秘話3:真愛
朧月:「秘話3:真愛」を8000字で執筆してください。
第三者視点。
これはもしもの話。
セリアが受肉をした直後、セリアから告白をされ、結婚することに。
翌年には子どもも生まれ、幸せな家庭を築く。
故郷に帰るのはその後となり、子どもと三人で実家へと帰還を果たした。
☆----☆
セリアが受肉を果たしたのは、アルトと彼女が「シンドラ大陸」で長きに渡る冒険を終えた直後だった。
冒険の中で手に入れた古代のアーティファクトにより、精霊であったセリアは、物理的な体を得て人間のように振る舞うことができるようになった。
その時、アルトにとっての彼女の存在は大きく変わった。
かつては自分を支え、知恵を授ける精霊として頼りにしていたセリアが、今や触れることのできる存在となったのだ。
彼女は、ずっと自分のそばにいてくれるかけがえのない存在であり、そして何よりも人間の感覚を持つ「女性」として、彼の心に深く入り込んでいた。
セリアが実体を得たその夜、二人は焚き火のそばで並んで座っていた。
炎の揺らめきが彼女の顔を照らし、その横顔を見つめるアルトの胸には、言葉にならない感情が込み上げてきた。
「……セリア、こうして人間の体を持つようになって、どうだ? 慣れないことも多いだろう」
アルトは静かに尋ねた。
これまで霊体として存在していたセリアにとって、人間の肉体を持つことは大きな変化だった。
彼女は軽く頷きながら、微笑んだ。
「少し不思議な感じがします。 人間として触れたり、感じたりすることが、今までとはまるで違うのですから。 でも……悪くありません」
その笑顔は、どこか安らぎに満ちていた。
セリアは、自分が今こうして実体を持ち、アルトと同じ目線で世界を見られることに喜びを感じていた。
そして、もっと深い感情が彼女の中で芽生えていることに気付いていた。
「アルト、私、ずっとあなたに伝えたいことがありました」
セリアの言葉に、アルトは彼女の方を向いた。
彼女の声は静かで優しかったが、どこか決意が感じられた。
彼女はその澄んだ瞳でアルトを見つめ、彼女の胸に秘めていた感情を解き放つように話し始めた。
「私は、ずっとあなたを支えてきました。 そして、これからもあなたのそばにいたいと思っています。 それは精霊としての役割ではなく、一人の女性として――私は、あなたを愛しています」
その言葉が、静かな夜の空気を震わせた。
アルトは息を呑んだ。
セリアの告白は予想外だったが、同時に彼自身が心の奥で感じていた思いと重なっていた。
彼女はただの精霊ではなく、今や彼にとって特別な存在であり、かけがえのないパートナーだった。
「セリア……」
アルトは彼女の瞳を見つめながら、深い感情を言葉にしようとした。
しかし、その時、すべてがはっきりした。
彼はセリアに対して、ただ感謝や友情以上の感情を抱いていたのだ。
「俺も……ずっとお前が大切だった。 お前なしでは、ここまで来ることができなかったし、お前のことを誰よりも信頼してる。 でも、それだけじゃない。 俺も、お前を……愛してる」
その言葉がアルトの口から出た瞬間、セリアの瞳に喜びの涙が浮かんだ。
彼女はそっとアルトに手を伸ばし、彼の手を握った。
「アルト……ありがとう」
その瞬間、二人の間にあった全ての障壁が消え去った。
精霊としての存在が、人間としての愛情に昇華され、二人は心から結ばれた。
----
それから一年後、アルトとセリアは結婚していた。
彼らは冒険者としての生活を続けていたが、二人で新しい生活を築き、さらに新しい命を迎え入れた。
セリアは子どもを宿し、そしてその翌年、二人は可愛らしい赤ん坊を抱くこととなった。
「アルト、この子……あなたに似ているわね」
セリアは、初めての我が子を腕に抱きながら、優しく微笑んだ。
アルトもその様子を見ながら、心の奥底から溢れ出す幸福感に包まれていた。
彼にとってセリアはただの精霊だった存在が、今は家族となり、そして父親としての責任を感じる日々が始まっていた。
「そうか……俺に似てるのか。 お前がそう言うなら、きっとそうなんだろうな」
アルトは少し照れたように微笑んだ。
父親としての実感はまだ完全に掴めていなかったが、セリアと共に築く家庭は、彼にとってこの上ない喜びだった。
セリアも同じように、この幸せをかみしめていた。
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子どもが生まれてから数ヶ月が経ち、アルトはある決意を固めた。
それは、セリアと子どもを連れて故郷に帰り、家族に彼らを紹介することだった。
「セリア、そろそろ故郷に戻ってもいい頃だな。 俺の両親と妹にも、お前たちのことをちゃんと紹介したい」
アルトはセリアにそう告げた。
セリアもアルトの故郷については聞いていたが、彼が家族とどんな再会を果たすのか、そして自分たちがどう受け入れられるのか、少し不安を感じていた。
「大丈夫、アルト。 私もずっとあなたの家族に会いたかった。 きっと喜んでくれるわ」
セリアは優しく微笑みながら、アルトを安心させた。
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アルト、セリア、そして子どもは故郷へと向かった。
彼の心の中には、家族との再会に対する期待と少しの緊張感が入り混じっていた。
長い間、離れていた故郷。
そこで待っている家族はどう思うだろうか――そんな不安が彼を襲う一方で、成長し、家庭を持った自分を誇りに思ってもらいたいという思いが強かった。
故郷の街が視界に入ってきた時、アルトの胸は高鳴った。
懐かしい道、建物、人々――すべてが変わらないままだった。
実家の前に立った時、アルトは少し息を整えた。
セリアは彼の隣で微笑みながら、子どもを抱いていた。
「行こう、セリア」
アルトは決意を込めてドアをノックした。
しばらくして、ドアが開き、母親のリナが姿を現した。
「アルト……!」
リナは目を見開き、驚きと喜びが一気に溢れ出した。
彼女はすぐにアルトを抱きしめ、涙を浮かべながらその無事を確認した。
「本当に無事で帰ってきてくれて……お父さんもずっと待っていたのよ」
その言葉にアルトは微笑み返し、母親の腕の中にしばらく身を委ねた。
そして、リナはアルトの隣に立つセリアと、その腕の中の赤ん坊に気付いた。
「あら……この方は?」
リナの視線がセリアに向けられた。
アルトは少し照れながら、彼女を紹介した。
「母さん、この人はセリア。 俺の……妻で、そしてこの子は俺たちの子どもだ」
その言葉にリナは一瞬、驚いた表情を浮かべたが、すぐに温かい笑顔に変わった。
「まぁ……お帰りなさい、セリアさん。 アルトを支えてくれてありがとうね。 そして……まぁ、可愛い赤ちゃんね!」
リナはセリアを優しく抱きしめ、そしてその腕に抱かれている赤ん坊を見て微笑んだ。
その光景に、アルトは心からの安堵と幸せを感じた。
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その後、アルトとセリアはアルトの両親、そして妹のミアとも再会を果たした。
ミアも最初は驚いた様子だったが、すぐに笑顔を浮かべ、兄の成長と新しい家族を歓迎してくれた。
「兄さん、すごいね……ちゃんと家族を持って、立派になったんだね」
ミアはそう言いながら、赤ん坊の顔を覗き込んだ。
彼女の表情にも、心からの喜びが溢れていた。
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こうして、アルトは妻セリア、子どもと共に故郷へと凱旋を果たした。
長い冒険の末に見つけた真の愛と、家族としての絆が、彼の人生を豊かにしていった。
そして、アルトとセリア、彼らの子どもは、故郷の温かい家族と共に幸せな時間を過ごし続けていくのだった。
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お読みいただきありがとうございます!
無事凱旋を果たしたアルト達が知ることのない、もしもの話。
今を生きる誰の耳にも届かない秘された話。
セリア推しとしてはこのエンドが一番すこ。
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