第18話:後悔

 朧月:「第18話:後悔」を4000字以内で執筆してください。

 この話は妹視点になります。

 一人部屋に戻ったミアは、布団にくるまって静かに後悔する。



 ☆----☆


 ミアは自室に戻ると、そっと扉を閉め、ベッドに腰を下ろした。

 心の中は重く、頭がぐるぐると回っていた。

 父親に諭されたこと、カレンが話してくれたこと、そして何よりもアルトが自分を守るために魔法を使ったこと……すべてが頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。


「お兄ちゃんが……私を守った……」


 ミアはベッドに倒れ込むようにして、布団にくるまった。

 胸が痛んだ。

 アルトの姿が頭から離れない。

 いつも頼りなく、何もできないと思っていた兄が、あの場で自分を助けてくれた。

 それなのに、自分はその瞬間、兄を理解しようともしなかった。


「あの時……」


 ジークが自分の腕を掴んだ瞬間、ミアは怖くてどうしようもなかった。

 何をされるのか、どうなるのか、恐怖で頭が真っ白になっていた。

 それでも、心のどこかで「誰か助けて」と思っていた。

 誰かが来てくれるはずだと――そして、それが実際にアルトだった。


「でも、私は……」


 アルトが現れて、ジークを追い払ってくれた瞬間、ミアはほっとした。

 だがその時、彼がどれだけの覚悟で助けに来たのか、どれだけの力を振り絞って魔法を使ったのか、まったく考えていなかった。

 ただ、兄が倒れたのを見て、また「何もできないお兄ちゃん」という先入観で見てしまったのだ。


「お兄ちゃん……」


 ミアは布団の中で小さく呟いた。

 アルトはいつも静かで、何も言わず、自分の影に隠れるようにして生きていた。

 そんな兄を、ミアはずっと見下してきた。

 自分の方が強くて、自分の方がしっかりしていると思っていた。

 でも、今日の出来事が、その考えを根本から揺さぶっていた。


「お兄ちゃんは……あの時、本当に私を守ってくれたんだ……」


 その事実が、ミアの胸に重くのしかかる。

 今まで兄に対して、どれだけ冷たい態度を取ってきたのか。

 どれだけ見下し、どれだけ軽視してきたのか。

 自分の心の中で兄を「無能」と決めつけ、真剣に向き合うことを避けてきた。


「どうして……私は、あんなことを……」


 ミアは目を閉じ、涙が静かにこぼれ落ちるのを感じた。

 自分が兄に対して投げかけた冷たい言葉や、無関心な態度が胸に突き刺さるように蘇ってくる。

 アルトは、いつも自分のそばにいた。

 何も言わず、ただ静かに自分の存在を見守ってくれていた。

 それを、自分はただ当たり前のように受け入れていた。


「ごめんね……お兄ちゃん……」


 ミアの声は震えていた。

 彼がどれだけ努力してきたのかを、今になってようやく理解し始めた。

 彼がどれほどの決意で、今日自分たちを守ったのか。

 その覚悟を無視し、また無力だと思い込んでしまった自分が、今はひどく情けなく感じた。


「お兄ちゃん……ずっと頑張ってたんだよね……」


 ミアは布団の中で小さく震えながら、アルトのことを思い返していた。

 彼が魔法の練習をしていたことを知ってはいたが、それがどれほどの努力を伴っていたのか、今までは気にも留めなかった。

 自分の中で兄はずっと「変わらない存在」だったからだ。


 でも、今日の彼は違った。

 彼は自分たちを守るために魔法を使い、力を振り絞ってジークを追い払った。

 そして、その代償として倒れてしまった。


「私は……ずっと、お兄ちゃんを見ていなかった……」


 ミアは、アルトが自分を守るためにどれだけの覚悟を持っていたのかを考えるたびに、胸が締め付けられる思いだった。

 自分の兄を、もっとしっかり見ていれば、彼がどれだけ努力していたのか、どれだけ成長していたのか、もっと早く気づけたはずだ。


「もう、あんなことは……しない……」


 ミアは心の中で誓った。

 これからは兄をしっかり見守る。

 彼の努力や成長をちゃんと認めて、彼に対して感謝の気持ちを持つ。

 もう二度と、兄を無視したり、軽んじたりしないと決意した。


「お兄ちゃん……本当にごめんね……」


 涙が止まらなかった。

 布団に顔を埋めて、静かに声を押し殺しながら泣いた。

 後悔の波が何度も押し寄せ、彼に謝りたい気持ちが胸の中で膨らんでいった。



 ----


 ミアは泣き疲れた後、静かに顔を上げた。

 心の中はまだ整理できていないが、それでも一つだけ明確に感じていることがあった。

 自分は兄を見守らなければならない。

 今までできなかった分、これからはその役目を果たすべきだ。


「明日、ちゃんと謝ろう……」


 ミアは小さな声で呟き、涙を拭った。

 アルトに対して謝るのは怖い。

 でも、もう逃げるわけにはいかない。

 彼がどれだけ頑張ってきたかを知ってしまった以上、見て見ぬふりはできない。


「お兄ちゃん……ありがとう……」


 そう心の中で呟きながら、ミアは静かに目を閉じた。

 明日がどんな日になるかはわからないが、彼女は今までとは違う自分で兄に向き合うと決めた。

 そして、その決意を胸に抱きながら、少しずつ眠りに落ちていった。



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 アルトが魔法の練習してたの知ってたんかワレェ!!!!

 知ってて冷たい態度取ってたとか、性根腐りすぎやろwww


 アルトが倒れたの見て「何もできないお兄ちゃん」って目で見てたとか怖!

 あの状況でどうしてそういう気持ちで居られたんか理解できないわ……

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