第16話:危機2

 朧月:「第16話:危機2」を8000字以内で執筆してください。

 アルト視点に戻ります。

 第15話の裏の話で、アルトが偶然妹と幼馴染を発見し、ジークに絡まれるのを見てしまう。

 ジークを撃退するまでがとても長く感じ、魔法を発するまでに様々なことを思い返し、考える。

 力強く届いたセリアの言葉に奮起し、初めての火魔法を発動する。

 倒れるまでの時間が長く感じ、幼馴染の声を遠くに聞こえながらゆっくりと視界が暗転していった。



 ☆----☆


 夕暮れ時、アルトは裏庭での魔法の練習を終え、町の通りをぼんやりと歩いていた。

 最近、少しずつ魔法の扱いに慣れてきた自分を誇らしく思う反面、内心ではまだ自信が持てずにいた。

 光の魔法こそ成功していたが、それはあくまで小さな進歩であり、まだ本当の力を引き出せていないことは自分でも分かっていた。


「僕は……このままでいいのか?」


 ふとした瞬間に、そんな不安が心をよぎる。

 自分は成長しているのか、それともただ進歩しているように見えるだけなのか。

 内向的で、行動に自信を持てない自分がこの先どんな力を発揮できるのか、アルトにはまだ確信が持てなかった。


 歩いていると、少し離れた先に妹のミアと、幼馴染のカレンの姿が見えた。

 二人は市場で買い物を楽しんだ帰りのようで、笑顔で何かを話している。

 ミアの笑顔を見るのは久しぶりだったが、それがなぜか遠く感じられた。


「ミアもカレンも、僕なんかよりずっと強い……」


 アルトは少し俯きながら、遠巻きに二人を見つめていた。

 妹に対する劣等感はずっと心の中にあり、それが彼の自信を奪い続けてきた。

 幼い頃からミアは明るく、活発で、誰とでも仲良くなれる性格だった。

 それに比べて、アルトはいつも引っ込み思案で、自分から行動を起こすことができなかった。


「でも……僕も変わらなきゃいけないんだ」


 そんな思いを抱えながらも、アルトは一歩を踏み出せずにいた。

 いつも、自分の中で何かが引き止める。

 それが何なのか、彼にはまだよくわかっていなかった。


 その時だった。

 遠くから声が聞こえてきた。

 ミアとカレンが立ち止まり、何かを話しているようだ。

 しかし、もう一つの声が混じっていた。

 それは、アルトが嫌いな男、ジークの声だった。


「ジーク……なんであいつがここに?」


 アルトの胸に冷たい不安が広がった。

 ジークは、昔からアルトをからかってくる悪名高い男だ。

 彼は暴力を振るうわけではないが、口が悪く、相手を貶めることに喜びを感じているかのような態度をとる。

 アルトは何度もジークに言い返せず、ただ耐え続けてきた。


 遠くから見ていると、ジークがミアに近づき、彼女の腕を掴んでいるのがわかった。


「やめろ……」


 アルトは思わずそう呟いたが、声は小さく、誰にも届かなかった。

 自分がこの場にいることを知らせたいが、体が動かない。

 ジークが何をするつもりなのか、ミアに何を言っているのか、遠すぎて聞こえないが、確かに彼女は怯えている。


「やめろ……ジーク!」


 今度はもう少し大きな声が出たが、まだ二人には届いていない。

 アルトの胸の中で焦りが募り、体が一瞬にして熱くなった。

 何かしなければならない。

 ミアが危ない。

 でも、どうすればいい?


「僕には……僕には、まだそんな力が……」


 足がすくんで動けない。

 恐怖がアルトの体を縛りつけていた。

 ジークがまた誰かを傷つけるのを見ているだけなのか。

 自分は、また何もできないまま見過ごすのか。


 その時、心の中でセリアの声が響いた。


『アルト、何をしているのですか? あなたには力がある。 迷っている時間はありません。 大切な人を守るために、その力を使うのです!』


 セリアの声は、いつもより強く、まるで自分を叱咤するかのようだった。

 彼女は傍にいる。

 自分を信じ、支えてくれている。

 それに応えなければならない。


「……僕に、力が……」


 アルトは自分の手を見つめた。

 魔力がそこに集まり始めているのを感じた。

 今までは光の魔法しか使えなかったが、今度は違う。

 何かが自分の中で変わろうとしているのがわかる。

 もっと強い力が必要だ。

 それでなければ、ミアを守ることができない。


「ジークを止めなきゃ……僕が……」


 アルトの胸の中に、今まで感じたことのない怒りが渦巻いていた。

 ジークがまた人を傷つけようとしている。

 そして、それが自分の家族であるミアだという事実が、彼の心に強く訴えかけてきた。


「僕が、守るんだ……!」


 アルトは両手を前に突き出し、心の中で強く念じた。

 魔力が体中に流れ込み、手のひらに集まっていく。

 セリアの言葉が胸に響き続けていた。


『恐れずに、自分の力を信じて!』


 その瞬間、アルトの手から燃え上がるような熱が一気に広がった。

 まるで炎が自分の内側から噴き出してくるかのような感覚があり、手のひらから巨大な火が解き放たれた。

 それは、まるで怒りを具現化したかのような荒々しい炎だった。


「ジーク、放せ!」


 アルトが叫ぶと同時に、その炎はジークに向かって一直線に突き進んだ。

 まるで燃え盛る大蛇が襲いかかるように、炎は激しくうねり、熱風を伴いながらジークの目の前で爆発的に広がった。


「な、なんだ!?」


 ジークは驚き、すぐにミアの手を放して後ずさった。

 炎は彼に直接当たることはなかったが、その熱気と衝撃に彼は怯え、後退した。


「アルト、お前……!」


 ジークは言葉を失い、その場から慌てて逃げ出した。



 ----


 アルトは力を出し切った瞬間、全身の力が一気に抜けていくのを感じた。

 視界がぐらつき、体が重くなっていく。

 まるで体全体が石のように重くなり、自分の意志では動かせなくなっていく。


「ミア……カレン……」


 遠くで二人の声が聞こえる。

 だが、その声は次第に遠くなり、耳に届かなくなっていった。

 目の前の光景がぼやけ、やがて黒い闇に包まれていく。


「……ごめん……」


 アルトはそう呟きながら、その場に倒れ込んだ。

 倒れるまでの時間が、まるで何かに引き伸ばされたかのように感じられた。

 地面に落ちていく感覚が、通常よりも長く、ゆっくりと進んでいるようだった。


 視界の端で、カレンが駆け寄ってくるのが見えた。

 彼女の口が動いているが、声は聞こえない。

 カレンが何かを叫び、必死にアルトに語りかけている姿が、遠くの世界の出来事のように感じられた。


「アルト、目を覚まして! アルト!」


 彼女の声が遠くで聞こえる。

 しかし、その声がだんだんと薄れていき、次第に完全な静寂がアルトを包み込んだ。

 体中の力が抜け落ちていき、意識が暗闇の中に沈んでいく。


「僕は……守れたのかな……」


 その最後の疑問を胸に、アルトの意識は完全に闇に落ちていった。



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 前話から文字数増やすよう要求してみてますが、全然増えてないですね。

 予約投稿時に初めて気が付きました……何文字以上っていう要求をしないと駄目ってことですかね?


 前話と読み比べると炎が放たれるタイミングが違いますが、まぁ些細なことでしょう。

 ……たぶん。

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