片思いの先を知りたくなったの
好きな人を遠くから見ているだけ。それがわたしの恋だった。
何が楽しいのときみは問う。両思いになって、恋人関係になり、二人で愛を育んでいく。それが恋において楽しいことで、それが好きということだと。きみの言葉にわたしはゆっくりとかぶりを振った。
好きな人を、ただ好きなだけでいい。好きな人を、ただ好きなだけでいたい。それは謙虚なようで傲慢な願いだ。遠くから見つめているだけであれば、好きな人が思い描いた人とは違って幻滅することもない。つまるところ、わたしは幻想を愛しているに過ぎない。わたしの考えを理解されたいわけでもなく、ただ、その感情がそこにあるだけだ。
そうなんだ。ぼくには理解できないけど、まあ、そういうこともあるよね。きみは肯定も否定もせず微笑んでくれて、それが心地よかった。あるときは高校の人気者の同級生を、あるときはライブ会場で見たアーティストを、あるときはアルバイト先の先輩を、あるときは大学のゼミ仲間を、あるときは会社の別部署の同僚を……たくさんの恋が芽生えては、ひっそりと枯れていき、花を咲かせることはないまま、いつだって苗で終わっていく。そんな「好き」を重ねて幾年。
何が楽しいのときみは問う。幾年もの間も変わらず傍にいてくれたきみが。何が楽しいんだろうねとわたしは答える。これまでの片思いを楽しいと思ったことはなかった。ただ、そこに恋があっただけ。
そうなんだ。じゃあさ、ぼくと付き合おうよ。それは、わたしを肯定も否定もせず微笑んでくれたあの日のものと酷似していて、思わずわたしは首を縦に振った。
好きな人を遠くから見ているだけ。それがわたしの恋だった。だけど近くで恋が芽生えたら、それは何になるのだろう。
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