さよならが言えない
最低だと思った。きみの女癖の悪さは付き合う前から知っていて、わたしはそこらのバカな女とは違うと思いながら、例に漏れずわたしもきみを好きになり、あまつさえわたしならきみを変えられるだなんて淡い期待を抱いていた。そんなところまで「そこらのバカな女」と同じだったのに。可愛いね、好きだよ、そんな言葉に絆されて、心も体も許して、特別になれたのだと勘違いした。そんなことなかったのに。
わたしのマンションの部屋で半同棲生活を始めて楽しかったのは最初の一ヶ月だけ。毎日わたしの部屋に入り浸っていたはずが、次第に足が遠のき、それに気づいたのはわたしを抱き締めたきみから知らない香水の匂いがしてからだ。どうして、なんで、最低、クズだ。ありとあらゆる罵詈雑言で責め立てて、だけどもきみはケロリとして、それだけでなくどうして怒るのかと問いかけた。可愛いと言った。好きだと言った。だけど、それだけ。付き合おうだとかそういったことを言われたわけではなく、つまるところ、可愛いも好きも不特定多数の人間にばら撒かれた言葉だったのだ。
じゃあもう来ないよときみは背を向ける。その背中に更なる罵声を浴びせてやりたかった。二度と顔を見せるなと言ってやりたかった。だというのに、わたしの足はきみの背を追いかけ、手はきみの背に縋る。
きっときみは近い将来、わたしから関心を失ってどこかに行ってしまうのだろう。それでも、わたしからさよならを言うことはできなかった。そうしてわたしは、そこらのバカな女に成り下がったのだ。
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