ある秋の一コマ

1.

 涼しくなってきた。まだ葉っぱは秋色に色づいてはいないが、秋到来の独特な香りと風が、そっと顔にかかる。神社の砂利道に屋台が並ぶ。圧倒的に昔より数は減ったが、何とか祭りの景観を保っているその屋台には、ガラの悪い兄ちゃん姉ちゃんが、どんと構えて座っている。声をかけられないように影を潜め、わざと興味なさげに歩く私は、法被を着た祭り人らとすれ違う。ただ「楽しげだなぁ」と思う。この日を待ちに待って、生活するその日々も楽しかったことが窺える。

 

 日々鬱屈としていた。大学の人ともうまくやれない、授業はどれも退屈だった。ざわざわと聞く気のない人たちがざわめいているのを無視して、教授はただひたすらに自分の専門分野について話し続ける。誰が聞いているのだろう。テストもないその授業だが、聞いてみようと耳を澄ましても、全く聞き取れない。気持ち悪い、率直にそう思ってしまった。いいことなんてない。いや、無くなってしまった。

 昔は楽しかった。制限される校則の中でも、みんなそれぞれが工夫して、部活や勉強に本気で向き合った高校生だった一年前は。私はほとんど変わっていないのに、これほどまでに環境が変わってしまったので、過去に置いていかれている。でも逆に考える。何も変わっていないはずなのに、大きく成長した気でいる大学生で溢れている。唯一社会的に変わったのは、夜中外に出ていても補導されなくなったことくらいだろうか。別に、大学に入学したからと言って、酒や煙草を嗜んでいい年齢になったわけではないじゃないか。何が変わった?どうしてみんな、それほどまで社会に胡坐をかけるようになってしまった?

 こう考えているから置いて行かれる。進んでないのは私だけだ。みんなは加速も減速も足をそろえて同じに進んでいる。私だけがここでとどまっている。他の人からしたら、そんな私は異質で、違和感そのものに見えているのではないか。お願いだからこの気持ちに名前を付けて、みんなに理解させてやりたい。それが無理なら、ただ私を異質にしないでください。それだけでいいんです。なんて。なんて、考えているから鬱屈としているんだ。理由はずっとわかっていた。はい、はい。どんどん時よ、過ぎ去ってください。私を置いていって、見捨ててください。大きなため息が出る。

 

 気づけば景色を見ることを忘れて、ぶつぶつとこんなことを考えながら、参道を歩いていた。もうすぐ本堂が見える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る