第30話 マナちゃん
私の壊滅魔法によりHPが全損してしまったくまちゃんとマナちゃんを蘇生魔法により蘇らせる。
どうもフレンドリーファイヤは有効になっているようで、くまちゃんも巻き込んでしまう形になってしまった。
「おーい、くまちゃーん、大丈夫かー?」
「むむむ、こ、ここは……?」
「ごめんねー。あたしの壊滅魔法に巻き込まれちゃったんだよー。まあ蘇生したから問題ないけどね」
「なんとっ!」
くまちゃんが寝っ転がっていた状態からすぐさま跪いていく。
「失礼いたしました!! 臣下でありながら蘇生のお手間を煩わせてしまうなどっ! 次からはただちに成仏できるように精進いたします!」
「いや成仏しちゃダメだからっ! ……えっと、そしたら次はマナちゃんかな。マナちゃーん、起きてー。蘇生の時間だよー」
目を開くのと同時に、彼女は手に持つ短剣を振るってすぐさま私を攻撃してきた。
それをヒョイと避けた隙に彼女は距離を取っていく。
「おうおう、元気だねぇ」
「……なぜ私の名前を知っている」
「そりゃあまあ――」
フードを取る。
「――あなたの創造主だからね♪」
「……っ!!!?!?!」
彼女は動揺のあまり、短剣を取り落してしまい、震えながら小さく後退っていく。
「やっほー。元気してる?」
「そん、な……。あ、ありえ、ませんわっ。そんなの、ありえない! だって、だって……」
尻つぼみとなる言葉と共に、マナちゃんはへたり込んでしまう。
「仮面を取ってくれる?」
しばらくすると、彼女はその言葉に従い眉目秀麗なその素顔を見せてくれた。
白銀の長髪は絹のように美しく、聖女と言われても疑わないほどの端麗な容姿がそこにあった。
だがその表情は、とんでもない失態をしてしまったと言わんばかりの後悔にまみれたものとなっており。
「ごめんねー、長いこと顔見せないで。私もいろいろあったんだ。マナちゃんはどんな感じ? 今はポッピン教の聖女? をやってるの? すごいじゃん!」
「となりの……豚トロ……様……」
そのまま涙をぼたぼた垂らし始めてしまった。
「うわっ! そ、そんな泣くほど? えっと、あっ! べ、別にメアリーを離れたことを責めたりはしないからね。私はみんなに自由に生きて欲しいなって思ってるの。それぞれの人生があるわけだからさ」
「わたくしは……なんて愚かで、愚鈍で、間抜けなことをしてしまったのでしょうか……。あろうことかあなた様に刃を向けてしまうなんて……っ!!」
「まあそれはいいって。というかわたし的にはマナちゃんと戦えたのはだいぶ楽しかったかなぁ。エクスペディションオンラインだと自作PMCとは戦えな――」
私が喋っている隙間から、彼女は取り落した短剣を手に取り、自身の首元にそれをあてがう。
「もはやこの恥辱、死を持って償わせていただきます!!」
「ちょおおおおおおお! やめろぉぉぉぉ!!」
寸でのところで私の防御魔法が間に合い首を切断するには至らなかった。
「いやいや、そういうのいいからっ! 私も好きで戦っただけだからっ!」
「ですが! わたくしはなんと愚かなることをしてしまったのでしょうか! 少し考えれば、あなた様がとなりの豚トロ様であることなどすぐにわかったことです! 数多の魔法を駆使しながらわたくしを圧倒するほどの者など、あなた様をおいてほかにおりませんっ! それをわたくしは、何とかして倒そうと躍起になってしまうなんて……っ」
「だから別にいいって。むしろあなたの部下殺しちゃったけど、マズいよね? 生き返らせるよー?」
「必要ありません。所詮あれらは使い捨てに過ぎませんので」
「え?」
いいのかよ。
「ずっと再びお会いできる日を夢に見ておりました。苦節五百年。この日のためにすべてがあったと思えば、いかなる苦しみをも忘れることができましょう。やっとお会いできました。我が主、我が愛しい御方」
「お、おう。えっと、今はポッピン教? の聖女なの?」
「はい。以前わたくしをリネイムしたかと思いますが、覚えておられますか? そのときの名前はサラサーティワンアイスでした」
髪のさらさらレベルから、そういえばそんな名前をつけていた気がする。
「となりの豚トロ様はポッピングシャワー味がお好きだったはず。それにちなんでつけさせていただきました」
「そ、そうだっけ」
そんなこと話したっけ……。
ゲームではPMCは話すことができず、会話なんて不可能であった。
つまり、私は彼女がいる空間でべらべらと独り言を発していたということになる!?
あまりの恥ずかしさに思わず目線を逸らしてしまう。
「ですが、よかったです。これで今までやって来たことのすべてが役に立つというものです」
「や、やってきたこと?」
「はい。現在ポッピン教は人族の各所に暗躍可能な足場を築いております。となりの豚トロ様が世界征服などをされる際には役に立つことと思われます」
「……えっと? せ、世界征服?」
「はいっ! それか世界の滅亡でも構いません! どうぞあなた様のお好きなように使って下さいな!」
「あー……、うん。はい。ありがとう」
全然興味ないんだけど……。
だが、このキラッキラした目を見せられたらさすがに思ったことをそのまま言うわけにもいかないわけで。
「えっと、そしたらこの後どうしよっか? ここにいた人らは全員蘇生させるつもりだけど」
「蘇生? なぜでしょうか? 下等な人族など捨て置けばよろしいのではないでしょうか? あっ! むろんとなりの豚トロ様は人族でありながら神の領域におわす方だと思っておりますよっ!」
お前もかよ……。
ちなみに、マナちゃんは見た目は人間なのだが、守護神というクラスとなっているため、種族は人族ではなく神族となる。
「うーんと、できれば蘇生させた方がいいと思うなぁ」
「……。なるほど、そう言う事でございますか」
「へ?」
「わかりました、後のことは全てわたくしにお任せ下さいな。どうぞお先に壁に耳あり障子にメアリーへとご帰還下さい。こちらの案件を処理したのち、すぐに私も帰還いたします」
「えっと? て、手伝うけど?」
一体何をする気だよ。
「いいえ! ここまでとなりの豚トロ様のお手を煩わせてしまったのです! ここからは何卒わたくしにお任せ下さいますよう、お願い申し上げます!!!」
「お、おう。そ、そっか。わかった。じゃあ頼んだよ。先に帰ってるね。帰ってきたら今後のこととか話そっか」
「はいっ!! 我が愛しい御方!」
「う、うん」
たしか、マナちゃんは備考欄に『主人を愛している』なんて設定をつけた覚えがある。
ゲームの中だからと思って適当なことをしてしまったが、この態度はガチっぽいなぁ……。
そんなことに頭を抱えながら、私は転移魔法を起動させるのであった。
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