ぼくは愛がわからないらしい

 どうやらぼくは愛がわからないらしい。ぼくに好意を寄せては、ぼくの前から去る女性が口にする言葉だった。そうなんだ、ぼくは愛がわからないんだ。なんとなく腑に落ちた気でいた雨の日、きみと出会った。小さい体をさらに縮こませて雨に濡れて震えている。思わず腕の中に収めてあたたかい場所へ走ったあの衝動の感情を知らずにいる。

 数ヶ月経って、きみはぼくとずっと住むことになった。出会った日にはわからなかったけれど、きみの体はやせ細っていて、たくさん怪我をしていて、買ってきたご飯を食べないから、何人目かのカノジョがぼくに手料理を振る舞うために揃えてくれた調理器具を初めて自分で使った。きみはそれを食べてくれて、今まで自分のご飯も作ったことだってなかったのに、きみのご飯だけは作るようになり、いつしかついでに自分のためにも作るようになった。

 きみは見る見るうちにふくよかになって、そのことをきみに伝えると怒ったように毛を逆立てるけど、それすらも愛らしい。祖母が会うたびに「ご飯食べてる?」「たくさんお食べなさい」と言ってきたのは、こういう気持ちだったのかと初めて知った。

 可愛い。愛しい。守ってあげたい。たくさん尽くして甘やかせて、ずっとずっと一緒にいたい。ああ、これが愛なんだって、気づいた。どうやらぼくは愛がわかるらしい。愛することができるらしい。

 きみに手を伸ばして頭を撫でる。きみは気持ちよさそうに目を細めてぼくに体を委ねる。好きだよ、可愛いね、ずっと一緒にいようね。ぼくの気持ちに答えるように、きみは「ニャア」と鳴いた。

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