秘話4-1:凶終
朧月:「秘話4-1:凶終」を8000字以内で執筆してください。
第三者視点。
これはもしもの話。
3つめの大陸でS級を超える厄災級モンスターに遭遇し、セリアを失い、利き腕の右腕を失いながらもなんとか勝利した。
だが、セリアを失った喪失感だけが残り、生きる屍のような状態で故郷へと帰還した。
セリアは受肉していない状態です。
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アルトが3つ目の大陸「シンドラ大陸」で遭遇したモンスターは、彼の想像をはるかに超える存在だった。
冒険者として数々の戦いを乗り越えてきたアルトだが、その「厄災級モンスター」との戦闘は、これまでの経験とはまったく異なる凄絶な戦いとなった。
セリアは、精霊としてアルトを常に支えてきた。
戦闘時には彼の精神を安定させ、戦略的な助言を与える頼もしい存在だった。
彼女の存在があったからこそ、アルトはS級モンスターを倒すことさえ可能だった。
だが、この厄災級モンスターとの戦闘は、セリアの力をもってしても対処しきれないほどの脅威だった。
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その日、アルトとセリアは通常の任務で荒野を探索していた。
しかし、突然現れたのは、空を覆うほどの巨大な黒い影――それは伝説的な厄災級モンスター「カタストロフィス」だった。
アルトは咄嗟に剣を構え、セリアは彼の背後に立ち、精霊の力で彼を守ろうとした。
しかし、そのモンスターの力は圧倒的だった。
アルトが剣を振りかざしても、その巨体には傷一つつけることができず、逆にモンスターの一撃が大地を砕き、周囲の景色が一瞬で崩れ去った。
『アルト、無理をしないで……!』
セリアは必死にアルトに声をかけたが、アルトは戦うことをやめなかった。
彼にとって、戦うことしか生き残る術はなかったからだ。
「俺がやらなきゃ、ここで全てが終わる……!」
アルトは決意を込めて、再びモンスターに突進した。
彼の剣は何度も振り下ろされ、魔法も次々と放たれたが、モンスターは揺るがなかった。
それどころか、次の瞬間、カタストロフィスの巨大な爪がアルトに向かって襲いかかってきた。
アルトは咄嗟に避けようとしたが、間に合わなかった。
次の瞬間、彼の視界が白くなり、激しい痛みが右腕から全身に走った。
「――ぐああああっ!」
アルトは絶叫した。
右腕が根元からもぎ取られ、地面に転がっていた。
血が噴き出し、彼は倒れ込んだ。
戦い続けることが不可能なほどの致命的な傷だった。
『アルト……!』
セリアの叫びが響いた。
彼女は必死にアルトの精神を保とうとしたが、モンスターの攻撃は止まることなく続いていた。
アルトが倒れたまま動けなくなったその瞬間、モンスターはセリアに向けて次の一撃を繰り出した。
「――セリア!」
アルトは必死に叫んだが、声は届かなかった。
カタストロフィスの巨大な爪がセリアを貫き、彼女の精霊体が砕け散った。
「嘘だ……セリア……セリアッ!」
アルトは目の前で崩れ去るセリアの姿を見て、絶望に打ちひしがれた。
彼の中で何かが壊れた。
セリアは、これまで彼を支え、共に戦ってきたかけがえのない存在だった。
そして、今、彼女は目の前で消え去ってしまった。
セリアを失ったアルトの心には、何も残らなかった。
ただ、喪失感と無力感が彼を支配していた。
しかし、そのまま死ぬわけにはいかなかった。
アルトは右腕を失いながらも、残された左腕で剣を握りしめ、必死に最後の力を振り絞った。
彼の体は限界を超えていたが、セリアの仇を討つという一心で動き続けた。
そして、ついにカタストロフィスに一撃を加え、モンスターは倒れた。
だが、勝利の喜びはなかった。
ただ虚無が広がるばかりだった。
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それから数日後、アルトはボロボロの体で故郷へと帰還した。
右腕は失われ、セリアを失った喪失感が彼を蝕んでいた。
彼の顔には、かつての生き生きとした表情はなく、生きる屍のような姿となっていた。
故郷に戻ったアルトは、家族に再会するものの、彼の心はどこか遠くにあり、家族との言葉もほとんど交わさなかった。
母親のリナや父親のガレル、妹のミアは、彼の変わり果てた姿にショックを受けたが、アルトが何を経験してきたのかを聞くことはできなかった。
「アルト……本当に……」
リナは涙を浮かべながら、息子の顔を見つめた。
彼が無事に帰ってきたことは嬉しいが、同時にその姿を見て、彼がどれだけの苦しみを背負っているのかを感じ取っていた。
アルトはリナの心配そうな視線にも答えず、ただ静かにうつむいていた。
「……俺には、もう何も残っていないんだ……」
彼の呟きは小さく、誰の耳にも届かなかったが、彼自身にとってはその言葉が全てを物語っていた。
右腕を失い、精霊としてのセリアも失った今、彼の中には何も残っていなかった。
ミアはそんな兄の姿を見て、心の中で叫びたくなるほどの悲しみを感じていた。
かつては明るく、強く、そして優しい兄だったアルトが、今や目の前で崩れ落ちるように生気を失っている姿は、彼女にとって耐えがたいものだった。
「兄さん……何があったの?」
ミアは小さな声で問いかけたが、アルトは答えなかった。
彼の心は、遠く離れたセリアの元にあった。
彼がこの世で一番信頼していた存在、セリアを失った今、彼にとって何も意味を成さなくなっていたのだ。
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アルトは故郷に帰ってからも、外に出ることはほとんどなかった。
彼は右腕を失い、戦うことができなくなったという現実を受け入れられず、またセリアを失った心の痛みに耐えることもできなかった。
「……何も、意味がない……」
アルトは何度もそう呟いた。
彼の部屋には剣や冒険で得た品々が並んでいたが、それらは今やただの無意味な物に過ぎなかった。
彼の人生は、セリアと共に歩むことで成り立っていた。
そして、彼女を失った今、彼の歩む道は消え失せてしまったのだ。
アルトは何度もセリアの姿を思い浮かべた。
彼女の微笑み、彼女の言葉、彼女の支え――全てが今、彼の手の届かない場所にある。
右腕の喪失という肉体的な痛みよりも、彼にとってセリアを失った心の痛みの方がはるかに大きかった。
時折、夜が更けるとアルトは一人、セリアの名前を呼び続けた。
「セリア……戻ってきてくれ……」
だが、返事が返ってくることはなかった。
彼は自分の叫びに答える者がいない現実を痛感し、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
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アルトの家族は、彼が日々壊れていく姿をただ見守ることしかできなかった。
ミアも、母親も、父親も、どうやって彼を救えばいいのか
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GPT:利用規約に違反してるっぽい
朧月:続き書いて
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どのようにして彼を救えばよいのか、家族には答えが見つからなかった。
アルトが抱えている喪失感や苦しみは、誰にも共有できるものではなく、彼自身が一人で背負い込んでいるようだった。
ミアは、何度も兄に声をかけようと試みたが、そのたびに彼の目に映る深い絶望に心が引き裂かれた。
兄に向かって手を伸ばしても、その手が空を切るように、アルトは家族との繋がりを感じ取れなくなっていた。
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ある晩、アルトは月明かりが差し込む静かな部屋の中で一人座っていた。
彼の目には何も映らず、ただ虚無に包まれていた。
かつては冒険に満ちていた彼の目は、今や光を失い、ただ静かに時が過ぎるのを待つだけのようだった。
「セリア……」
アルトはもう一度その名前を呟いた。
だが、何度呼んでも彼女は戻ってこない。
あの戦いの光景が何度も頭の中をよぎり、そのたびに彼は絶望に押し潰されそうになった。
その時、彼の背後で静かな足音が聞こえた。
振り返ると、そこには妹のミアが立っていた。
彼女は迷いを抱えながらも、何かを決意したような表情をしていた。
「兄さん……話を、させてくれる?」
ミアの声は静かだったが、どこか強さを感じさせた。
アルトは少し驚いた様子で彼女を見つめたが、何も言わずに頷いた。
彼がここまで自分の殻に閉じこもっている中で、ミアがどれほど心配してくれていたかを、彼はうっすらと理解していた。
ミアはアルトの前に座り、静かに話し始めた。
「兄さん、ずっと見てた。 あなたがどれだけ苦しんでいるのか、何があったのか、私には全部わかるわけじゃないけど……兄さんが大事なものを失ったっていうことだけは、痛いほどわかる。 セリアさんのこと……すごく大切だったんだよね」
アルトは何も言わなかった。
ただミアの言葉を聞きながら、心の奥底で響く感情を感じていた。
ミアの言葉は、彼がこれまで避けようとしていた現実に優しく触れるものだった。
「でもね、兄さん。 私もずっと、兄さんが帰ってくるのを待ってた。 どんな姿でもいいから、兄さんが無事に帰ってきてくれることが、私にとって一番大事なことだったの」
ミアは少し目を伏せ、涙を浮かべながら続けた。
「兄さんがこうしてここにいてくれる。 それだけで、私にとってはすごく嬉しいんだよ。 だから……お願い。 自分を見失わないで。 セリアさんも、きっとそれを望んでるはずだから……」
その言葉に、アルトは初めて彼女の目をじっと見つめた。
ミアがこんなにも深く自分のことを思ってくれていたことを、アルトはようやく理解し始めた。
「……ミア、俺は……セリアを守れなかった。 右腕を失っただけじゃない、俺の心の一部も、あの戦いで失ってしまったんだ」
アルトの声はかすれ、彼自身がどれほどの痛みを抱えているのかが滲み出ていた。
だが、ミアはその声を受け止め、力強く言った。
「それでも、兄さんは生きてる。 私たちのところに帰ってきた。 それが、何よりも大事なことなんだよ」
ミアの言葉は、アルトにとって少しずつ心に響き始めていた。
彼はずっと、セリアを失った喪失感に囚われていたが、ミアの言葉によって、今ここにいる自分の存在の意味を見つめ直すようになった。
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それから少しずつ、アルトは自分を取り戻していくようになった。
完全に喪失感を埋めることはできなかったが、少なくともミアや家族がそばにいてくれることが、彼の支えになっていた。
彼は右腕を失ったものの、左手で少しずつ日常生活をこなすようになり、再び自分の道を歩み始めた。
夜、ミアは兄の部屋をそっと覗くと、アルトが静かに月明かりを見つめているのを見た。
彼の表情には、以前のような絶望感はなく、どこか落ち着いた決意が浮かんでいた。
「兄さん、大丈夫?」
ミアが小声で声をかけると、アルトは微笑んで頷いた。
「ありがとう、ミア。 お前がいなかったら、俺はここまで立ち直れなかったかもしれない」
アルトの言葉に、ミアは嬉しそうに微笑んだ。
彼はまだ完全に癒されたわけではないが、少しずつ前に進んでいるのだと感じていた。
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そして、時間が経ち、アルトは再び故郷の中で生活を送り始めた。
セリアの喪失は今でも彼の心の奥に残っていたが、彼はそれを抱えながらも生き続ける決意を固めた。
家族が彼を支えてくれる限り、彼は前を向き続けることができる。
「セリア……俺は、まだお前を忘れてはいない。 でも、これからも生きていく。 俺を支えてくれる人たちがいるから」
アルトは静かに呟き、空を見上げた。
セリアがいた世界は遠くなってしまったが、彼女が遺してくれた力は彼の中に生き続けている。
アルトは、もう一度剣を握りしめることはできなかった。
だが、彼の心には新たな決意が宿っていた。
セリアの記憶と共に生きること――それが、彼に残された唯一の道だった。
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お読みいただきありがとうございます!
無事凱旋を果たしたアルト達が知ることのない、もしもの話。
今を生きる誰の耳にも届かない秘された話。
ハッピーエンドだけが物語の結末ではない、ということで悲しい話を……。
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