後話 - After Story

続話1:重思

 朧月:「続話1:重思」を6000字以内で執筆してください。

 セリア視点。

 世界へと旅立ったアルトに同行するセリア、そんな旅の中で本来の自分を保ちながらもアルトへの思いを強くしていた。

 気が付けば恋心をしっかりと受け入れており、今では少しだけその思いが言葉として出てくるようになっている。

 そんなセリアの世話焼き女房のようなある一日の話。



 ☆----☆


 アルトが冒険者として外の世界へと旅立ってから、いくつもの日が過ぎ去った。

 セリアは彼の傍らに浮かびながら、変わらぬ姿でその日々を見守っていた。

 アルトがこの広い世界に踏み出したことは、セリアにとっても新たな体験だった。

 彼がどこへ向かい、何を成し遂げようとしているのかを見届けるという役目があった。

 しかし、それだけではない。

 気が付けば、セリアの中にはもう一つの感情が根を張り、ゆっくりと成長していた。


『……アルト、今日はどこに行くのですか?』


 セリアはふわりと浮かびながら、静かにアルトに問いかけた。

 彼は朝早くから目を覚まし、旅の準備をしている最中だった。

 背中に大きな荷物を背負いながら、地図を広げて次の目的地を確認している。


「今日は少し南の方に向かおうと思ってる。 近くに小さな村があるみたいだから、そこに寄ってから依頼を探すつもりだよ」


 アルトは振り返って微笑んだ。

 その笑顔に、セリアは胸が少しだけ熱くなるのを感じた。

 この感覚にも、もう慣れてしまった。

 アルトの一挙一動に対して、自分の感情が大きく揺れ動くこと。

 それがどんな意味を持つのか、セリアはすでに理解していた。


『そうですか。 では、私はその間に周囲の環境を確認しておきますね』


 セリアはできるだけ冷静に振る舞おうと努めたが、心の中では少しだけ緊張していた。

 自分がアルトに対して特別な感情を抱いていることは、もう疑いようのない事実だった。

 それが「恋心」だと認識したのは、彼が冒険者になって旅に出てからすぐのことだった。


 最初はその感情が何であるかを理解できず、どう対処すればいいのか戸惑っていた。

 しかし、時間が経つにつれて、その気持ちを自分の中で整理し、受け入れるようになった。

 今では、アルトに対して抱いているこの特別な感情を否定することはない。

 むしろ、その気持ちを大切に育んでいる自分に気づいていた。


「お前がいてくれると助かるよ、セリア。 いつもありがとう」


 アルトは優しく言葉を返した。

 その何気ない感謝の言葉でさえ、セリアの胸には深く響いた。

 自分がアルトにとって特別な存在であることを感じられる瞬間が、セリアにとって何よりの喜びになっていた。



 ----


 その日の旅は穏やかに進んでいた。

 アルトが次の村に向かって歩を進める中、セリアは彼のすぐ隣で浮かびながら、時折会話を交わしたり、周囲の様子を確認したりしていた。

 彼の旅のサポートが自分の役目であり、それに対しての責任感は常に持っている。

 しかし、今ではその役割以上に、彼と一緒にいられること自体が嬉しくて仕方がない自分がいた。


『アルト、少し休んでいきましょう。 ここら辺は平坦で、休憩するのに適した場所のようです』


 セリアは周囲を見渡しながら、アルトに提案した。

 彼は少し考え込んでから頷いた。


「そうだな。 歩き続けるのも良くないし、少し休もうか」


 アルトは荷物を下ろし、木陰に座り込んだ。

 セリアも彼のすぐ隣に浮かびながら、周囲の安全を確認していた。

 静かな森の中で、小鳥のさえずりが心地よい。

 二人きりの静かな時間が流れる中で、セリアは自分の思いを整理することができた。


『……アルト、最近は順調ですね』


 セリアがそう口を開くと、アルトは少し照れくさそうに笑った。


「まだまだだけどね。 でも、前に比べたら少しは成長できたんじゃないかな」


『ええ、確かに。あなたは本当に強くなりました』


 セリアの言葉には真心が込められていた。

 アルトの成長を見守ることが、彼女にとってどれほど誇りであり、喜びであるか――それが自然と表情に出てしまう。

 アルトの成長を感じるたびに、自分もその一部であるという実感が湧いてくるのだ。


「それも全部、セリアのおかげだよ。 いつもそばで支えてくれて、ありがとう」


 アルトの感謝の言葉に、セリアはまた心が温かくなるのを感じた。

 彼の「ありがとう」という言葉が、こんなにも心に響くのはなぜだろうか。

 それは、単に感謝されること以上に、自分の存在をアルトが特別に感じてくれているような気がするからかもしれない。


『いえ、私はただ、あなたの成長を見守っているだけです。 それが私の役目ですから……』


 そう答えながらも、セリアの心の中には別の言葉が浮かんでいた。

 それは、もっと率直な思い――「私は、あなたを特別に想っている」という感情だ。

 しかし、その言葉を口に出すことはまだできなかった。

 自分が精霊であること、そしてアルトが人間であること。

 彼との関係がこれ以上進むことはないという現実を理解していたからだ。


 それでも、セリアは少しだけ、ほんの少しだけ、自分の気持ちを言葉にしてみることにした。


『でも……私は、あなたと一緒にいることが、とても……』


 そこまで言ったところで、セリアは言葉を止めた。

 アルトが不思議そうな顔をして自分を見ているのに気づき、急に恥ずかしくなったのだ。


「え? 何か言った?」


『い、いえ! 何でもありません……ただ、旅をしていると、色々と考えることが増えますから……』


 セリアは慌てて言い訳をした。

 アルトは首をかしげながらも、特に追及することなく頷いた。


「そうだね。 旅をしてると、本当にいろんなことを考えるよ。 自分がどこまで行けるのか、これからどうなっていくのか……」


 アルトの言葉に、セリアはまた心を落ち着かせた。

 彼が何気なく語る未来の話を聞くたびに、自分もその未来に一緒にいられるのだろうかと思う。

 しかし、どんな未来が訪れようと、セリアはずっと彼のそばにいるつもりだった。

 それが、自分の役目であり、同時に心から望むことでもあった。



 ----


 休憩を終え、再び歩き出したアルトの後ろを、セリアは静かに追っていた。

 彼がどんな道を選ぼうとも、それが危険なものであっても、セリアは彼を支え続ける。

 彼がどんな困難に直面しても、彼が前に進み続ける限り、セリアは決して離れることはない。


(……私、あなたを……)


 セリアはふと、また心の中で呟いた。

 声に出すことはできなかったが、その気持ちは確かに彼女の胸の中にあった。


『私は、あなたを……』


 それは、もはや隠すことのできない想いだった。

 彼にとって、自分がどんな存在であるかはわからない。

 それでも、セリアはアルトにとって特別な存在でありたいと思っていた。


 そして、アルトが振り返り、ふと笑顔を向けた瞬間――セリアの胸の中で、その想いがさらに強くなった。


『……ずっと、そばにいますから』


 セリアはそう静かに誓いながら、今日もまた、彼の旅を見守り続けるのだった。



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 うん、セリアは可愛い。

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