アナザーラブストーリー
主人公というのは、ぼくの幼なじみみたいなやつを指すのだろう。野球の名門校で一年生にしてエースとなり、勉強もできて人当たりもよく、おまけにイケメンと来たもんだ。片やぼくはキャラクター名さえ与えられないような冴えない男で、幼なじみとは人種が違いすぎて妬みの気持ちすら芽生えない。そんな幼なじみが恋に落ち、恋人として選んだ相手がこれまた学年一の美女で文武両道な彼女なのだから、もはや出来すぎた恋愛漫画だった。彼女に少なからず淡い気持ちを抱いていたけれど、悔しさどころか祝福の気持ちしかない。
こんなぼくの気持ちをわかる人なんてこの世のどこを探してもいない……と悲劇の男になろうとしても、似たような境遇にあるきみがいるのだから、ことごとくぼくという存在はありふれた世界の一部となる。きみもぼくと同じで、主人公のような幼なじみを持ち、その幼なじみの恋人に淡い恋心を抱いていた。彼らについて話したとき、きみは「絵になっていて素敵だよ」と笑った。その笑顔の下に妬みや嫉みといった負の感情が隠されているような気配は一切なく、それが本心であるところを読み取れた。そんなところまでぼくと同じなのだから、嫌になってしまう。
幼なじみと過ごす時間が減るごとに、なぜだかきみと過ごす時間が増えていく。そのたびきみのコロコロと変わる表情を知って、ただの「同じ境遇の、主人公の幼なじみ」から、徐々にきみという輪郭が浮き彫りになっていく。そしてきみを「きみ」という人間として認識した頃、ぼくにも変化が訪れる。
ぼくたちは決して主人公ではない。彼らを主人公とした物語ではキャラクター名すら与えられないかもしれない。だけど、その外でも、誰かの物語は動くのだ。
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