幽霊に足はないらしい
幽霊に足はないらしい。小学生の頃、霊感少女を自称していたクラスメートが言っていたことだ。ぼくには霊感なんてないし金縛りにあったこともなく、その言葉の真偽をついぞ知ることのないままなのだろうと思っていたのに、まさか自身の足が消えているのを見るだなんて誰が予想しただろうか。そんなぼくの存在に気づくのは、霊感少女を自称していたクラスメートではなく、同じ制服を着たきみだった。
誰もぼくを認識しない世界で、本当に幽霊って足がないんだなぁ、なんて呟いたときにきみはケラケラと笑った。それからぼくたちは時間の許す限りたくさんの話をした。きみは一度もぼくの死因を聞かなかった。何部に入ってるの? 好きな子いる? そんな、いまだにぼくが生身の人間であるかのような会話だった。最近の楽しみって何? 新発売のゲームをやることかなぁ。そうなんだ、ぼくはもうすぐ生まれてくる弟が楽しみで──まるでずっと昔から知っているような、親しい友人との会話のように。
月日は流れ、きみは卒業する。一緒に卒業できなくて残念だなぁと呟くと、きみは泣きそうに笑う。どうしてそんな顔をするんだ。もっと笑って。友達と会えなくなるのが寂しいの? 大丈夫だよ、きみは素敵だからずっと友達と仲良くできるし、新しい友達もたくさんできるよ。
じゃあね。きみは鼻をすする。また会いに行くからね。じゃあね、またね──お兄ちゃん。
桜の花弁が舞って、足元から吹き上げる。ああ、ぼくは、きみの成長を見届けることが心残りだったのだと、初めて気づいた。きみの元に駆ける足がないことにこんなにも悔やむのは後にも先にもこの一瞬だけだ。視界がピンクに染まって、もうきみの顔も見えなくなって、でもずっとずっと、心の大事なところで覚えてる。
じゃあね、またね──数十年後、子どもや孫の話もたくさん作ってぼくのところへ来るんだよ。それまでは絶対に来ちゃダメだからね。ぼくの愛しい弟よ。
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