今は三人しかいないが――たちは背中から汗が溢れ出ていた。


「も、申し訳ございませんでしたっ! 我々では敵うことができず、おまけに聖女様のお手間を取らせてしまうなんてっ!」

「そうね。本当に使えない……。蘇生をするかも迷ってしまったわ。いえ、やはり蘇生しなかったことにしましょうか」

「ど、どうかっ! どうか我らにチャンスを下さい! 必ずや、あなた様のお役に立てるよう働いてみせますのでっ!! どうかっ!」

「……。はぁ。セザンヌからは手を引く。組織員に通達しなさい。決して手を出してはならないと。その後は人族の国家間状況について詳しく調べること」


 てっきり厳しい罰が下るのだろうと予想していた三者は少しだけポカンとしてしまう。


「何をしているの? 早く動きなさい。それとも、死ぬ方を選ぶのかしら?」

「あっ! は、はい! ただちに!」


 我に返った四天王はただちに背を向けて歩んでいこうとする。


「ああ、待ちなさい」

「はひぃ!」

「これから我々は国盗りを行うこととなる。諜報には最新の注意を払いなさい。次失敗したら――」


 阿修マナが暗殺短剣をちらつかせただけで、四天王たちは悲鳴を上げていた。


「そうならないよう、せいぜい努力なさい。これからやることが増えるわよ」

「「「しょ、承知ました!!」」」


 そのまま三者はその場を去っていく。


「さて、次は――」


 次に阿修羅マナは領主の娘フランソワとAランク冒険者カイオンを蘇生させた。

 この二人もまた、気が付くと同時に彼女の前へと跪いていく。


「二人は今日見たことを絶対に口外しないこと。もし口外したら……スキル【天使召喚】。スキル【壊疽塊苦】」


 聖職者スキルにより天使を召喚し、その天使を拷問毒により苦しめてみせる。


「これはね、対象の体の一部を壊死させる猛毒ですわ。でも死ぬわけじゃない。だから――【ライトヒーリング】」


 回復魔法により壊死した部分が復活し、しかしなおも拷問毒により再び壊死していく。


「こうして一生苦しみ続けることができますの。それはそれは辛いそうですわ」

「ひっ、っひぃっ」

「こうなりたくなかったら口が裂けても今日見たことは言わないことですわね。わたくしはあなたたちに監視者をつけます。あなたたちでは決して知覚できないような者を」

「「け、決して! 例え命を失うことになろうとも本日何が起きたかは口にしません! もう私たちの脳から魂いたるまですべてを忘れ去りました!!」」


 恐怖に引きつりながら二人して同じ文言を述べていく。


「それは結構だわ。さて、その上であなたたちには大事な仕事があるの」

「「はいっ! なんでございましょうか!」」

「これから冒険者ギルドマスターのトーグナー・ミルベイルを蘇生させる。この場には私とポッピン教の四天王たちの偽装死体を配置し、あなたたちにも身動きが取れなくなる程度の傷を負わせるわ。安心なさい後遺症の残るような傷はつけない。その後、ポッピン教は壊滅したこととする。その手柄は先ほどの冒険者トロポークさm……冒険者トロポークのものとします」

「「承知しました!」」

「本件の証人は他ならないトーグナ―となる。あなたたちは今度こそ本件と前回の件で捕縛されることとなりましょう。ただ、わたくしに脅されていたという証拠を用意しておきます。そちらを用いて減刑される形で短い期間を牢屋の中で過ごしなさい。その後は冒険者トロポークを陰から支援していく形となります」

「「承知しました!」」

「当面はこんなところでしょうか。ふふ、トーグナー・ミルベイル。何の役にも立たない男かと思ったら、とっても大切な役割を果たしてくれるじゃない。……いえ、むしろ豚トロ様はこうなるところまで見越されておられたのでしょうか。いずれにしても――」


 阿修羅マナは自身の胸を抱きしめる。


「やっとわたくしはあの御方のために働くことができる。必ずやあなた様のためにすべてを捧げてみせましょう」

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