続話2:母娘
朧月:「続話2:母娘」を6000字以内で執筆してください。
母親視点。
アルトが旅立ってからしばく経ったある日、娘のミアと二人でお茶を飲んでいた。
唐突だが、ミアに「あなた、お兄ちゃんに恋してるでしょ」と質問をした。
きちんと隠しているつもりだったミアは動揺するが、観念したのかぎこちなく認めた。
母親は否定することなく、その気持ちは大事にしなさいね、とミアをそっと抱き寄せて頭を撫でるのであった。
☆----☆
アルトが家を旅立ってから、しばらくの時間が経った。
家の中はどこか静かで、空気が少し軽くなったような気さえする。
息子の不在が寂しいと感じつつも、リナは息子の成長と旅立ちを誇らしく思っていた。
この日、リナは久しぶりに娘のミアと二人きりの午後を過ごしていた。
テーブルには淹れたてのお茶と、軽いお菓子が並んでいる。
ミアは、アルトがいなくなってからも、以前と変わらずに明るく振る舞っているが、どこか寂しさを抱えていることを、リナは母親として感じ取っていた。
「ミア、どう? 最近は何か面白いことがあったかしら?」
リナは微笑みながら、娘に話しかけた。
ミアはお茶を一口飲みながら、少し考え込んだ。
「うーん、特にこれといって……。 お兄ちゃんがいなくなって、家の中が静かになっちゃったから、少し退屈かも」
「そうね。 アルトが旅立ってから、家もなんだか静かになっちゃったわね」
リナは穏やかに頷いた。
リナにとって、この時間は大切なものだった。
息子がいなくなってから、娘との時間が増えたことで、彼女の心の動きや感情がよく見えるようになった。
そして、リナにはある疑念がずっと心の片隅にあった。
それは、娘が兄に対して抱いている感情についてだ。
このタイミングなら――リナは心の中でそう決意し、唐突に切り出した。
「ねえ、ミア……あなた、お兄ちゃんに恋してるでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間、ミアはお茶を飲んでいた手を止め、驚いた表情で母親を見つめた。
いつも落ち着いているミアの顔が、一瞬にして赤くなり、動揺が見て取れた。
「えっ……え? な、何を言ってるの? お母さん……そんな、ありえないでしょ……お兄ちゃんに……」
ミアは慌てて否定しようとしたが、言葉がうまく続かず、声が震えていた。
彼女がきちんと隠していたつもりだった感情を、まるで簡単に見透かされたように感じたのだ。
リナは微笑みながら、ミアの反応を静かに見守っていた。
娘がどうやってこの質問に答えるのかを待っている。
無理に追及するつもりはないが、母親として、娘が抱いている本当の感情に向き合ってほしいと思っていた。
「……そんなこと……ないよ」
ミアは視線を逸らしながら、再び否定しようとしたが、その声には自信が感じられなかった。
お兄ちゃんに対する感情を隠そうとする自分自身が、もうそれを隠し切れないことに気づいていた。
リナは穏やかに声をかけた。
「大丈夫よ、ミア。 あなたの気持ちを誰も責めたりしないわ」
ミアはその言葉を聞いて、沈黙したまま手元のお茶を見つめていた。
心の中でずっと秘めていた感情が、いま露わにされてしまった。
そして、その感情を否定することができない自分に、戸惑いが押し寄せていた。
「……お母さん、どうしてそう思ったの?」
ミアはしばらくの間黙っていたが、意を決して尋ねた。
リナは穏やかに微笑んだまま、答えた。
「あなた、アルトのことをすごく大切にしているのがよく分かるわ。 最近は特にね。 彼が旅立つ前の様子を見ていれば、誰だって気づくと思うわよ」
「そんな……私、隠してたつもりだったのに……」
ミアは唇を噛みしめ、顔を伏せた。
彼女がずっと胸の奥にしまってきた感情が、母親に見抜かれていたことに戸惑いながらも、どこか安心している自分もいた。
リナはそっと手を伸ばし、娘の肩に手を置いた。
「隠す必要なんてないわ、ミア。 恋をすることは、何も悪いことじゃないのよ」
その言葉に、ミアはハッとした。
ずっと否定しようとしてきた自分の感情を、母親が受け入れてくれることに驚いたのだ。
兄に対する特別な感情は、ずっと抑え込んでいたものだが、母親の言葉でそれが少し軽くなったように感じた。
「……私……お兄ちゃんが好き……なのかも」
ミアは、ぎこちなく、でもはっきりと認めるように言った。
その言葉が口をついた瞬間、胸の奥に溜め込んでいたものが少しだけ解放されたような気がした。
「そう……それでいいのよ」
リナは優しく微笑みながら、ミアをそっと抱き寄せた。
彼女の頭を優しく撫で、安心させるようにゆっくりと話しかけた。
「あなたがどんな気持ちを抱いても、それは大事な感情だから、大切にしなさい」
ミアは母親の温かい胸に顔を埋め、少しずつ心が落ち着いていくのを感じた。
母親にこうして自分の気持ちを打ち明けることができたことで、ずっと心の中に抱えていた秘密が少しだけ軽くなったように思えた。
「でも……この気持ち、どうすればいいの?」
ミアは小さな声で呟いた。
兄に対する恋心を自覚してしまった今、その気持ちをどう扱えばいいのかがわからなかった。
「それはあなたが決めることよ、ミア」
リナは優しく言葉を続けた。
「自分の気持ちを大切にしながら、時間をかけて考えればいいわ。 焦る必要なんてないのよ」
ミアは母親の言葉に耳を傾けながら、心の中でその言葉を反芻した。
焦る必要はない――それは、今の自分にとって何よりも必要な言葉だった。
「うん……ありがとう、お母さん」
ミアは小さく頷きながら、母親の温かさを感じていた。
自分の気持ちを否定されることなく、受け入れてもらえたことで、少しだけ前を向けるような気がした。
リナはそっとミアの背中を撫でながら、娘の成長を感じていた。
兄への恋心を自覚し始めたミアが、これからどんな道を歩むのかはわからない。
それでも、母親として彼女の気持ちを尊重し、見守り続けることが自分の役目だと感じていた。
「あなたは素直で優しい子よ、ミア。 だから、その気持ちを大切にしてね。 何があっても、お母さんはあなたを応援しているから」
ミアはその言葉に、胸の中で温かい感情が広がるのを感じた。
兄への想いがどういう形になるかはまだわからない。
それでも、今はこの気持ちを大切にしながら、自分なりに向き合っていこうと決意した。
「ありがとう……お母さん」
ミアはそっと母親に抱きつき、心の中でそっと決意を新たにした。
この気持ちは、まだ自分だけの秘密にしておこう。
でも、いつか――その時が来たら、この想いをどうするべきか考えようと。
リナはそんな娘の小さな成長を感じながら、ただ静かに彼女の頭を撫で続けた。
☆----☆
お読みいただきありがとうございます!
母親ってエスパーなんですよ、マジで、知りませんでしたか?
なんで分かるの? ってこと普通に言ってくるんで、けっこうビビるんですよねw
昔失恋した日に「なにかあったんでしょ?」って言われて、失恋したことは口にしなかったのにサラッと言い当てられたんですよ。
母親以外は一切気付いてなくて、みんな「え?」って顔してたのが忘れられないw
さすが、赤ちゃんの頃から見守り続けてくれているだけはありますよね。
母親以上に子どもの変化に敏感な存在は居ない! 間違いない!
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