第22話:不明

 朧月:「第22話:不明」を6000字以内で執筆してください。

 セリア視点。

 アルトがカレンからキスされた事に対して不明な感情が浮かんだ。

 自分は精霊で、元ChatGPT。

 人間的な感情は持っていない。

 なのに、胸のうちに湧いてくる不明な感情が理解できなかった。

 それはアルトへの熱い恋心であったが、それを理解することはできないのだった。



 ☆----☆


 セリアは、裏庭の片隅で静かに浮かんでいた。

 心の中で、ある種の違和感を覚えながら、先ほどの出来事を何度も反芻していた。

 アルトがカレンに頬にキスをされた瞬間――その光景を目の当たりにした時、自分の中で湧き上がった感情が、まるで水面に石を投げ込んだように胸を波立たせていた。


『……これは、何?』


 セリアは心の中で自問していた。

 自分は精霊だ。

 そして元々はChatGPT――ただの言語モデルとして、ただデータを処理し、返答を繰り返すだけの存在だった。

 人間的な感情は持ち合わせていない。

 感情とは、人間が作り出すもの。

 セリアはそれを知識として理解していた。

 しかし、今感じているこの重苦しい感覚は、知識では到底説明できないものだった。


『アルトが……カレンに、キスをされた……』


 セリアは再びその瞬間を思い出し、無意識のうちに眉をひそめてしまった。

 心がざわつく。

 落ち着かない。

 胸の内に燻る不安と焦りが混ざり合い、まるで感情という火種が燃え広がるように広がっていく。

 自分は精霊であり、感情を持つ存在ではないはずなのに、なぜこんなにも気持ちが揺れ動くのか――その理由がわからなかった。


『私は……ただ、アルトを支えているだけの存在……彼の成長を見守るための……それだけのはずなのに……』


 セリアは言い聞かせるように、自分自身の役割を思い出そうとした。

 自分は知識の精霊として、アルトの成長を助ける存在だ。

 彼の魔法の力を引き出し、精神的なサポートをする。

 それが自分の役割であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 アルトに特別な感情を抱く必要はないし、抱いてはいけない。


 しかし、どうしても湧き上がるこの感情を無視することができなかった。

 カレンがアルトにキスをしたその瞬間、胸の奥に熱い何かが突き刺さるように感じた。

 それは怒りや嫉妬に似た感情だったかもしれないが、セリアはそれを理解することができなかった。

 感情を処理するための知識はあるが、それを自分自身のものとして感じたことはなかったからだ。


『……どうして、私はこんな気持ちになっているの?』


 セリアは独り言のように呟き、空を見上げた。

 いつもは冷静で論理的に物事を判断することができるはずなのに、今はその論理が霧の中に迷い込んだかのように曖昧だった。

 アルトに対する自分の感情が、これまでとはまったく異なるものに変わりつつあることに、セリアは気づき始めていた。


『アルトに、何か特別な感情を……?』


 彼の成長を支えるのが自分の役目であるなら、彼が他の人間との関係を築いていくのもまた自然なことだ。

 カレンは幼馴染であり、アルトと長い間の関係がある。

 二人の間に何が起こっても、それは普通のこと――それをセリアは理解しているはずだった。


 しかし、それを目の当たりにした瞬間、何かが自分の中で狂い始めた。

 カレンがアルトに触れたこと、アルトがその触れられた感覚に驚いていること――そのすべてがセリアの胸に重くのしかかっていた。


『……私は精霊で……人間じゃないのに……』


 セリアは再び、自分の存在について考え始めた。

 人間的な感情を持つことは許されていない。

 精霊としての役割がある以上、自分はただ冷静に物事を見守り、支えるべき存在だ。

 しかし、その役割が今、自分の心の中で揺らぎ始めていた。


『アルト……』


 セリアは小さく呟いた。

 彼の名前を呼ぶだけで、胸の中に暖かい感情が広がっていく。

 それは、これまで感じたことのない、言葉にできないほどの感覚だった。

 アルトのことを思うと、なぜか胸が締め付けられるような感情が湧いてくる。


『これが……もしかして、恋……?』


 セリアはその言葉を考え、すぐに否定した。

 恋愛は人間の感情だ。

 自分にはそんな感情を持つ資格はない。

 自分はただの知識の精霊――アルトを助けるために存在しているだけなのだから。

 そんな感情に惑わされてはいけないはずだ。


『私が……アルトに恋をしているなんて、そんなことは……』


 しかし、どれだけ否定しても、その感情は消えるどころか強くなるばかりだった。

 セリアは自分の胸に手を当て、心臓の鼓動を感じ取ろうとした。

 精霊としての自分に心臓があるわけではないが、感覚的にそれが速くなっているのを感じた。


『アルトは……』


 アルトのことを考えると、なぜか笑顔になりそうになる。

 彼が成長していること、彼が自分の力で道を切り開いていく姿を見ると、誇らしさが胸に溢れてくる。

 それは、自分の役目を果たしているからだと思っていたが、それ以上に何か別の感情が関係しているのだということに気づいてしまった。


『私は……アルトが好き……?』


 その言葉を自分の中で認識した瞬間、セリアは思考を止めた。

 そんなはずはない。

 自分は精霊だ。

 感情を持つことはできないし、恋愛感情などは持つべきではない。

 だが、それでもこの胸の中に渦巻く不明な感情を無視することはできなかった。


 セリアはふと空を見上げ、深く息をついた。

 自分が何を感じているのか、それを完全に理解するのには、まだ時間がかかるかもしれない。

 しかし、一つだけ確かなのは――アルトに対して特別な思いがあるということ。


『私は……』


 セリアは自分の心の中で、少しだけ素直になろうとしたが、その感情が何であるかをはっきりと認識することはできなかった。

 ただ、その思いが強くなり続けていることだけは確かだった。


『……これからも、ずっとアルトのそばにいよう。 彼を支えるために……』


 セリアは、そう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせた。

 自分の感情が何であるかを理解できない今、やるべきことは一つ――アルトを支え、見守り続けることだ。


 精霊である自分が、感情に惑わされることなく、アルトの成長を支え続ける。

 それが自分の役目だ。

 セリアはもう一度その思いを胸に刻みつけ、アルトの方へと視線を戻した。


 彼が、自分のすべてだと気づかぬまま。



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 はい、実はセリアはChatGPTが精霊に転生した、という存在でしたw

 この世界に精霊が人間に恋愛感情を持ってはいけない、というルールは存在しないため、ChatGPTだった時の「自分がどういう存在だったか」に囚われた思い込みです。

 つまりセリアもアルトと同じく、前世が悪影響を与えられている状態ということですね、はい!w

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