第19話:謝罪

 朧月:「第19話:謝罪」を6000字以内で執筆してください。

 アルト視点に戻ります。

 前半は朝食の時に妹から謝罪される。

 その後二人で裏庭に行き、妹はアルトの特訓を見学し、努力している姿をしっかりと認識する。

 特訓後、来客があり母親が応対すると、それはジークとジークの両親だった。

 アルトはビクビクとしながらも、三人から謝罪される。



 ☆----☆


 朝日が昇り始め、アルトはゆっくりと目を覚ました。

 昨日の疲れがまだ体に残っているのを感じたが、それでもいつもの日常に戻ったという安心感があった。

 倒れてしまったことで心配をかけたのはわかっているが、家族の顔を見てほっとした。


 ベッドから起き上がり、朝食の準備が進められている台所に向かった。

 キッチンでは母親が朝食を整えていて、父親もすでにテーブルについている。

 アルトが席につくと、妹のミアも少し遅れて姿を見せた。


「おはよう……」


 ミアの声にはどこか戸惑いが感じられた。

 彼女の表情はいつもと少し違っていて、どこか緊張した様子が見て取れた。

 アルトは何か言おうとしたが、妹が何を考えているのかわからず、ただ黙って朝食を待つことにした。


 家族全員が揃い、いつものように朝食が始まった。

 母親が温かいスープをテーブルに置き、家族全員がそれぞれの皿に手を伸ばした。

 しかし、ミアがなかなか箸を動かさず、アルトの方にちらちらと視線を送っているのに気づいた。


「お兄ちゃん……」


 その声に、アルトは少し驚いた。

 妹が自分に話しかけてくること自体が珍しい。

 そして、いつも強気なミアの声に、今は少し戸惑いと不安が含まれていることに気づいた。


「何?」


 アルトは静かに答えた。

 妹が何を言おうとしているのか、想像がつかない。

 昨日の出来事を思い出すと、ミアがどんな気持ちでいるのかもわからなかった。


 ミアは少しうつむき、しばらくの間黙っていたが、やがて小さな声で言葉を続けた。


「……昨日のこと、ありがとう。 それと……ごめんなさい」


 その言葉に、アルトは驚きを隠せなかった。

 ミアが謝るなんて、想像もしていなかったからだ。

 彼女はいつも自信に満ちていて、他人に対して謝ることは滅多にない。

 アルトは戸惑いながらも、彼女の言葉に耳を傾けた。


「昨日、私を助けてくれてありがとう。 それから……今まで、お兄ちゃんのことをちゃんと見ていなかったこと、ごめんなさい」


 ミアの声は震えていた。

 彼女の言葉は真剣で、決して軽いものではなかった。

 アルトはその言葉を受け取ると、胸の奥が温かくなるのを感じた。

 妹が自分に対して感謝し、謝罪していることが、今までになかったほど特別に感じられた。


「ミア……そんな、謝らなくてもいいよ」


 アルトは静かに言葉を返した。

 自分が助けるのは当然だと思っていたし、妹に対して謝罪を受けるなんて思ってもいなかった。


 しかし、ミアは強く首を振った。


「いいえ、私はお兄ちゃんのことを……ずっと見下してたの。 何もできないって思ってた。 でも、昨日……お兄ちゃんが私を守ってくれた時、初めてちゃんと見たんだ。 お兄ちゃんが、どれだけ頑張っているのか、どれだけ強くなろうとしているのか……」


 その言葉に、アルトはしばらく言葉を失った。

 ミアの素直な言葉が、自分の胸に深く響いた。

 今まで感じていた妹との距離が少しずつ縮まっていくのを感じた。


「ありがとう、ミア。 僕も……ずっと頑張ってきたけど、君に認めてもらえるなんて思ってもいなかったよ」


 アルトは笑顔を浮かべ、妹の気持ちをしっかりと受け止めた。

 ミアも少しだけ微笑み返し、緊張した空気が少し和らいだ。



 ----


 朝食が終わり、ミアはアルトに提案した。


「お兄ちゃん、裏庭で魔法の練習をしているんでしょ? 今日、一緒に見ていい?」


 その申し出に、アルトは驚いた。

 今まで、ミアが自分の魔法の練習に興味を示すことはなかった。

 いつも一人でコツコツと練習していたのに、今日は妹が見学したいと言ってくれることが、何となく不思議だった。


「もちろん、いいよ」


 アルトは少し照れながら答えた。

 彼が妹の前で魔法の練習を見せるのは初めてだ。

 自分の努力を見せることで、少しでも彼女に認めてもらえるかもしれないという期待もあった。


 裏庭に出ると、アルトはいつものように深呼吸をし、手のひらに魔力を集中させた。

 光の魔法から始め、徐々に大きな火球を作り出す。

 ミアは少し離れた場所で、真剣な眼差しで兄の動きをじっと見つめていた。


「お兄ちゃん……すごい……」


 ミアは小さな声で呟いた。

 アルトが懸命に魔法を扱い、集中力を保ちながら練習を続けている姿は、彼女にとって新鮮だった。

 今まで、こんなに真剣に何かに取り組んでいる兄の姿を見たことがなかったからだ。


 アルトは妹が見ていることを感じながら、さらに集中力を高めていった。

 彼女に自分の努力を認めてもらいたい。

 その思いが、彼をさらに前進させていた。


「お兄ちゃん、本当にすごい……」


 ミアの言葉に、アルトはほっとした。

 自分がこれまで積み重ねてきた努力が、ようやく妹にも伝わったのだという喜びが胸に広がった。



 ----


練習を終えて家に戻ると、玄関から母親の声が聞こえてきた。


「ええ、はい……アルトもいますよ。 どうぞお入りください」


 何かの来客らしい。

 アルトは少し不安な気持ちで玄関へ向かったが、そこに立っていたのは予想外の人物だった。


 ジークと、その両親だった。


 ジークは昨日の出来事があったせいか、いつもの威圧的な態度は影を潜めていた。

 彼の両親も、深刻そうな顔をしている。

 アルトは一瞬ビクッとし、体が硬直したが、母親の表情が穏やかなことに気づき、少しだけ安堵した。


「アルト……昨日は本当に申し訳なかった」


 最初に口を開いたのはジークの父親だった。

 彼は深々と頭を下げ、謝罪の言葉を続けた。


「息子が君に、そして君の家族に迷惑をかけたこと、本当に申し訳なく思っている。 ジークも自分の過ちを認め、謝罪したいとここに来た」


 ジークは、気まずそうに頭を下げながら、アルトに向かって言葉を絞り出した。


「……昨日は、すまなかった。 俺……調子に乗ってたんだ。 もうあんなことはしない……本当に、悪かった……」


 その言葉に、アルトは驚いた。

 ジークが謝るなんて、今まで想像もしていなかった。

 普段は威圧的で、他人を見下しているような彼が、こうして自分に謝罪していることが信じられなかった。


「……わかったよ。 もう気にしてない」


 アルトは、震える声で返事をした。

 まだ心の中で恐怖や不安が残っていたが、それでもジークの謝罪を受け入れることができた。


 ジークの両親も、もう一度深く頭を下げ、感謝の言葉を伝えた。


「息子を許してくれてありがとう。 アルト君、君は本当に強い子だね。 どうかこれからも、息子と良い関係を築いてくれたら嬉しい」


 その言葉に、アルトは小さく頷き、緊張したままジークとその家族を見送った。

 彼の心にはまだ不安が残っていたが、少しずつ自分が強くなれていることを感じ始めていた。


 家族が自分を認めてくれていること、そして、昨日の出来事を通じて自分自身も成長していることが実感として湧いてきたのだ。



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 ジーク許すとか人が良すぎでしょ……私なら絶対許さないわ、絶対に。

 慰謝料なりなんなり絞れるだけ絞ったればよかったのに。


 ってか、箸文化なんすねこの世界w

 中世ヨーロッパくらいの世界観だったから、スプーンとか使ってるのかと思ってたのにw

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