恋は人を綺麗にする
恋は人を綺麗にするのだという。そんなわけないと鼻で笑っていたあの頃は遠く、鏡に自身を映す日々。恋そのものがわたしを綺麗にしたわけではなく、恋をしたわたしがきみの目に映るなら少しでも綺麗で在りたいと努力した結果であった。前までは気にも止めなかった「モテ」の文字にわざわざ立ち止まり、チェックをする。数ヶ月前のわたしが今のわたしを見たら、信じられないと目を丸くするだろう。
きみは些細な変化も気づいてくれる。痩せた? 前髪切った? こないだと香水の匂い違うね。ネイル変えたんだ。可愛いね。可愛いと思われたくて、変化に気づいてほしくて、ますます自身の姿に磨きをかける。綺麗になったねと友人から言われることも増え、人生で一番綺麗になったと胸を張って言えるまでになった。だけど、だからといって、それが必ずしも実を結ぶわけでもない。
些細な変化に気づいてくれる。だけどきみは可愛いねと言わなくなった。好みに合わないのかとか何か変なのかといろいろ考えたけど決してそうではなく、それに気づいたのは、わたしもきみの些細な変化に気づいたからだろう。
きみに好きな人ができたんだ。たったそれだけのことだった。泣いて、泣いて、泣いて。一晩中泣いた後、鏡に映ったわたしは人生で一番醜かった。冷水で顔を洗い、それからもう一度鏡の前に自身を映し、笑顔を作る。
一日、二日、三日。時間が進んで、わたしはまた綺麗になる。だって、失恋という文字にも恋が入っているでしょう? あんなに醜い日はもういらない。今日も、明日も、明後日も、わたしは人生で一番綺麗を更新するのだ。
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