お星様には願わない
流星群を初めて見た八歳の夜、それがぼくたちの初めての夜更かしだった。隣に住むきみの部屋はぼくの部屋の真横で、二人してベランダに出て空を眺めた。何をお願いしたの? 尋ねるときみは満面の笑みでナイショと答えた。そっかと答えながら、ぼくと同じ願いであればいいのにと思った。きみがぼくのおよめさんになってくれますように。ひとつの願いじゃ飽き足らず、きみの願いが同じであることまで願ったバツなのか。きみの初恋の相手は、ぼくのその先の親友であった。
流れ星を見るたびにぼくの願いは変わらなかった。きみはいつもナイショと言って答えてくれなかった。ぼくのその願いが変わったのは、中学三年の夏、きみが最後の大会を前にしたときだ。きみが優勝しますように。だけどきみは地区大会の準決勝で負けてしまった。何を願ったのか尋ねると、一日でも長くみんなで部活ができますようにと、つまるところ、願い事は重なっていたのだ。だけどそれは叶わず、きみはたくさんたくさん泣いている。
高校生になり、きみに恋人ができた。流星群は恋人と見るんだ、お母さんたちにはナイショだよ。そう言って、きみは友達の家に泊まると嘘をついたのを知っている。彼氏と別れてしまえ。ぼくは流れ星にそう願って、数ヶ月後、本当に別れたきみはぼくの前で泣くようなことはせず、無理やり笑顔を作った。ぼくはきみが好きで、きみはぼくを好きにならない。そんなこと、ずっとずっとわかっていたんだ。ぼくが流れ星にきみの幸せを願っても、きみはぼくの幸せなんて願わないし、ぼくの願い事自体気にも止めてないだろう。考えに考え抜いた一発ギャグを披露した。何してんのって、きみは呆れたように言いながら、それでも笑ってくれて、ああ、ぼくはきみの笑顔が好きだったんだって、そんな単純なことを今更気づいた。
お星様にはもう願わない。ぼくの本当に叶えたい願いを叶えるのはきっとぼくではないけれど、つかの間だけでも叶えることは、たぶんぼくにもできるから。
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