死刑執行人淑女 《外国人ギャング20人、女性議員ひとりに蹴り殺される》

E.C.ユーキ

死刑執行人淑女 《外国人ギャング20人、女性議員ひとりに蹴り殺される》

 闇夜やみよはい工場こうじょうに、女性じょせい議員ぎいんがひとりった。

 城園じょうえん綾子あやこ。32さい弁護士べんごし現職げんしょく東京とうきょう都議会とぎかい議員ぎいんでもある、たおやかな美人びじん綾子あやこひと寝静ねしずまった深夜しんや、フォーマルスーツ姿すがたのまま、東京都とうきょうと郊外こうがい山奥やまおくはい工場こうじょうにひとりでおとずれていた。足早あしばや地下ちかへと階段かいだんりると、薄暗うすぐら照明しょうめいのホールにる。綾子あやこふるえるをキュっとにぎめ、ホールのなかほどまであしすすめた。

 綾子あやこ出迎でむかえたのは、嬉々ききとしたおとここえだった。

っていたぞ。城園じょうえん綾子あやこ議員ぎいん

 階段かいだんうえたかみで、まるで玉座ぎょくざのようにこしかけるこのおとここそ、外国人がいこくじんギャング組織そしき《ベルセルク》のボスである。その両脇りょうわきには屈強くっきょうくろスーツのおとこひかえている。

 綾子あやこ階段かいだんしたから、ボスを見上みあげて懇願こんがんした。

「おねがい! あの解放かいほうして……!」

 小一こいち時間じかんまえ綾子あやこのスマートフォンに一本いっぽん動画どうがおくられてきた。――らずの少年しょうねんが、おとこにサバイバルナイフをきつけられている映像えいぞうだった。一時間じかんつごとに、四肢しし一本いっぽんずつしていき、その動画どうがおくるという。それがいやなら、このことだれにもげず、東京とうきょう郊外こうがい山奥やまおくはい工場こうじょうにひとりでい、という綾子あやこへの要求ようきゅうだった。ただちに綾子あやこ公用車こうようしゃくろセダンをし、都内とないからはなれた山奥やまおくはい工場こうじょうまで、ひとりばしてきた。要求ようきゅう動画どうが受信じゅしんしてから今現在いまげんざいまで、まだ40ぷんほどしかっていない。

 ボスが黒服くろふくおとこ合図あいずをすると、少年しょうねん乱暴らんぼうれてこられた。7さいほどだろうか。目立めだった外傷がいしょういが、かおきつり、身体からだ小刻こきざみにふるえている。

子供こども解放かいほうしてもいが、条件じょうけんがある』

 ボスと少年しょうねん綾子あやことのあいだ空間くうかんがライトアップされた。



 ――やみなかから、金網かなあみ戦場せんじょうと、10にん大男おおおとこあらわれた。



 総合そうごう格闘技かくとうぎケージ。たかさ2メートルえる金網かなあみフェンスでかこわれた8等辺とうへん武舞台ぶぶたい。そして金網かなあみ外側そとがわからは――筋骨きんこつ隆々りゅうりゅう大男おおおとこたちが、薄汚うすぎたなみを綾子あやこけていた。白人はくじん黒人こくじん中東ちゅうとうけい南米なんべいけい、アジアけい多人種たじんしゅだが、全員ぜんいんもとMMAファイターであり、みなメートルちか背丈せたけっていた。

『このおとこたちと1たい1でたたかい、10にん全員ぜんいん勝利しょうりしたときには、子供こども解放かいほうしてやろう』

「そんな……!」

 綾子あやこがうろたえていると、少年しょうねんつかんだ黒服くろふくおとこは、ふところからナイフをした。綾子あやこにははじめから選択肢せんたくしかったのだ。

って! ……わかったわ。その条件じょうけんむわ」



 ――MMAケージないに、物柔ものやわらかな女性じょせい議員ぎいん入場にゅうじょうする。



 身長しんちょう164センチ女体にょたい左胸ひだりむねには議員ぎいん弁護士べんごしふたつのバッチ。

 かみはウェーブしたかたたけのアッシュブラウン。

 凛々りりしくもおびえをかくせないかおには、ぎんぶち眼鏡めがね

 薄紅うすべにのルージュには、グロスがてらてらとかがやく。

 ブルーグレーのジャケットにた、乳房ちぶさのライン。

 くろのペンシルスカートはタイトで、おしりのラインがている。

 ベージュのストッキングのあしは、ふくらはぎがむちむちと。

 くろのミドルヒールは、金貨きんかだいのエンブレムが爪先つまさきかがやく。



 綾子あやこのしおらしい入場にゅうじょうに、現地げんちもライブ放送ほうそうだい盛況せいきょうだ。

 MMAファイターのおとこたちは悪辣あくらつ歓声かんせいげ、ダークウェブじょうのライブ放送ほうそう下卑げびたコメントであふれかえる。ダークスーツの黒服くろふくおとこたちが、あちこちからカメラを綾子あやこけて、ねっとりと、まわすように身体からだつづける。ボス、MMAファイター、黒服くろふく――20にんおとこたちがかこなかおんな綾子あやこひとりのみだった。

 つづいて、巨漢きょかんのMMAファイターが入場にゅうじょうする。

 身長しんちょうメートルちょう白人はくじんで、はだか上体じょうたい筋骨きんこつ隆々りゅうりゅう、グローブをはめたこぶし超速ちょうそく素振すぶりをせる。ヘビーきゅうのボクサーでも一撃いちげきしずするどさだ。もなく試合しあいはじまるというのに、ケージないには綾子あやこ大男おおおとこ二人ふたりしかいない。――これはショウであり、レフリーなどいないのだ。



 《MMAファイター》たい女性じょせい議員ぎいん》。

 2メートル大男おおおとこ見下みおろす、164センチ淑女しゅくじょ

 ――試合しあい開始かいしのゴングがひびいた。



 やはり綾子あやこは、後退あとずさるばかりだった。

 おとこ一歩いっぽたびに、綾子あやこはびくんと一歩後いっぽうしろにがる。おとこ超速ちょうそくのパンチをからぶらせて挑発ちょうはつしても、綾子あやこはきゅっとじた両手りょうてむねまえわせるばかりで、なにもできない。

 たちまち綾子あやこ金網かなあみのフェンスに背中せなかつ。がる会場かいじょうおとこ薄汚うすぎたなみをかべながら、両手りょうて綾子あやこせにかかる。綾子あやこ大粒おおつぶなみだかべたかおよこそむけ、「いやっ!」と悲鳴ひめいげた。

 すると突然とつぜんおとこうごきがまった。



 ――綾子あやこあしが、おとこ股間こかんげていたのだ。



 それも、まともにたっていた。

 完全かんぜん油断ゆだんしていた。KOのショウタイムのために、股間こかんようのプロテクターは当然とうぜんけていなかった。大男おおおとこまれたての子鹿こじかのようにあしをぷるぷるとさせながら、なんとか根性こんじょうっている。綾子あやこ唖然あぜんとその様子ようすながめていたが、一転いってん表情ひょうじょうめた。

 綾子あやこは、おとこあたまをヘッドロックにかかった。

 もだえるあまりにがったおとこあたま片脇かたわきかかみ、顎下あごした手首てくび圧迫あっぱくするようにりょううでげる。――ハイエルボーギロチンのかたちだ。おとこくび完全かんぜんまった。綾子あやこ上着うわぎしの豊満ほうまん乳房ちぶさほおてられながら、おとこかおにして抵抗ていこうする。しかし、こうなってしまってはもうおそかった。

 会場かいじょう嘲笑ちょうしょうおおがりだ。ひかえているMMAファイターたちが、ケージないおとこ雄姿ゆうしわらばし、多様たよう言語げんごのヤジがう。『ママに「ごめんなさい」をするんだな!』『ついでにおっぱいもませてもらいな!』。ますますおとこかおあかくなっていく。そして――

 ――にぶおとがひとつ、不気味ぶきみひびいた。

 くびほねれたのだ。おとこちからなくマットにたおくずれ、見開みひらき、身体からだ痙攣けいれんさせている。痙攣けいれん次第しだいちいさくなっていき、やがて、完全かんぜんまった。その始終しじゅう綾子あやこは、見開みひらき、くちりょうおおいながら見下みおろしていた。

 さらなるがりをせるMMAファイターたちの嘲笑ちょうしょう歓声かんせい、それとは裏腹うらはらにボスはまゆをしかめていた。

つぎだ! つぎのヤツははやがれ!』



 金網かなあみなか2人ふたり大男おおおとこはいった。

 浅黒あさぐろ日焼ひやけしたアジアけい大男おおおとこが、高々たかだか頭上ずじょうまであしかかげてみせる。ムエタイ出身しゅっしんのファイターだ。ケージない死体したいころがったまま、だい試合しあいのゴングがった。

 ムエタイのおとこは、巨体きょたいらしからぬ軽快けいかいなステップでまわる。ハイキックを綾子あやこかおまえはなち、挑発ちょうはつする。綾子あやこはやはりがるばかりで、あしせない。ふたた金網かなあみフェンスまでめられる綾子あやこおとこねんれて金的きんてき警戒けいかいしながら、まえのめりになり、ちろちろとしたして挑発ちょうはつする。そのときだった。

 ――おとこ側頭そくとうに、綾子あやこのハイキックが直撃ちょくげきした。

 《綾子あやこには護身術ごしんじゅつ心得こころえがある》。そうおとこたちが一様いちよう確信かくしんするほどに、それはするどおも一撃いちげきだった。綾子あやこあし彼女かのじょ頭上ずじょうまでがり、まえのめりにがったおとこあたま側面そくめんを、ズドンとばしたのだ。タイトスカートではがりないたかさまでがった、意識いしきがい一撃いちげきくろ膝丈ひざたけペンシルスカートは、じつはヒップのしたふかみがはいったデザインで、おもいのほかに可動域かどういきひろかったのだ。せいぜい股間こかんげるが精一杯せいいっぱいだとおもっていたおとこは、たったの一発いっぱつ千鳥足ちどりあしになってしまった。

 さらに綾子あやこ追撃ついげきをかける。ムエタイのおとこ後頭部こうとうぶかかみ、クリンチをかけた。タイトスカートからされる、執拗しつようひざり。――ついにはおとこひざく。すかさず綾子あやこおとこ背後はいごまわみ、ひざちのおとこ顎下あごしたうでまわして、りょううでげた。

 《チョークスリーパー》。ひざ連打れんだらった鼻血はなぢかおが、ホールないおとこたちにかかげられる。このままとされれば、失禁しっきん確実かくじつだ。……冗談じょうだんじゃない。絶対ぜったいりほどくのだ。ウェーブしたアッシュブラウンのかみからかおあまかおりが、背中せなかけられた上着うわぎ乳房ちぶさのふくらみが、朦朧もうろうとしたおとこにぐんぐんとちからあたえる。そして――

 ――ふたたび、ひとつ、にぶおとひびいた。

 また一本いっぽんくびれたのだ。綾子あやこうで完全かんぜんくびめられたまま、無理むり姿勢しせい力任ちからまかせにあばれた結果けっかみずかくびほねってしまったのだ。綾子あやこうでかれると、おとこはマットに仰向あおむけにたおれ、あわいて痙攣けいれんする。綾子あやこおとこ完全かんぜんうごかなくなるまでを、しずかに、かお紅潮こうちょうさせながら見下みおろしていた。やがてかおげると、舞台ぶたいした唖然あぜんかたまったままの大男おおおとこたちを見据みすえる。そして――

 綾子あやこは、つややかに微笑ほほえんだ。

「さあ、つぎはどなたかしら?」

 静寂せいじゃく地下ちかホール。もう嘲笑ちょうしょう歓声かんせいこらない。……もはや、1たい1にこだわっている場合ばあいではない。のこりのMMAファイターたちは、ぎしりをしながら、続々ぞくぞくとケージないはいっていった。




 ――女性じょせい議員ぎいんによる、死刑執行しけいしっこうはじまる。




 《女性じょせい議員ぎいんのハイキック乱舞らんぶ》。くろのタイトスカートから頭上ずじょうにまでげられるミドルヒールが、次々つぎつぎ大男おおおとこたちをなぎたおしていく。綾子あやこたい多数たすう相手あいてでもけをらない。くなり距離きょりめるなどして、かならず1たい1の状況じょうきょうつくるのだ。そうしてマットにたおしたおとこに、綾子あやこはヘッドシザースをかけにいく。

 また一人ひとり、また一人ひとりと、綾子あやこ死刑しけい執行しっこうする。

 くろのタイトスカートのなか、ベージュのストッキングのふとももにくびをかけられる。ひとたび断頭台だんとうだいにはめられたら、もうせない。むちむちとやわらかなふとももが大蛇だいじゃのようにからみついて、めつけ、けっしてはなさない。いよいよ生殺与奪せいさつよだつ、すべてが綾子あやこ掌握しょうあくされる。くろのタイトスカート、てらてらとなめらかな光沢こうたくはな生地きじが、おとこかおをくすぐる。スカートのぬのにはアロマがかれていて、エレガントなかおりがはなをくすぐる。

 『おねがいだ』『ゆるしてくれ』『もう二としない』……。なみだながしながら命乞いのちごいをしても、綾子あやこあしゆるまない。おとこ巨体きょたいからはだんだんとちからけていき、やがて痙攣けいれんはじめる。手足てあしうごかず、くちうごかず、いよいよ反応はんのうしめさなくなってから――やっと綾子あやこは、ギロチンをとす。

 また一人ひとり、また一人ひとり……。ぷりぷりと乳房ちぶさをおどらせながらたおす。むちむちのふとももにくびからられる。だれ綾子あやこめられない。だれ綾子あやこかなわない。だれも、だれも――……。



 MMAファイター。筋骨きんこつ隆々りゅうりゅう大男おおおとこ10にん

 ――10にん全員ぜんいん綾子あやこひとりにころされた。



 死体したいだらけのケージの中央ちゅうおうで、綾子あやこりんとボスを見据みすえる。

「さあ、10にん全員ぜんいんたおしたわ。約束やくそくよ。あの解放かいほうしなさい」

 ボスはうなぎしりするばかりだったが、ついに黒服くろふくのスーツ姿すがたおとこたちに怒鳴どならした。

なにをしている!? 全員ぜんいんでかかれ! もうころしてもかまわん!』

 黒服くろふくたちは動揺どうようしながらも、各々おのおのがナイフやてつパイプをり、ケージないがる。今夜こんやは『らく仕事しごと』のはずだったため、拳銃けんじゅうっているものはいない。出入口でいりぐち警備けいびをしていたものはもちろん、ボスのわきひかえるもの、カメラやパソコンを操作そうさしていたものまでもされ、たちまちケージないには9にん黒服くろふくあつまり、綾子あやこ包囲ほういした。

 たったひとりの女性じょせい議員ぎいん相手あいてに、武器ぶきけ、9にんがかりで包囲ほういするおとこたち。綾子あやこはひとつためいきをついた。

「あなたたち、本当ほんとうにおちんちんいてるの? いいわよ。まとめてかかっていらっしゃい」



 ――武器ぶきちのおとこたちでも、綾子あやこひとりにかなわない。



 ナイフでりかかれば、げたあし靴底くつぞこはらってながされ、反撃はんげきされる。てつパイプでなぐりかかれば、まえすき、もしくはったあとすき的確てきかくかれる。綾子あやこつね的確てきかく間合まあいを維持いじしていて、おとこたちの攻撃こうげき空振からぶりさせている。そのすき綾子あやこ一気いっき接近せっきんし、りのあらしたたむ。あたまどう股間こかんへの多様たようりのまえに、おとこはたちまち千鳥足ちどりあしにさせられる。そうしてがったおとこあたまを、綾子あやこ両腕りょううでかかえて、ひねり、くびるのだ。またたに3にん黒服くろふく綾子あやこころされ、のこりのおとこたちはかたまってしまった。

「さあ、つぎ貴方あなたたちのばんよ」

 コツン、コツンとミドルヒールの足音あしおときざみながら、綾子あやこおとこたちに一歩いっぽずつちかづいていく。背筋せすじばしてってくる綾子あやこに、黒服くろふくおとこたちはまどう。武器ぶきっているというのにがるばかりで、たちまち金網かなあみフェンスへとめられてしまった。

「なぁに? はやくかかっていらっしゃい」

 するとおとこたちは、仲間割なかまわれをはじめた。

 たがいに自分じぶんまもるために、相手あいて綾子あやこほうへといやろうとする。かずをまったくかせておらず、おとこたちの連携れんけい完全かんぜん瓦解がかいしていた。綾子あやこはそんなおとこたちにあきれるようにためいきをつくと、1たい1で各個かっこ撃破げきは。ナイフやてつパイプをったおとこたちもなんなく処理しょりしていく。最後さいご一人ひとりくびあしはさみ、ひねりった。



 武器ぶきちの黒服くろふくたちも、9にん全員ぜんいん綾子あやこころされた。

 ――のこるギャングは、ボスひとりのみである。



 いよいよボスは最後さいごた。しずかになった地下ちかホールに、焦燥しょうそうしたボスのこえひびく。

うごくな! こいつがどうなってもいいのか!?』

 ボスは少年しょうねん人質ひとじちにした。片腕かたうでかかえた少年しょうねんあたまきつけているのは――オートマチックの拳銃けんじゅうだ。階段かいだんした、ケージないから見上みあげる綾子あやこ見開みひらいたひとみには、かお強張こわばらせてふるえている少年しょうねんうつっていた。

「……わかったわ」

 しおらしくりょうげ、そのひざまず綾子あやこ。その様子ようすにボスはきたなみをかべた。

 ボスは少年しょうねん手錠てじょうわたした。拳銃けんじゅう少年しょうねんきつけたまま、二人ふたり綾子あやこもとへとりていく。ひざまず綾子あやこまえまでると、ボスは少年しょうねんに、綾子あやこうしじょうをかけるよう強要きょうようした。手錠てじょうにしたままうごかない少年しょうねんに、綾子あやこやさしく微笑ほほえんだ。

「いいのよ。かれとおりにして」

 綾子あやこひざまずいたまま、両手りょうてこしうしろにまわした。



 ――綾子あやこに、手錠てじょうがかけられた。



 ボスはひざまず綾子あやこあごをつかんで、かおのぞむ。

貴様きさまはただころすだけではまさんぞ……!」

 綾子あやこほお銃口じゅうこうきつける。もう片方かたほう綾子あやこむねへとばし、上着うわぎなかれ、豊満ほうまん乳房ちぶさわしづかみにする。

 これは、はじめて少年しょうねん射線しゃせんからはずれた瞬間しゅんかんでもあった。



 ――瞬間しゅんかん綾子あやこ片脚かたあしはなつ。



 ひざまずいた姿勢しせいから上体じょうたいおおきくらせ、てんへと片脚かたあしげる。見張みはるほどの綾子あやこ柔軟じゅうなん身体からださばきのまえに、ボスは発砲はっぽうするもないまま、拳銃けんじゅうくろのミドルヒールにばされた。――さらにすかさず綾子あやこ身体からだ前転ぜんてんうし拘束こうそくされているとはおもえない身体からださばきで、しりもちをいたボスに両脚りょうあしびかかる。みもつれながらマットじょうころがる二人ふたりまるときには、綾子あやこのふとももはボスのあたまをとらえ、ヘッドシザースのかたちがっていた。

 両腕りょううでうしのまま、ボスのくびあしだけでげる綾子あやこ。そのなか、ボスはみずからのジャケットのなかへとをしのばせ――二丁目ちょうめ拳銃けんじゅうした。しかしそれは、くことく、ボスのからこぼれちた。

 ――綾子あやこくびほうはやかったのだ。



 外国人がいこくじんギャング《ベルセルク》のボスが、絶命ぜつめいした。



 完全かんぜん静寂せいじゃくおとずれた地下ちかホール、MMAケージないはギャングのおとこたちの凄惨せいさん死体したいかさなる。綾子あやこめたあしをようやくほどくと、強張こわば少年しょうねんかおけて、やさしく微笑ほほえんだ。

「……ごめんなさいね。こわがらせてしまったわね」

 少年しょうねんはしりもちをいたまま、ふるえ、失禁しっきんしていた。そんな少年しょうねん綾子あやこは、もうわけなさそうにたのみごとをする。

「おねがい。手錠てじょうかぎさがしてくれる?」

 まったくの他人たにんである自分じぶんたすけにてくれた、はじめて大人おとな女性じょせい少年しょうねん彼女かのじょたのみにしぼるようにがり、くびがあらぬ方向ほうこうがったボスにちかづいた。……もういきはしていない。少年しょうねんおそおそ死体したいのジャケットを物色ぶっしょくすると、それらしいかぎつけた。すぐさま綾子あやこうし手錠てじょうすと、問題もんだいなくはずれた。

「ありがとう」

 綾子あやこ自由じゆうになった両手りょうてで、さき少年しょうねんきしめた。

「……こわかったでしょう? でももう大丈夫だいじょうぶよ」

 ったちいさな身体からだ隙間すきまつつみながら、言葉ことばつづける。




こわひとたちはみんな、おねえさんがやっつけたわ」




 少年しょうねんに、はじめてなみだかんだ。一度いちどあふれたらまらない。ナイフをきつけられながらビデオを撮影さつえいしたときにも、ボスに銃口じゅうこうきつけられたときにもながすことがなかったなみだが、いまになってせきったようにあふれる。

 きじゃくる少年しょうねんを、綾子あやこはいつまでも、やさしくつづけた。



 ギャングたちと女性じょせい議員ぎいん、20たい1のたたかいが決着けっちゃくした。

 たったひとりの女性じょせい議員ぎいんに、20にん全員ぜんいんころされた。



 半年はんとし、とある都内とないのホテルのロイヤルホールでは、はなやかなパーティがもよおされていた。天地てんち広々ひろびろとした会場かいじょうなかは、わか女性じょせいばかりで、学生服がくせいふく姿すがた少女しょうじょおおい。彼女かのじょたちがつめる舞台ぶたい中央ちゅうおうに、綾子あやこ姿すがたがあった。

 ――国会議員こっかいぎいん城園じょうえん綾子あやこだ。

 半年はんとしまえ事件じけんは、都議会とぎかい議員ぎいんだった綾子あやこ全国区ぜんこくく、いや世界せかい有名ゆうめいにした。『たったひとりで凶悪きょうあく外国人がいこくじんギャングにかった女性じょせい』。世間せけん彼女かのじょおおいに支持しじしたことで、綾子あやこ国会議員こっかいぎいんにまでキャリアアップしたのだ。今日きょうのパーティは、先日せんじつ国政選挙こくせいせんきょ参議院さんぎいん議員ぎいん当選とうせんした綾子あやこいわうためのものである。

 女性じょせいたちの歓声かんせいれいをしてこたえる綾子あやこに、花束はなたばかかり登壇とうだんする。――綾子あやこ救出きゅうしゅつされた少年しょうねんだ。すっかりかお血色けっしょくもよくなっている。女性じょせいばかりの空間くうかんのせいか、少年しょうねんかおにさせながら、綾子あやこ花束はなたばわたした。

「ありがとう。うれしいわ」

 外国人がいこくじんギャング《ベルセルク》。東京とうきょうにおいて最大さいだい勢力せいりょくだった悪辣あくらつ組織そしきは、ボスの死後しご、いくつものグループに分裂ぶんれつした。以前いぜんまでは市民しみん恐怖きょうふおとしいれていた《ベルセルク》の名前なまえだが、いまとなっては『おんなひとりに敗北はいぼくしたギャング組織そしき』の代名詞だいめいしとなってしまった。ゆえに分裂ぶんれつしたどのグループも《ベルセルク》を名乗なのらず、東京とうきょうのギャングの歴史れきしまくろした。分裂ぶんれつしたグループも、綾子あやこ提出ていしゅつしたしん条例じょうれい可決かけつされた結果けっか以前いぜんのようにあばれることはできなくなった。かせげなくなった東京とうきょうるものはおらず、次第しだいかずらしていき、ついには凶悪きょうあくギャングは排斥はいせきされた。



わたしは、不当ふとうちからにはけっしてくっしません。子供こどもたちの未来みらいのために、これからもたたかつづけます」



 綾子あやこのゆかしくも力強ちからづよ演説えんぜつに、女性じょせいたちは共鳴きょうめいする。

 ロイヤルホールにひびわたる、女性じょせいたちのあつ拍手はくしゅ歓声かんせい

 女性じょせいたちのはなやかな旋風せんぷうは、いつまでもいていた。


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死刑執行人淑女 《外国人ギャング20人、女性議員ひとりに蹴り殺される》 E.C.ユーキ @E_C_Yuuki

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