冷たい空気と春の風

 暦によると九月から十一月は秋らしいが、最高気温が毎日二十五度を超える十月中旬に悩む明日の服装は半袖にするか長袖にするかくらいで、それを秋と呼んでいいのかはいささか疑問であった。そんな疑いの目を向けたことに神様が気づいたのか、例年の気温になるように急激に冷え込んだ十月下旬、薄手のシャツに袖を通した腕をさすることになる。同じ教室には似たような生徒が複数いるらしい。

 突然頭から背中にかけて布が降ってきて、驚いて顔を上げて振り返るときみが立っていた。「使わないから使っていいよ。洗濯したばっかだから臭かったら俺の母さんに文句言って」シャツの上に部活のジャージを羽織ったきみはその袖を七分になるように調整している。わたしに降ってきたカーディガンはわたしよりも一回りも二回りも大きなもので、お言葉に甘えて袖を通すと手がすっぽり隠れてしまった。

 寒いのでその日は家に帰るまでそのまま過ごさせてもらい、急いで洗濯と乾燥を済ませて翌朝持っていくと、薄手のシャツと薄手のカーディガンに袖を通したわたしに「今日も寒くなるかもしれないから持っときなよ」と言われ、結局秋の間はずっときみのカーディガンに袖を通して過ごした。

 冬になれば「寒くなったら言ってね」と言われ、その冬は結局きみのセーターに袖を通して過ごす。秋も冬も、寒い季節に友人の生暖かい春の視線を感じながら。

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