2.
ガラガラと本坪鈴を鳴らす家族連れの後ろに並ぶ。私は何を願おうか。前の家族はきっと、安全や健康だったりを祈るのだろう。横に並ぶ三人を見て、早く結婚がしたいなと思った。本気で愛せる人を見つけて、誰がいいかなんて考えることのない生活。思いのベクトルが相対していて、安心できる場所がある生活。もちろんそうでない家庭があることは大前提だ。しかし、愛する人を見つけ、居場所が欲しいと一人の私が願う。いいご縁があるようにと、財布の中の小銭を漁っても五円玉が見つからなかったので、なけなしの百円を賽銭箱に投げ入れた。投げてから思った。優しく入れてあげればよかった。後悔しても仕方がない。 「私の居場所と楽しい日常をください」最後に住所も唱え、そっと手を合わせた。また涼しい風が吹いた。
そろそろ神社を後にしようと鳥居の方に向かうと、人の流れが一気にこちらを向いた。何が起きたのか分からず、固まっていると、「そろそろ還暦神輿が来るよ」とすれ違うおばさんが教えてくれた。そんなものがあるのかと思い、見ていくことにした。神社の入口の方から、甲高い篠笛の音と、臓器に響くような重たい太鼓の祭囃子が聞こえる。近づいてくると、神輿の上で祭り人らを煽る、ちゃんちゃんこを着た人が見えた。高い神輿の上で、揺れに耐えながら大声を出す様子は還暦を感じさせないほど力強く、沿道の人を圧倒する。祭りのこと以外何も考えていない、生きたいという本能、生存欲にも見えるその姿は、決して今まで見たことのない生き物だった。圧倒され、立ち眩みすら覚える。
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ある秋の一コマ 麦 @mgrn16
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