我々はりんごで自分たちの記憶を取り戻すことができます

第14章：家族

　悦子は感傷的な足取りで病院の正面玄関から出てきて、ティッシュで目を拭いた。彼女は鼻をすすり、鼻をかみながら母親に抱きついた。

「もうすぐビデオが終わるなの、抹茶ちゃん」

　僕は「完璧なタイミング」と言った。

「ほら、このカメラを持って、我々【彼女】がちゃんと見るようにして。ところで、我々【彼女】の調子はどうだ？」

　彼女は僕に指を指して叫んだ。

「あれなの！抹茶ちゃんたち二人、急にそんな変な話し方を始めたの。あたしがやすみちゃんに理由を聞いたら、『君にはわからない』って言われたの」

　僕の耳には音楽のようだった。ジョークが目的を果たしたので、僕は笑った。

　彼女は「ビデオが進むにつれて、抹茶ちゃんがどんどん紳士的になっていくのに気づいたの。そんな一面があるなんて知らなかったなの」と言った。

　それを褒め言葉として受け取っていいのか分からなかった。

「ただ自分が正しいと思うように行動しただけ。多分、両親からの教えが無意識のうちに定着していたのかもしれない」

「抹茶ちゃん、やすみちゃんのこと好き？」

「大好き」

　彼女は僕を抱きしめて、自分の顔を僕の下腹にうずめた。

「もし彼女が記憶を取り戻せなかったら、代わりにあたしと恋に落ちてくれる？抹茶ちゃんは純粋すぎて失いたくないし、あたし、基本的に同じだなの」

　僕は彼女が何をしようとしているのかを知り、それに付き合うことにした。

「その場で何年か歳をとって、孤児になって、うつ病と診断されたらどうだろう。りんごが好きならボーナスポイント」

　彼女は母親の方を見て、医者が「忘れて」と言った。

　悦子は振り返ってうめき声を上げた。

「完璧すぎる自分の人生が憎い」

「君の何の人生か？」と僕は尋ねた。

　彼女はすぐに僕から離れ、いたずらっぽく笑いながら病院の中に駆け戻っていった。

　伊藤医者は、「彼女の言葉のチョイスをお詫びし」と言った。

「大丈夫、彼女の言う通りです。彼女には完璧な人生があり、それは彼女にとって素晴らしいことです。でも、僕は自分のあまり良くない人生に安らぎを見つけました。そのおかげで、本当に僕を理解してくれる唯一の人と恋に落ちることができました。そして、彼女も同じです」

　病室に戻らず、僕は孤児院に戻った。彼女がビデオを見終わった後、彼女が考えをまとめるために少し一人の時間が必要だと思ったので会わなかった。彼女からのメッセージや電話はなかった。

　今夜、僕はベッドに横たわり、記憶の聖域について考えた。

　僕の灰色の地獄に溶岩の川を自由自在に流れるカヌーの上でから、一度は凍りつき、下流に向かうすべての川が最終的には文明につながることを知った。僕の場合、それは子供時代の頃に誰かの家の形をした、自分なりの果樹園の丘だった。

　僕はここでやっと家の前の桟橋にカヌーを停めて、手に持っていたすべての良い思い出と共に降りることができた。川が僕たちを導いた場所はここだった、僕たちだけ。これは彼女が円山へのピア・アウトィングの後にパイ屋で会った時に言った通りだった：偶然のチャンスがあっても、それを掴むには意識的な選択が必要なんだ。

　彼女との出会いは二度とも偶然だったが、僕たちは関係を深めていくことを選んだ。二回目の関係は短期間で発展し、それが僕の長年のうつ病に挑戦できるとは信じていなかったが、僕は間違っていた。一緒にいた時間の長さではなく、その間に経験したことが重要だったのだ。さらに、たとえ僕の頭が忘れても、僕の心は決して忘れることを止めなかった。心が彼女を追いかけるように説得してくれた。

　彼女が完全に記憶を取り戻したかどうかは分からなかったけど、次の日に分かるだろう。

　学校は同じように終わり、僕は孤児院の近くでバスを降りた。イヤホンで流れている音楽もいつもと同じだった。札幌は春でも灰色の雲を届けることを決して失敗した。でももう気にしなくなった、それは僕たちが住んでいる街、僕の人生が完結している街を象徴していたからだ。

　前庭に近づくと、彼女が立っているのが見えた。真っ白な服を着た迷子の天使が、入口に立っていて、多分ノートパソコンとカメラが入ったバックパックを背負っていた。僕は立ち止まり、彼女の名前を呼んだ。

「よる？」

　彼女は振り返り、髪を風になびかせながら僕と向き合った。僕たちの目のりんごがつながり、彼女は僕に向かって走り出した。彼女が近づくにつれて、僕の視界は現在と青森の間を行き来した。どちらの時も、僕は立ち止まり、彼女は雨の中、そして今は雲の下で僕の胸に飛び込んできた。

　僕はすべてを思い出し、彼女もすべてを思い出していた。事故らは不幸をもたらしたけれど、それがこうして僕たちを引き合わせたことを考えると、起きてよかったと思う。僕たちだけが、ユニークな同様に経験を本当に理解できるんだった。

　彼女が抵抗したにもかかわらず、僕はなんとか彼女を胸から引き離した。指で彼女の顎をそっと持ち上げて、再び目を合わせた。彼女はまつげをぱちぱちさせた。

　言葉は必要なく、聞くべきことはすべて聞いた。見るべきものはすべて見たし、嗅ぐべきものはすべて嗅いだし、味わうべきものはすべて味わった。しかし、僕たちがまだすべてに触れたわけではなかった。

　彼女は両手を僕の胸に置き、つま先立ちして顔を近づけた。僕の腕は彼女の腰に回り、彼女を抱きしめた。僕たちは目を閉じたが、唇が触れ合うことでお互いを見ることができた。

　サクランボ？いや。バラ？いや。イチゴ？いや。儚かったけど、彼女の唇が完熟したりんごのような、甘くて香り高くて美味しい味がするってすぐに分かった。もしかしたらキャラメルがかかっているのかも。僕たちは唇を離して息を吸い込み、また唇を重ねた。五回ほど繰り返し、そのたびに間隔が長くなった。

　彼女は最後に離れ、僕の胸をボンゴのように軽く叩きながら離れた。彼女は僕の心臓の鼓動を感じて聞こえていたに違いない。そして、僕の左側に立った。

「ビデオを見ていると、まるで君が私の果樹園を歩いてくれているようで、正しいりんごを選んで渡してくれているよう。音、匂い、味、触感を通じて、君は私の記憶のすべてを見る手助けをしてくれた。私の目のりんごというよりも…」

（地獄の中で僕の仏陀というより…）

「過去も今も、これからの未来も…」

「「記憶を通して、我々【君】は自分たち【僕｜私】の五感のりんご」。」

　彼女はくすくす笑って、右手を左肩に置いた。僕は左腕を彼女の首の後ろに回し、左肩に置いて指を絡めた。僕たちは玄関まで歩き、部屋に荷物を置くつもりで玄関に入ったが、中には孤児たちと介護士たちが彼女の帰りを歓迎する大きな歓声が響いていた。

　彼女はまるでセレブがパパラッチにお礼を言うように、一人ひとりに感謝の言葉をかけた。僕は彼女を上階の部屋に連れて行き、彼女はリュックを開けて荷物を取り出した。僕はドアのそばに立ち、彼女はベッドの端に座って、隣の場所を優しくポンポンと叩いた。僕が彼女の隣に座ると、彼女は僕の腕に頭を預けた。僕はその腕を開いて彼女を包み込み、彼女の頭が僕の胸に寄り添うようにした。

　彼女は、「君に伝えられなかったことがあるの」と言った。

「知ってる」と僕は答えた。

「新年のりんごの豆知識だ」

「今回は些細なことではなく、むしろ意見なんだけど、それでもいい。ついにりんごの象徴を解き明かした。りんごは愛と再生、そして知識と知恵の象徴なのだ。」

「ああ、それはひとつの意見だ。でも、我々にとっては事実だから、それを否定するのは難しい」

　僕たちは黙っていたが、ある考えが頭に浮かんだ。

「もしかしたら、僕に起きたことは必要なことだったのかもしれない。記憶を忘れることは、もう一度君と恋に落ちることを経験するためだったのかもしれない」

　しばらくこのままでいようと思っていたが、その時、介護士が林檎森に本部に来てほしいと言った。彼女は混乱していたが、僕の手を握って一緒に連れて行った。

　本部で、受付係が彼女にまさか聞かされるとは思わなかったことを伝えた。

「正式な申請が承認されました。あなたは養子に迎えられました」

　その言葉の重さに彼女の顎が床まで落ち、目は小鹿のようにかわいらしかった。僕の方を見て、まるで僕が何か知っているかのようだったが、正直なところ、僕も彼女と同じようにショックを受けていた。

（すぐにやってくれるとは思わなかった…）

　ウサギのように跳ねながら、彼女は、「直美（なおみ）さん、ご家族はどなたですか？」と尋ねた。

　受付係が僕たちの後ろを見ていたので、僕たちは興味を持って振り返った。

　彼らはそこに立っていた、三人が。

「やすみねえちゃん！」

　林檎森は一歩前に出て、手で口を覆った。もう一歩進むと、涙が溢れそうだった。さらにもう一歩、また一歩、ついに四人は家族のように抱き合った。それが今の彼女だった。

　静子-林檎森「やすみ」よる。

　〜〜〜

　雪の桜が札幌にやってきたのは、それから三週間後、ちょうど高校の卒業式の時期だった。式は終わりに近づいていたと思うが、僕は特別難易度でD4Dreamの最新曲をフルコンボするのに夢中だった。

　林檎森が養子になった後、僕たち二人は心理評価を受け、以前の主な抑うつ症状から解放されたことが確認された。うつ病は永遠に消えるものではなく、僕たちの人生が続く限り常に付きまとうものだったけど、この評価は僕たちがそれを抑えて再び人生を楽しむ方法を見つけたことを示していた。それは多くの人が恵まれない贅沢であり、すべてはタイミング次第だった。

　彼女は春休み中に引っ越す予定だったし、僕もそうだった。僕は静子家に行くのではなく、他の場所に引っ越す予定だった。

「チャイ丸先輩って呼べないのは寂しいな！ずっとバイバイ、友達さ！」

　原の豊富な涙が僕の制服を濡らし、彼の抱擁は僕の骨を簡単に砕くほど強かった。

「まだ会うんだからね。大学の間は君の家に住むんだし、自分の場所が見つかるまでね。それに、痛い、CLARISでも一緒に働くんだ」

「しかし、先輩の地位はなくなる！」

「それでもまだそう呼んで」

「いや、もういない、チャイ丸」

「わかった。そういえば、今すぐCLARISに向かわなければならない」

　パイ屋に戻る道すがら、僕は（よると付き合い始めてからほぼ一か月だけど、本当はもっと前から始まってたかもしれない）と思った。

　到着した。林檎森とその家族、原の母親、そして他の二人の客が話していた。彼ら以外、場所は空っぽだった。原と僕は別れ、僕は林檎森のテーブルに近づいた。彼女はその二人の客と話していた。一人は一度だけ見たことがある人だった。

「丸ちゃん、青森の藤田（ふじた）杏（あんず）さん覚えてる？こちらはお母さんの藤田椿咲（つばさ）さん。」

　僕は自己紹介をした。

　彼女は続けた、「記憶を取り戻したときから、杏（あんず）さんとメッセージでやり取りしてるのだ。時々電話で話して、お互いの普通じゃない人生の話をしている。」

　藤田は話した。彼女の話し方はまだ謎のままだった。

「この春休みさ遊びさ来たら。もうすぐ三年生になるじゃ！」

　僕の目は呆然としていた。

「僕たちが会ったとき、あなたは二年生だった？」

（最初、簡単にビビらされたなんて信じられない）

　原がテーブルに来て、新しい女の子は誰かと聞いた。彼は普段のクールなキャラとは違って、ちょっと慌てた感じだった。藤田と彼女の母親が立ち上がり、自己紹介をすると、原も丁寧に自己紹介をした。

　僕は女性たちに「ここは彼の実家のパン屋です 」と言った。

　僕は原に向かい、「彼女ら青森にも実家のパン屋があるんだ 」と言った。

　彼の目は星で輝いていた。

　藤田は、「母ちゃんとわだけだよ、故郷のおやじとは色々あってさ」と言った。

「それには俺も慣れてるよ」と原は言った。

　今、彼の星の目には月が添えられていた。僕はそういう表情を知っていた。

　僕はその場を離れ、セラピストに声をかけた。

「僕たちが祝うためにパイ屋を貸し切ってくれて、本当にありがとう」

「原さんに俺が払うって納得させるのは難しかった。彼女は無料でやらせてくれようとしたんだ。でも、君がこれから受け取る知らせには支払いが必要だと思う。君はそのお金をシェアすることになる」

　僕は眉をひそめ、首をかしげた。説明を求める前に、肩を軽く叩かれるのを感じた。振り向くと、その場は静まり返っていた。

　みんなの視線が僕に集まった。原と彼の母親が僕の前に立ち、嬉しそうに一枚の紙を差し出した。僕はそれを心の中で読んだ。

　原の母親は言った。

「私、君が林檎森さんを親切で親しい家族に養子に迎えてもらうのを手伝ったと聞いたんだ。君も家族がいるべきだと思う」

　『養子縁組の確認書類』

　紙の底には、元々なかった濡れたしずくがいくつかついていた。

　視界がぼやけ、喉がガクガクしながら、僕は原の母親を見て、「あなたが…僕の…母？」とつぶやいた。

　笑顔を浮かべずにそう言うことはできなかった。

　原が声を上げた。

「ようこそ家族に、チャイ丸にい！」

　彼は前に身を乗り出して僕の腕を掴み、力強く抱きしめた。僕の涙はまだ止まる気配を見せなかった。

　パイ屋は歓声と共に最初の焼き菓子と飲み物で祝った。

　林檎森と僕は自分たちのテーブルに座り、僕たちの新しい家族が絆を深めていくのを見守っていた。初めてこのようなことが起こったときの記憶がよみがえった。原と悦子は遊び回り、藤田と彼女の母親の「椿咲（つばさ）」は原の母親の「秋好（あきよし）」と一緒にお菓子の話をしていた。静子医師と伊藤医者は原の叔父さん、「遠野（とおの）」と話していた。

　僕たちは紅茶を飲んで、もうすぐCLARISのメニューに新しく加わるアップルケーキを食べて、しっかり手を繋いでいた。

　僕が強いつながりを持っていた人たちは、指で数えるほどしかいなかったけど、それは悪いことじゃなかった。僕の指は、僕が一番愛している女の子の手を繋ぎ、その子の人生を象徴する果実を持ち、僕のカヌーをゴールまで漕ぐためのものだった。

「よる」と僕は言った。

　彼女の名前を言うのは、フライパンアップルケーキのような味がした。

「はい？どうしたの、丸ちゃん？」

「大学の準備できてる？社会学ってかなり難しいよ。たくさん勉強が必要だね」

「これから同じ学校に通うから、私も何とかやっていけると思うよ。心理学を専攻している君の方が楽なわけではないからね。」

「これが一番しっくりくるんだ、特に何年も片側に座ってきたから」

　〜〜〜

　僕はお墓で両親に今日のことをまとめて伝えた。

（学校の計画は、よるの家で会って一緒に電車で札幌大学まで行くことだよ。免許を取って車を買うお金が貯まるまでは）

（CLARISのみんなと吉田（よしだ）孤児院のみんなに感謝している。そして何より、君たちには感謝している。自分の道を見つける必要があったけど、君の支えがあったから、迷ったと感じても本当に迷わなかった）

（もう心配せずにゆっくり休んでいい。新しい家族に世話を任せるからね。もちろん、新しい家族ができても君のことを忘れたりしないよ。だって、僕の記憶の聖域に君とのたくさんの思い出が残っているから）

　春休みの間に、林檎森と僕は孤児院を出て、僕たちを恋しく思って泣いている子供たちや、全ての介護士たちに別れを告げた。

　僕は花耶さんに一番感謝して、「休みたくなったらいつでもCLARISに寄ってね。よると僕で、彼女の最高のレシピをお出しする」と伝えた。

　以前は、この子供たちと介護士たちのことを気にかけることなんてないと思っていたし、彼らの人生に何かを残したいとも思っていなかった。でも、実際にはそうしていた。僕が今の道を見つけられたのなら、これらの子供たちも発見されるのを待っている明るい未来があると信じてった。

「頑張ってね」と僕は言った。

「ご両親に加わらないで」

　林檎森と僕は、孤児院の名前が刻まれた看板に頭を下げた。僕たちを引き合わせて、見送ってくれたことに感謝した。