続話4:手紙

 朧月:「続話4:手紙」を6000字以内で執筆してください。

 妹のミア視点。

 アルトが旅立ってからしばらく経ったある日、アルトから手紙が来た。

 この手紙は定期的に送ってくるので、毎回楽しみにしている。

 どうやら今は海の向こうに居るらしい。

 今はパーティを組んでいるらしいが、メンバーに女の子が居ることを知り動揺するが、元気に頑張っている姿を思い浮かべて微笑むのだった。



 ☆----☆


 アルトが旅立ってから、しばらくの時間が過ぎた。

 ミアは、家の中が静かになったことを少しだけ寂しく感じていた。

 兄が家を出て冒険者として世界に飛び込んでいったという事実は、誇らしくもあり、どこかぽっかりとした穴が心に空いたような気がしていた。


 そんな彼女の楽しみの一つが、定期的にアルトから届く手紙だった。

 アルトは旅先での出来事や彼の成長、冒険の様子を手紙に書いて、家族に送り届けていた。

 毎回、彼からの手紙を楽しみにしているミアは、手紙が届くたびに胸を弾ませていた。


「またお兄ちゃんから手紙が来たわよ、ミア!」


 母親が声をかけてくれると、ミアはすぐに手を伸ばした。

 まるで宝物を手に取るかのように慎重に封筒を受け取り、心を躍らせながら封を切った。



 ----


 ミア、元気にしてるか?

 こっちは相変わらず、色んな冒険をしてるよ。

 今は海の向こうにいるんだ。

 船に乗るのは初めてだったけど、最初は揺れてちょっと気持ち悪かったな。

 でも、船の上から見る海はすごく綺麗で、ミアにもいつか見せてやりたいと思ったよ。


 それから、最近はパーティを組んで一緒に冒険をしているんだ。

 色んな人がいるんだけど、特に仲が良いのは、リサっていう女の子とレオンっていう男の子。

 リサは魔法使いで、僕より少し年上だけど、すごくしっかりしてて頼りになるんだ。

 レオンは剣士で、頼もしいけどちょっとお調子者かな。

 でも、二人ともいい仲間だよ。


 パーティを組んでからは、色んな依頼をこなしてる。

 最近は少し危ない依頼もあったけど、無事に乗り越えられた。

 やっぱり、一人よりも仲間がいると心強いね。


 ミアも、何か新しいことに挑戦してるのかな?

 僕が帰る頃には、ミアももっと成長してるだろうし、楽しみにしてるよ。

 母さんにも父さんにもよろしく伝えておいてね。


 それじゃ、また手紙を書くよ。

 次はもっと楽しい話を届けられるといいな。

 アルトより



 ----


「リサって……女の子?」


 ミアは手紙の中にあった「リサ」という名前に一瞬で反応した。

 アルトがパーティを組んでいることは知っていたが、まさかそのメンバーに女の子がいるとは思っていなかった。


 胸がざわつく。

 無意識に、手に持っていた手紙を強く握りしめていた。

 アルトが一緒に冒険をしているその「リサ」という女性の存在が、ミアの中で何とも言えない感情を呼び起こしていた。


「お兄ちゃん、女の子と一緒に……」


 ミアは小さな声で呟いた。

 旅をしている間に出会った仲間なのだろうし、冒険者としてパーティを組むことは当たり前のことだと理解している。

 それでも、アルトが他の女の子と一緒にいるという事実が、ミアの胸を締め付けるような感覚を与えていた。


「リサって、どんな子なんだろう……」


 頭の中に浮かぶのは、手紙に書かれていた「しっかりしてて頼りになる」という言葉だ。

 きっと、お兄ちゃんが信頼している人なんだろう。

 ミアはそう自分に言い聞かせようとしたが、心のどこかで嫉妬心が芽生えていることに気づいてしまう。


「……バカみたい」


 ミアは苦笑いを浮かべながら、自分の胸の中にあるモヤモヤした感情を押し込めた。

 兄に対する特別な思いは、ずっと胸の奥にしまっておくと決めていた。

 だからこそ、この感情はただの嫉妬ではないかと、そう自分を戒めた。


「お兄ちゃんが元気にしてるなら、それでいいんだもん」


 そう言い聞かせるように、ミアはもう一度手紙を見返した。

 アルトが海の向こうにいるということ、それから新しい仲間と一緒に冒険をしていること――それらを知ることで、ミアは少しだけ安心した。


「海か……いいなぁ、お兄ちゃん」


 ミアは目を閉じ、アルトが手紙に書いていた「綺麗な海」を想像してみた。

 波が輝く海、広い空、そしてその景色を眺めるアルトの姿が、頭の中に浮かんでくる。

 アルトがどんな気持ちでその景色を見ていたのかを思うと、彼がその瞬間に自分を思い出してくれたことが嬉しかった。


「いつか、私も……お兄ちゃんと一緒に旅に出られるかな」


 ミアは小さく呟いた。

 兄が冒険者として成長していく姿を見守りたいし、いつか自分も彼のように強くなりたいという思いが芽生えていた。

 それでも、今はまだその時ではない。

 自分にはもっと学ぶべきことがたくさんあるし、何よりも今はお兄ちゃんの無事を祈ることが大切だ。


「リサっていう子も……いい子なんだよね、きっと」


 ミアはそう自分に言い聞かせるように呟いた。

 アルトが信頼している仲間なら、自分もその子を信じてみようと思った。

 心の中に生まれた複雑な感情は消えないが、それでもアルトが笑顔で元気に頑張っていることが何よりも大切なのだと感じた。


「お兄ちゃん、私も頑張るからね」


 ミアはそう言って、手紙をそっと胸に抱いた。

 手紙の中にはアルトの成長と、彼の温かさが詰まっている。

 それを感じることで、ミアもまた少しだけ前に進める気がした。

 兄が遠く離れた場所で頑張っているのなら、自分も今できることを頑張ろう――そんな気持ちが彼女の胸に灯った。


 ミアはそっと手紙をしまい、窓の外を見上げた。

 広がる空の向こうに、きっと今もアルトがいる。

 彼がこれからも無事に、そして元気に冒険を続けられることを祈りながら、ミアは小さく微笑んだ。


「また手紙、送ってね。 待ってるから……お兄ちゃん」



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 便りがないのは元気な証拠。

 でもやっぱり、手紙が来るのは嬉しいものですよね。

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