ピエロの仮面を剥がしたい

 きみはいつでも笑顔で等しくやさしい。喜怒哀楽が激しいわたしとは対照的で、きみのことをすごいなぁなんて思っていた。だからこそわたしは驚いたのだ。「すごいなぁ、きみは」わたしへ向けたきみのその呟きに。

 怒らないんじゃなくて怒れない。泣かないんじゃなくて泣けない。張りついた笑顔はもはや無表情に近しくて、等しくやさしいのならそれは無関心と同じだ。凄惨な過去があったわけではなく、ぼくは物心着いた頃にはこうだった。淡々と話すきみからは悲愴の色も滲まない。ここで困り顔ひとつさえ浮かべてくれればいいものをきみはそれをしない――きみの言葉を借りれば、それができない。冗談か何かで言っているのかとも思ったけれど、そうではないらしい。

 ジェットコースターのように感情も表情も目まぐるしく変わるわたしと、いつも笑顔で等しくやさしいきみと、一緒にいれば何かが変わるかもしれないと、期待を寄せてそれから数ヶ月ともに過ごしたけれど、そう上手くはいかなかった。道化みたいだろうときみは笑う。ピエロはいつも笑顔で、その下の感情は見えない。何かを思っているかもしれないし、ぼくのように何も思っていないかもしれないと。変わったのは喜怒哀楽の激しいわたしの感情でも、それらが無に近しいきみの感情でもなく、わたしの変えたい意識の先だった。

 きみの表情を変えたい。いっそのこと怒りでも悲しみでもいいから、笑顔以外の表情を見たい。そのピエロの仮面を剥がしたい。無駄だよときみが笑っても、その言葉は否定したかった。

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