医療法人帝流学園英雄診療録

TPS(Tale Paranoia Syndrome)

概要

　故意の有無に関わらず、███した人間が発症する病。幻覚や幻聴などさまざまな精神疾患をもたらすが、最も特異なのは物語にまつわる異能を行使できるようになることである。

　なお、発症した物語及び異能は

　『Tale Paranoia Virus Syndrome』(以下TPVSと略) と呼称する。

症例

　TPSの症例は主に下記3つに分類される。

　1.分裂型

　自身とTPVSを分けて考えることが出来ており(患者の人格が残っている)、異能だけ行使する。あるいは自身の中に形成したTPVSの人格と対話を行うタイプ。

　患者の中で形成されたTPVSの人格ははあくまで患者のイメージに基づくものの為、偏っていることもしばしば。

　・患者例

　TPVS:上杉謙信を発症した女性患者との授業中の会話記録

当該患者: ──うん、彼女やっぱり『厠で死んだ』って歴史に残ってるの凄い恥ずかしいみたい。そうだよね、女の子だもん。死ぬ時まで経歴も綺麗でいたいよね

教員No.475:……前々から指摘しようと思っていたのだけど、TPVS:上杉謙信は女性なの？

当該患者:え？上杉謙信って女性の偉人でしょ？だってゲームでは……え、違うの？

　2.妄想型

　自身をTPVSと思い込んでいるタイプ。

　TPVSが善性かつ、TPS患者が『本当の自分』を自覚しなければ穏健なタイプ。ただし自身の正体を自覚した際には『本当の自分』にTPVSの人格を呑まれ豹変することも。

　・患者例

　TPVS:桃太郎を発症1時間後の男性患者との面談記録

当該患者:俺は鬼ヶ島で鬼を倒して、お爺さんとお婆さんの家に帰って来て寝て起きたら変なトコにいるって感覚だったけど……まさか未来の人間に憑依しているなんて

教員No.1025:はい。ですので桃太郎さんが元の時代に帰り、憑依元の方に肉体を返すためにも治療にご協力いただければ

当該患者:それはいいんだけど……この人背中になんか俺っぽい絵が描いてあるんだよね、もしかしてこの時代の俺のファンだったり？

　3.崇拝型

　TPVSに心酔し積極的にTPVSを使用するタイプ。

　もっとも治療が難航するタイプ。そもそも性格に難がある患者が多く、対応を苦手とする職員も多い。

　・患者例

　TPVS:アマテラスの日誌

『9月17日

来月は神嘗祭のため、学校サボって伊勢に行こうとしたら校内警備を強化された。でもって校長に「『Nightmare:Maya』……一度世界を滅ぼしたアナタに、完全な自由があると思わないで」と言われた。挙句10月中は学園敷地内から出ることを禁止する念書まで書かされた。

でもテラッ様をお祝いしたーいと校長室で駄々コネまくったら学内で祭りを開催する許可は貰えた。いえーい！やっぱりお天道様は見ているぜー！』

治療

　TPSを治すためには患者自身がTPVSと決別し、現実に向き合うことが最も重要である。

　治療には主に心理療法と薬物療法が用いられる。

　・心理療法

　TPS患者を帝流学園英雄病棟に入学（にゅういん）させ、クラスメイトや教員との学園生活を通し精神的な変化をもたらすことで回復を図る方法。　

　TPS患者は入学時と卒業時に記憶改変を施される。『闘病の為、████を忘れて学園に入学』し、完治すれば『闘病の記憶を無くして学園から卒業、████と向き合う』ことになる。

　元々TPS患者は████から逃避傾向にあるが、一度TPSが完治した患者は記憶を取り戻した後、大多数が████に真摯に向き合うようになる。

　・薬物療法

　TPS患者自身にTPVSが制御不可、或いはTPVSを用いて医療法人帝流学園に不利益をもたらす場合に実施する治療方法。

　治療には対象の特攻となりうる/相反する性質を持つ物語をTPVSに作用させる向精神薬、

　『Tale Paranoia Syndrome Drug』(以下TPSDと略)を用いる。

　・患者例1

　50代男性患者

　TPVS:クリームヒルト

　TPSD:ジークフリート

　投薬前:視界に入った男性を例外なくハーゲンと誤認し暴力をふるう。

　投薬後:30分ほどで暴れなくなったため拘束を解除したところ、男性担当医をジークフリートと誤認し執着するようになる。1ヶ月後に当患者は卒業となったが、鬱病の症状が見られた上記男性担当医は1ヶ月休職することとなった。

　・患者例2

　10代女性患者

　TPVS:メデューサ

　TPSD:ヘレン・ケラー

　投薬前:視界に入った全ての生物を岩石に変質させる。なお当患者は物理的に視界を覆っても蛇に変質した毛髪の視界が塞がれていない場合、同様のTPVSを引き起こす。

　投薬後:1時間かからず完全に視力と聴力の喪失を確認。その後一向に蛇化した髪に変化は見られなかったが、現在は担任の補助がある状態で問題なく学生生活を送れていることを確認。

　※当患者は投薬3ヶ月前から通信教育によって点字を習得済み。

　※追記・担任から開発部門への要望書

「頭の蛇も目が見えてないせいか、髪が凄く絡まるのが悩みだそうです。匂いで蛇を制御出来るようなヘアオイルは開発可能でしょうか？検討願います」

ワクチン

　帝流学園英雄病棟は研究によりTPSワクチン開発に成功している。

　『Manufactured by Tale Vaccine

』(以下MTVと略)と呼称されるこのワクチンは主にTPS患者の治療を担当する教職員に配備されるものである。

　専用の注射器を用いて筋肉注射を行うことで短時間ではあるものの接種したMTVに応じたTPVSの行使が可能になるため、MTVは暴走したTPS患者の鎮圧時などに用いられることが多い。

　用法、用量を守り正しい使い方をしていれば副作用などはほぼないが、乱用すれば当然心身に異常をきたすことになる。

　MTVのオーバードーズによる疾患はTPS患者の治療より時間を要することが多く、大抵の場合当該教員は解雇されることとなる。