馬鹿と煙はなんとやら

 きみと初めて顔を合わせたのは学校の屋上なんていう、少女漫画ならうっかり恋が始まってしまいそうな場所だった。口には昭和の不良ドラマに出てくるようなものを咥え、だけども制服のワイシャツは第一ボタンまで留めるような、袖もまくらずボタンを留めるような、そんなチグハグさがあった。なるほど、これが令和の不良の形なのかと変に腑に落ちながら、対角に位置する場所に腰かけ距離を取り、小説を開く。だというのにきみはなぜか近づいてきて、鼻腔にまとまりつくような匂いに顔をしかめた。もしかしたらシガレットの形をしたお菓子なのかもしれないとも考えたけどその線は消えたらしい。

 何年? 何組? ここって立入禁止なの知ってる? 誰から屋上入れるって聞いたの? 人が読書をしていてもお構いなしに矢継ぎ早に聞いてくる。それに答えるとさらに質問が飛んできて、開いていた本を閉じた。言葉を交わせば存外会話は弾んで、それから幾度となく小説を小脇に挟んで屋上に行ったけど、いつも一ページを読んだところで終わってしまう。

 冬になる。学ランを着たきみはやはり第一ボタンまで留めていて、いつもと同じ煙草の匂いがした。こんなに匂いがついているのに教師は気づいていないのか。それとも気づいているのに気づかぬふりをしているのか。

 ここから飛び降りようとしてたんだ。きみは呟く。だから、最後に目いっぱい体を悪くしてやろうって、煙草を吸ったんだけど、君に見つかっちゃって。乾いた笑い声とともに発した声は、乾いた空気に切なく響いて、わたしは思わず口を開いた。きみは馬鹿だから高いところが似合うよ。だから、わざわざ低いところに行かなくていいんだよ。わたしの言葉にきみは目を丸くして、その後そっかと笑った。その目尻には光っていたけど、わたしは見なかったことにした。

 町できみの吸っていた銘柄と同じ匂いがすると思い出す。きみは今も、高いところで煙草を吸っているのだろうか。

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