きみが読む本の名前を知りたくなった
本のタイトルを知りたい。浮かんだ欲望はこれまでになかったもので、ぼくは一人首を傾げる。
きみはいつも教室で一人静かに本を読んでいる。友達がいないわけでもなく、昼休み以外のすべての業間休みにブックカバーがついた本を開くのだ。夏休みの読書課題だけでも苦痛と感じるぼくは、本を好んで読むなんてすごい人だなぁと、挨拶を交わすことしかしたことがないようなクラスメートに尊敬にも似た眼差しを向けていた。
運動部に所属しているぼくの朝は早く、みんなが学校に来るよりも随分早くから校門をくぐっていた。その日は部活の朝練が休みであったことを忘れていて、やることもないしたまたま教室に足を踏み入れた。それだけだった。誰もいないだろうという予想は外れ、いつもと同じようにきみが教室でブックカバーがついた本を開いている。教室のドアを開ける音に気づいたきみが上げた顔には驚きの表情が浮かんでいた。挨拶をしながら前の席に後ろ向いて腰掛ける。「その本読終わったら貸して」口をついて出た言葉に驚いたのはきみだけじゃない、ぼく自身もだ。
それから一週間後、ぼくは朝練が始まる前に教室のドアを開ける。きみはやっぱりいつものように本を開いていて、音に気づいて机の上に本を置いた。ブックカバーが外され剥き出しになった表紙に、初めてきみが読んでいた本のタイトルを知る。受け取りながら本を開くと、たくさん活字が並んでいて一瞬怯んだけど「これ、最近読んだ中で一番好きな本なんだ」なんてきみが言うから、すべてに目を通したくなった。
本のタイトルを知りたい。本の内容を知りたい。きみのことを、知りたい。きみの読む本の中には、その欲望の答えが書いてあるのだろうか。
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