はじめに

 『Tale Paranoia Syndrome』──TPSと略される世界的にも稀有な症例。

 例えば神話、伝記、童話。あるいは小説、映画、演劇。果てに怪談、噂、インターネットで今も産まれ出でる新たな空想。それは人類によって紡がれた心を揺さぶる物語。そんな物語に侵されるーー奇妙な病。

 当初は精神疾患による幻覚や妄想だと思われたが、TPSを発症した患者には恐るべき特性が見られたのである。


 『物語にまつわる異能を行使できる』


 アルキメデスが話しかけてくると語った患者は3日でリーマン予想を解いた。

 アーサー王を自称した患者は何もない空間から輝く剣を取り出した。

 アマテラスに魅入られたと感嘆した患者が自宅に足を踏み入れた0.5秒、世界から太陽が消えた。


 混乱に陥る人類。罹患した患者を隔離、治癒しようにも有効な手段はない。そもそも何処に?どうやって?

 打つ手のないまま、ただただ終末に向かう世界に一条の光が差し込む。

 『医療法人帝流学園』いりょうほうじんているがくえん

 そう名乗る組織が世界政府に接触し、こう告げた。

 「我々はTPSの蔓延により滅びた世界からやってきた未来人です。我々にはTPSに対抗する知恵があります。手段があります。現人類の皆さん、我々と協力して人類滅亡を食い止めてください」

 彼らと政府が結託し数年後。TPSの兆候が見られた人間は帝流県林松市老鴉町ているけんりんしょうしろうやちょうに作られた特別病棟に隔離されることが決定した。

 その特別病棟こそが『帝流学園英雄病棟』ているがくえんえいゆうびょうとう。教育を通してTPSの完治を目的とした病棟にして学園である。


 本書は『帝流学園英雄病棟』で治療を行なった生徒達の診療録であり、『医療法人帝流学園』の活動記録である。

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